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旦那様と許嫁……?
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「何を騒いでいるのですか、静稀」
「お母さま!!」
はぁ、やっと我から離れてくれた。
屋敷から出て来た女性は、今の猫花家の主、名は確か――――雫様。
茶髪を後ろでお団子にし、凛々しい立ち居振る舞い。
藍色を主体とした着物は、金糸雀色を主体としている静稀の着物と対象的だ。
全体的にまとまりがあり、一つ一つの振る舞いが凛々しく、こっちまで気を引きしめられてしまう。
ただ、一つだけ浮いているものがある。
首に付けられている首飾り。
雫の形をしている首飾りだけは、なぜか浮いているな。
なんだか、違和感を感じる。
────っ?
な、なんだな、父上を見る目が、ものすごく冷たい気がするのは、我だけだろうか。
父上は変わらずニコニコと、笑顔を浮かべている。挑発しておるのか?
「手紙に書かれていたので、まさかとは思いましたが……。今回お呼びしたのは七氏様お一人だけだったかと思いますよ。九尾様」
まぁ、そうだろうなぁ。
父上がいると、上手く我を落とすことができんからな。
我は、そのおかげで今回も助かったのだが……。
「人数制限の記載はなかったと思うが? 宴は人数が多い方がよかろうと思ったまでよ」
「相変わらず自分勝手ですね」
「なんだぁ? まさか、ここまで来た七氏の父を追い払うのか? そんな、薄情な事をする家なのか?」
わざとらしいな、父上よ。
口元、笑いが隠しきれておらんぞ。
「…………わかりました。お食事は多めに準備しておりますので、ご参加ください」
渋々だけれど、父上の参加は了承してくれたみたいだ。
頭を下げ、すぐに背中を向け屋敷の中へと戻ろうとする。
「どうぞ。くれぐれも余計な事はせぬようにお願いいたします」
屋敷に入る直前、視線だけをこちらに向け、雫様が父上に言い放つ。
うぅ……。怖い。女性の怒りは、やはり、怖い。
氷より冷たい視線、殺気。向けられていない我でも鳥肌が立つぞ。
…………父上は普通に「はーい」と余裕そうに返事をしておる。
おかしいぞ、殺気を向けられているのは父上のはず。
なぜ、向けられていない我の方が恐怖心を抱いておるのだ?
「行くぞ、七氏」
肩に手を置き、父上が我を歩かせる。
ちゃっかり、静稀から離してくれておるのはありがたい。
静樹からの視線は痛いが、こればっかりは父上に従おう。
父上は、いつも飄々としており掴みどころがない。
時折、何を考えているのかも分からず、こっちが困る。
だが、そんな父上でも、母上と我のことをしっかりと見て、助けてくれる。
しかも、さりげなく。相手に気を使わせないようにだ。
そういう男はモテると聞いた。
父上が昔、女性にモテていたのは、見た目だけではないということか??
じ~と父上を見上げながら歩いていると、視線に気づいてしまったのか、父上がこっちを向いた。
「どうした、七氏」
「いえ…………」
今の考えをそのまま父上に伝えるのは、少々気恥しい。
顔を逸らすと、首を傾げた父上が「おっ!」と、手を打った。
「そうか、七氏も酒を楽しみにしておるのだな。ワシも酒が何よりも楽しみだ。どんなものが用意されておるのか、涎が出るぞ」
だらしない顔を浮かべている父上………。
本当に、あやかしの中の頂点に立つものなのかと疑ってしまう顔だ。
「はぁ……」
「ん? 何をため息を吐いておる?」
「なんでもありません」
さっきまで父上を尊敬していたというのに、今の言葉で全てが崩れ落ちたぞ。
これがなければ、心から自慢の父上だと言えるのに……。
ため息を吐きながら前を歩く二人を着いていく。
父から目を離し、改めて廊下を見回してみるが、本当に花が好きなんだなと思ってしまう。
生け花が等間隔で綺麗に飾られているからな。
何の花だろうか、種類までは分からぬな。
だが、綺麗だ。
我の屋敷にも花を飾ろうか。華鈴はきっと、喜んでくれる。
造花だから匂いも気にせんし、手入れもしなくていいだろう。
うむ、今度二口女にでも相談してみよう。
屋敷の廊下は、掃除も行き届いており、さすが猫花家と称賛してしまう。
そんな事を考えている途中、前を歩く二人が我らに聞こえないように顔を近づかせ、何かを話し合っていた。
それには父上も気づいているらしく、目を細めている。
(「父上、あれは…………」)
(「ふむ。何かを企んでいるのは明らか。油断するなよ?」)
やはりか。
…………好いてくれているのは喜ばしいことだ。
出来れば、お礼を伝えたい。
だが、それを言ってしまうと、気持ちを受け入れられたと勘違いしてしまう可能性がある為、何も言えず流す事しかできん。
心苦しいが、我にはもう何よりも大事な妻、華鈴がおる。
少しでも勘違いはしてほしくはない。
少し歩くと、前を歩いていた雫様が足を止めた。
「ここが、今回の宴会場となります」
「そうかそうか。それなら、中へと入ろうかのぉ」
「お待ちください」
? 中に入ろうとした父上を止め、何故か我の隣に移動してくる静稀。
な、なんだ?
「席を事前に決めておりまして、今回は七氏様は静稀の隣となります」
「ほう、それで?」
「今のお召し物では、少々華やかに着飾った静稀の隣に座られるのには抵抗があります。なので、静稀と共にお色直しをお願いします」
え、それって…………。
「それなら、ワシもついて行こう。こういうのには父親目線も取り入れて――――」
────ガシッ
「九尾様は私と共に先に会場入りをお願いします。挨拶などもありますので」
…………なるほど。
二人っきりにしたいという訳か。
お色直しは、あくまで口実か。
────っ、静稀が腕に抱き着いて来た。
「行きましょう、七氏様。私が飛びっきりの素敵な着物を選んで差し上げるわ」
「…………わかった」
父上は心配そうに我を見ているが、豪に入れば郷に従え。ここで逆らえばまた何を言われてしまうかわからん。
変に動いてもここでは身動きが取れなくなっていくだけ。
従う所では、従わないとな。
そのまま、静稀に連れられたため、父上と離れた。
「お母さま!!」
はぁ、やっと我から離れてくれた。
屋敷から出て来た女性は、今の猫花家の主、名は確か――――雫様。
茶髪を後ろでお団子にし、凛々しい立ち居振る舞い。
藍色を主体とした着物は、金糸雀色を主体としている静稀の着物と対象的だ。
全体的にまとまりがあり、一つ一つの振る舞いが凛々しく、こっちまで気を引きしめられてしまう。
ただ、一つだけ浮いているものがある。
首に付けられている首飾り。
雫の形をしている首飾りだけは、なぜか浮いているな。
なんだか、違和感を感じる。
────っ?
な、なんだな、父上を見る目が、ものすごく冷たい気がするのは、我だけだろうか。
父上は変わらずニコニコと、笑顔を浮かべている。挑発しておるのか?
「手紙に書かれていたので、まさかとは思いましたが……。今回お呼びしたのは七氏様お一人だけだったかと思いますよ。九尾様」
まぁ、そうだろうなぁ。
父上がいると、上手く我を落とすことができんからな。
我は、そのおかげで今回も助かったのだが……。
「人数制限の記載はなかったと思うが? 宴は人数が多い方がよかろうと思ったまでよ」
「相変わらず自分勝手ですね」
「なんだぁ? まさか、ここまで来た七氏の父を追い払うのか? そんな、薄情な事をする家なのか?」
わざとらしいな、父上よ。
口元、笑いが隠しきれておらんぞ。
「…………わかりました。お食事は多めに準備しておりますので、ご参加ください」
渋々だけれど、父上の参加は了承してくれたみたいだ。
頭を下げ、すぐに背中を向け屋敷の中へと戻ろうとする。
「どうぞ。くれぐれも余計な事はせぬようにお願いいたします」
屋敷に入る直前、視線だけをこちらに向け、雫様が父上に言い放つ。
うぅ……。怖い。女性の怒りは、やはり、怖い。
氷より冷たい視線、殺気。向けられていない我でも鳥肌が立つぞ。
…………父上は普通に「はーい」と余裕そうに返事をしておる。
おかしいぞ、殺気を向けられているのは父上のはず。
なぜ、向けられていない我の方が恐怖心を抱いておるのだ?
「行くぞ、七氏」
肩に手を置き、父上が我を歩かせる。
ちゃっかり、静稀から離してくれておるのはありがたい。
静樹からの視線は痛いが、こればっかりは父上に従おう。
父上は、いつも飄々としており掴みどころがない。
時折、何を考えているのかも分からず、こっちが困る。
だが、そんな父上でも、母上と我のことをしっかりと見て、助けてくれる。
しかも、さりげなく。相手に気を使わせないようにだ。
そういう男はモテると聞いた。
父上が昔、女性にモテていたのは、見た目だけではないということか??
じ~と父上を見上げながら歩いていると、視線に気づいてしまったのか、父上がこっちを向いた。
「どうした、七氏」
「いえ…………」
今の考えをそのまま父上に伝えるのは、少々気恥しい。
顔を逸らすと、首を傾げた父上が「おっ!」と、手を打った。
「そうか、七氏も酒を楽しみにしておるのだな。ワシも酒が何よりも楽しみだ。どんなものが用意されておるのか、涎が出るぞ」
だらしない顔を浮かべている父上………。
本当に、あやかしの中の頂点に立つものなのかと疑ってしまう顔だ。
「はぁ……」
「ん? 何をため息を吐いておる?」
「なんでもありません」
さっきまで父上を尊敬していたというのに、今の言葉で全てが崩れ落ちたぞ。
これがなければ、心から自慢の父上だと言えるのに……。
ため息を吐きながら前を歩く二人を着いていく。
父から目を離し、改めて廊下を見回してみるが、本当に花が好きなんだなと思ってしまう。
生け花が等間隔で綺麗に飾られているからな。
何の花だろうか、種類までは分からぬな。
だが、綺麗だ。
我の屋敷にも花を飾ろうか。華鈴はきっと、喜んでくれる。
造花だから匂いも気にせんし、手入れもしなくていいだろう。
うむ、今度二口女にでも相談してみよう。
屋敷の廊下は、掃除も行き届いており、さすが猫花家と称賛してしまう。
そんな事を考えている途中、前を歩く二人が我らに聞こえないように顔を近づかせ、何かを話し合っていた。
それには父上も気づいているらしく、目を細めている。
(「父上、あれは…………」)
(「ふむ。何かを企んでいるのは明らか。油断するなよ?」)
やはりか。
…………好いてくれているのは喜ばしいことだ。
出来れば、お礼を伝えたい。
だが、それを言ってしまうと、気持ちを受け入れられたと勘違いしてしまう可能性がある為、何も言えず流す事しかできん。
心苦しいが、我にはもう何よりも大事な妻、華鈴がおる。
少しでも勘違いはしてほしくはない。
少し歩くと、前を歩いていた雫様が足を止めた。
「ここが、今回の宴会場となります」
「そうかそうか。それなら、中へと入ろうかのぉ」
「お待ちください」
? 中に入ろうとした父上を止め、何故か我の隣に移動してくる静稀。
な、なんだ?
「席を事前に決めておりまして、今回は七氏様は静稀の隣となります」
「ほう、それで?」
「今のお召し物では、少々華やかに着飾った静稀の隣に座られるのには抵抗があります。なので、静稀と共にお色直しをお願いします」
え、それって…………。
「それなら、ワシもついて行こう。こういうのには父親目線も取り入れて――――」
────ガシッ
「九尾様は私と共に先に会場入りをお願いします。挨拶などもありますので」
…………なるほど。
二人っきりにしたいという訳か。
お色直しは、あくまで口実か。
────っ、静稀が腕に抱き着いて来た。
「行きましょう、七氏様。私が飛びっきりの素敵な着物を選んで差し上げるわ」
「…………わかった」
父上は心配そうに我を見ているが、豪に入れば郷に従え。ここで逆らえばまた何を言われてしまうかわからん。
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従う所では、従わないとな。
そのまま、静稀に連れられたため、父上と離れた。
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