生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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旦那様と熱

10ー1

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 旦那様と二口女さんと共に唐揚げを練習してから数週間が経ちました。

 様々な料理を作れるように日々鍛錬をしていたのですが、今日は出来ません。その理由は、体調不良です。

「こほっ、けほっ」

 やってしまいました。
 私は、やってしまったのです。

「熱が高いですね、今日は絶対に安静でお願いしますね」

「ありがとうございます。こほっ、ご迷惑をおかけしてしまい、すいません……」

 布団で寝ている私の隣には、眉を下げ心配してくださっている二口女さん。
 私の額に手を当て、熱を確認してくださいます。

 …………険しい顔を浮かべてしまいました……。
 そ、そんなに熱が高いのですか?

 確かに頭痛は酷く、関節も痛い。
 眩暈までしているので熱は確実にあるなとは思っていましたが……。

「七氏様には私から伝えさせていただきますね。なにかあればなんなりとお呼びください。私以外の女中にも伝えさせていただきますので」

「すいません………」

「謝らないでください。今は、自身のお体を一番に」

 私のおでこに冷たいタオルを乗せ、二口女さんが笑いかけてくださいました。
 そのまま部屋から居なくなる。

 一人だけ残された部屋、窓が少しだけ開いているのでそよ風が入ってきます。
 心地の良い風が暑くなった顔を撫でてくれるので、気持ちがいいです。

 ……うぅ、気持ちは良くても、頭が痛いのは治まりません。
 熱を出してしまったのはいつぶりでしょうか。

 巫女の仕事をしている時は、なぜか熱は出ませんでしたし……。
 何度か栄養失調で倒れてはいましたが……アハハ……。

 ――――あ、でも。まだ母親が居た時も、確か熱を出していたはず。その時も部屋で一人、取り残されていましたね。

 あの頃は一人が当たり前でしたので、特に気にしませんでした。
 わざと一人にしているのも分かっていましたし……。

 ですが、今は数多くの方が私とお話をしてくださいます。私に接してくださいます。
 旦那様は、私にもったいないくらいの幸せを沢山送ってくださいます。

 なので、このように一人になる時間は少なかった。
 ……いえ、ありませんでした。

 毎日が楽しく、幸せな日々。
 ……………………うぅ、熱の時は人の温もりを欲しがるとは聞きますが、本当だったようです。

 普段はお仕事の邪魔をしないように我慢も出来ます。
 ですが、ものすごく寂しいです。

 寂しいのです、旦那様。
 旦那様の温もりを感じたい、声を聞きたい。
 ギュッと、抱きしめていただきたい。

 …………寝ましょう。今は、寝るしか出来ません。
 旦那様に迷惑をかける訳にはいきません。

 寝て、早く治します。

 ※

 部屋で仕事をしていると、二口女がやってきて華鈴が熱を出したと聞かされた。
 すぐに向かおうとすると、今は寝ていると思いますと言われ止められる。

「大丈夫なのか。華鈴は、苦しがってないか? 一人で大丈夫なのか、苦しんでいないか?!」

「落ち着いてください、七氏様。同じことを二回も聞いております」

 むむむ……。
 落ち着いてと言われても、華鈴が心配で仕事も手に付かぬぞ。

 やはり、少しだけでも見に行っては駄目だろうか。
 もしかしたら寂しがっているかもしれない。

「奥様の部屋の前にはろくろっ首が待機しております。何かあればすぐに対応してくださるでしょう。なので、七氏様はご心配しなくても大丈夫です。それに、今日は現代へ行かなければならなかったのでは?」

「むっ、そうだった…………」

 今日は、現代を取り締まっている人間の長と会わなければならんのだった。
 月に一度、人間世界を取り締まっている"人間の長"と会うのも、あやかしの長としての仕事。

 お互いの近況報告をしなければならん。
 ならんのだが、人間の長は酒が入ると我を離してくれんくなるのだ。

 酒はそこまで強くないくせに大好き。
 酔ってしまうと幼児化するから、本当に毎度大変である。

 今日だけは早くに帰してはもらえないだろうか――――無理だな。

 重要な話を終わらせたあと、必ず酒に付き合わされる。
 断ってしまったことで機嫌損ねてしまったら、今まで築いてきた信頼が全て崩れてしまう。

「――――お時間です。奥様については私達にお任せください。七氏様は自身の責務を全うしてください」

「…………あぁ、任せたぞ、二口女」

「はい、旦那様もお気を付けて」

 女中が準備した外出用の着物に着換え、見送られながら馬車へと乗り込む。
 神木を潜り、いつものように現代へと向かった。

「……ふぅ、早く向かわねば……っ?」

 現代の地面を踏みしめると、頬に雫が当たる。

「…………雨か?」

 空を見上げると、暗雲が立ち込め雨を降らせておる。
 手で雫を受け止めていると、前方の木がカサカサと揺れ始めた。

「――お出迎え、感謝致します」

「いやいや、こちらこそですよ、あやかしの長、七氏様」

 胡散臭い男性。それが彼への第一印象だったなぁ。

 人間の長は、あやかしの世界とは比べられないほどの広い世界を束ね、神と呼ばれている存在。
 見た目はただの青年、名は神空しんくうチガヤさん。

 貴族のような白い服を身に纏い、本を持っている右手の袖は捲り、左の袖は手が隠れるほどの長さはある。
 耳が少し出るくらいの水色の短髪に、黒い縁眼鏡をかけている。

 眼鏡の奥から覗く深緑色の瞳は、我を真っすぐと見つめてくる。

「では、今回もよろしくお願いしますね。楽しく飲みましょうか」

「……………………はい」

 今回も、やはりすぐには帰してもらえなさそうだな……はぁ。
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