生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
4 / 95
旦那様とお買い物

3ー2

しおりを挟む
 旦那様と一緒に市場の近くまで行くと、華やかしい光景に自然と笑顔になります。
 馬車の中で見るより輝いて見えて、眩しいです。

 市場には反物や装身具が置かれ、食べ物だとお団子や果物などがあるようです。

 今はお昼少し前、旦那様と一緒にお昼ご飯などを食べられるでしょうか。
 でも、旦那様は人の前では食べ物を口にしません。やはり、駄目かもしれませんね……。

 市場を一緒に見て回れるだけでも嬉しいので、どちらにしてもにやけは止まりません。

 ――――はっ、い、いえ、駄目よ、だめだめ。
 旦那様の隣を歩くのだから、だらしない顔を浮かべてはだめなのです。
 耐えるのよ、華鈴。

「先ほどから百面相を浮かべて、何かあったか?」

「い、いえ。嬉しかったため、だらしない顔を浮かべないようにと……」

 鞄を肘にかけ、右手で自身の頬を抑えていると、旦那様はなぜか微笑み、顔を近づかせてきましっ──へっ?!

 い、いきなりどうしたのでしょう。

「どのような顔でもぬしは美しく、愛おしいぞ。だから、我慢しなくてよい、すべてを我に見せろ」

 ドキッ

 や、やばいです。胸が締め付けられます。
 嬉しさと緊張と恥ずかしさで、息が上手く出来ません。自分の心音が脳に響いています。

 どうか、旦那様には聞こえておりませんように――……

「おや、七氏様!! 今日はどのようなものをお探しで?」

 突如、横から明るい男性の声で、旦那様を呼ぶお方が近づいてきました。

「お、狸か」

 あっ……。旦那様の手が私の頬から離れてしまいました。
 でも、左手はしっかりと握ってくださっております。

 …………むぅ、仕方がないのです、我慢しなさい華鈴。
 これ以上は私が持ちません、物足りないような気もしますが我慢です。

 私と目が合った狸さんの頭には丸い耳、太く丸い尾が緊張でなのでしょうか、カチーンとまっすぐと伸びきっております。

 その反応、声をかけるタイミングを間違えたと、そう自覚をしたのですね。
 むぅ、今回のことは仕方がないので許してあげますよ。

「今日は特に目的があるわけではなく、嫁と共に遊びに来ただけだ。おすすめなどはあるか?」

「で、でででで、でしたら、素敵な反物をお嬢が仕入れたらしいですよ! 奥様にお似合いなものがあるかもですので、もしよかったら!」

 冷や汗が流れております。そんなに私は怖い顔をしていたでしょうか。
 少々、目つきは鋭くなってしまったかもしれませんが……。

「ふむ、そうか、それなら見に行こう。お前さんがお嬢と呼ぶという事は、あそこか」

「あそこでございます。では、逢瀬をお楽しみください」

 腰を折り、私達を見送る狸さん。
 私は手を振ったあと、旦那様と離れないようについて行きます。

 市場の通りに入ると、人がどんどん増えて旦那様とはぐれないか怖くなってきました。
 手は繋いでおりますが、それでも不安になってしまいます……。

「さすがに、人が多くなってきたな」

「そうですね、はぐれてしまわれないか不安になります」

「そうだなぁ、我も怖い。だから、繋ぎ方を変えようぞ」

 あっ、繋ぎ方、変わりました。
 指を絡める繋ぎ方、恋人繋ぎと呼ばれている繋ぎ方です。

「どうした?」

「い、いえ。その、嬉しくて……」

「はっはっ!! ぬしは我の行動一つ一つに喜びを得るなぁ」

「い、嫌ですか? 軽い女だと、思われてしまいましたか?」

 確かに、私は旦那様一つ一つの行動で喜んだり、妬いたりと。感情の起伏きふくが激しくなってしまいます。

 それを旦那様は、めんどくさいと思ってしまいましたでしょうか。

「いーや、愛されているなと思ってな。我も同じ気持ちだぞ、だから安心せい」

 っ! もう! またしても、私を喜ばせてくれます、私の旦那様は。

「お、ここだ。我がいつも世話になっている反物屋」

「ここ、ですか?」

 目の前には、色鮮やかな反物がお店を飾るように置かれています。

 薄紅色、深緑色などの一色な物もあれば、麻の葉あさのは柄や矢絣やがすり柄など。和風柄もたくさん取り揃えられてあります。

「おい、のっぺらぼう。来たぞー」

「はぁい、もうそろそろで来るかなと思いましたよ、七氏様」

 旦那様が奥に声をかけると、一人の女性が着物姿でこちらに歩いてきました。

 その人には顔がなく、黒髪を赤い簪でまとめている女性です。
 赤い着物を身に纏い、白い羽織を肩にかけております。

 顔が無くても、佇まいだけで綺麗なお方だとなんとなくわかります。
 頬が赤く染まっており、可愛いお方です。

「今日は新作が入ったと狸が言っていたが、どんなものが入ったんだ?」

「そうでしたか! わざわざ足をお運び頂きありがとうございます。もしかしてですが、隣におりますのが、いつもお話をしてくださいます奥方様ですか?」

「そうだ、自慢の嫁だぞ」

 っ!! 前触れもなく、肩を抱き寄せられました。しかも、旦那様の逞しくも美しい腕が私の肩に回されております。

 は、恥ずかしいけど、嬉しい。
 でも、やっぱり恥ずかしいです!

「ふふっ。仲良しですね、可愛い」

「そうだろう? 当たり前だ」

 二人が私を見て、そのようなお話をしております。

 そ、そんなことを本人の前で言わないでください! 恥ずかしいです!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...