生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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七氏と巫女の出会い

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 屋敷に引き戻された我は、父上の後ろを付いて行き縁側に移動した。

 我の住む屋敷の縁側は濡れ縁ぬれえんと呼ばれる作りとなっている。

 吹き抜けとなっておるから、雨の日などは悲惨だ。
 次の日、女中達が頑張って水を箒ではいたり、雑巾で拭いてくれておる。

 そんな所へ移動すると父上は「ちょっと待っておれ」と、我を一人残し姿を消してしまった。
 今の父上の声が低く、怒気が含まれておったから何も言えない。素直に頷くしかなかったぞ……。

「…………ふぅ」

 縁側は、父上がこだわりを見せたようで、ものすごく綺麗な景色が作り出されていた。

 縁側から見えるのは、梅の木やツヅジが植えられており緑。目に優しく、どことなく安心する。

 そんな景色の中には、鯉が優雅に泳いでいる小池が月の光を反射している。
 雫がポチャンと落ちると波紋が広がると、なんんだろうか、心が躍るぞ。

 ずっと見ていても飽きない、父上の自慢の庭だ。
 縁側に腰を下ろし足を投げ、父上が戻ってくるのを待っていると、思ったより早くに戻ってきた。

「父上、一体何をっ――これは?」

「団子と茶だ。これから飲むぞ」

 ズイッと、我の目の前に差し出されたのは、お盆の上に乗っている串の刺さった団子と湯呑。

 我がお盆を受け取ると、もう片方の手に持っていたであろう酒の瓶とおちょこを見せてきた。
 しかも、先ほどの怒気はどこ行ったのかと問いかけたくなるような笑顔で。

 飲む気満々だな、父上。母上に怒られぬ程度に抑えてくれよ。
 我は、もう父上からの怒りを受けただけで精いっぱいだ。

 ちなみに、我は先程。屋敷に入る前に滾々と父上に怒られていた。
 一時間の説教は、我でもさすがに堪えたぞ……。

 そんなに怒っていた父上は今、気分がよさそうな顔で瓶を開け、おちょこに注いでいる。楽しそうで何よりだ。

「ふぅ、早くぬしも酒の味がわかるようになると良いな。ワシとの晩酌を楽しめるぞ」

「年齢的にはもう飲めるはずですよ。ただ、母上と父上が許してくださらないだけではないですか」

「ワシはもう良いとは思っておるが、氷璃が許してくれんからなぁ」

 ほんのり頬を赤くしながら愉快そうに笑う父上。
 絶対、貴方も許してはくれていないでしょう、母上のせいだけにしないでください。

 ため息をきながらお茶を一口、飲む。
 飲みやすさの温度で入れてくださったのか、体がほんのりと温まる。

 ホッと一息ついていると、父上が酒を飲みながら問いかけてきた。

「体の方は本当に大丈夫だろうな? 見たところ問題はないように見えるが」

「はい、父上の一時間の説教にも耐えられるくらいには回復しております」

「それなら良かった。それでだが、七氏は自身の容姿について気にしていたようだが、それは今もか?」

 っ、そんな……。
 いや、父上は確かに物事を隠さず普段も話しておるが、今回もかぁ。
 むむむっ。そのように問いかけられると、どうしても考えてしまう。

 父上や母上、女中達は我の容姿について何も思っていないかもしれん。だが、他の者はどうだろうか。

 我は一人息子だ。今はまだまだ未熟だとしても、これから偉大なる父上の後を継ぐこととなるだろう。
 そうなれば現代へ行くことも増え、あやかしの世界でも様々な場所に出向かなければならんくなる。

 我の顔のせいでよい印象を持たれなくなってしまった場合、今まで父上が頑張って築いて来た信頼や実績が無駄となる。

 そうなってしまった場合、我は、我を許せない。
 父上と母上の努力を無駄にすることだけは、絶対に嫌なのだ。

「そこまで気にしなくても良い」

「―――――ん?」

 い、いきなりどうしたというのだ、父上。
 まるで、我の心中を覗いていたようなタイミングと言葉……。

「代替わりをした場合、元主より現主が優先される。主が絶対、何よりも優先されるのだ」

 主が絶対……。
 そんな主が我のような傷物では、今までの絆が……。

「それにな、七氏よ。ワシは、ぬしの顔の傷だけで信頼を失うような者達を近くに置いたりなどせんぞ。どんなことがあろうと離れず、最後まで共に進んでくれる。そのような者達しか、ワシらの近くにはおらん。だから、今までワシが築いてきた信頼が崩れるかもしれぬなどといった心配は無用だ」

 父上の自信に満ち溢れている瞳、口調。
 それだけで安心出来る、出来てしまう。

 父上の今の言葉は嘘では無いと、我を励まそうとしているだけでは無いと、そう思わせる言葉だ。

「それでも、ぬしのことを悪く言う者がいるのなら言え、必ず対処してやろう。それが、ワシ父親の仕事だ」

 父上が我の頭に手を伸ばし、ポンポンと優しく撫でた。
 その温もりで、重く苦しかった心が軽くなる。

 ――――だが、だがな? 父上。
 我は気づいておりますよ、父上。

「父上」

「む? なんだ?」

「我、そのような事を口には出しておりません。なぜ、我の葛藤を知る事が出来たのか、少々詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 父上の方を向きながら問いかけると、何故か父上は顔を真っ青にしそっぽを向いてしまった。

 ――ほう、顔を逸らしましたね、父上。

「なぜでしょう、父上。なぜ、我から顔を逸らすのでしょう。なぜ、逃げようとしているのでしょう。なぜ、顔を青くしているのでしょう。ねぇ、早く答えてくださいよ、父上」

 徐々に我から距離を置こうとする父上の腕を掴む。
 絶対に、逃がしませんよ。

「父上、さぁ、早くお答えください。我の心中をお読みになったと。本人の許可を得る事をせず、勝手にお読みになったと。早く言ってください、父上?」

「ま、待て待て。辺りが急に寒くなってきたぞ? ぬし、氷璃の妖術を引き継いではおるが、まだうまく扱えておらんはずだろう? ほ、ほら、力を暴走させてはまずい。その怒りを抑えるのだ! な? なっ?!」

「そうですね、怒りで力を暴走させるのは駄目だとは思います、父上」

「そうであろう? ならっ――」

 安堵の息を吐く父上、今ので我の怒りが収まるとでも思っておるのか?

「ですが、父上。勝手に人の心を読むのも本来はしてはいけない事だと思いませんか? 父上はどのようにお考えでしょうか、どのように考え我の心中をお読みになったのでしょうか。我が納得できる理由があるのでしょうね?」

「そ、それは、その。なんとなく……」

「ほう、なんとなくで父上は我の心中をお読みになったと?」

「ス、スイマセンデシタ」

 父上に顔を寄せ無理やり約束をさせた。次からは絶対に許可がない限り、心中を読まないと。
 破れば、いくら父上でも我は許さぬからな。
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