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旦那様と許嫁……?
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「――――まったく、何を考えておるのだ、雫よ」
「何を怒っているのかしら。あぁ、息子を傷つけられたことを怒っているの? それは申し訳なかったわね。でも、女性に負けて傷つけられているそちらの息子にも非はあるのではなくて?」
っ、それは、そうだ。
さきほど、父上にも言われてしまった。
非道になれ、と。
「何を言っておる。実力だけであれば、七氏なら一瞬で静稀など殺せる」
「っ、そんなこと……。現に今――……」
「七氏は、ワシと違って優しいからな。まだ、非道な判断ができんのだ」
父上が、我を見る。
その目は、悲しそうにも見えるが、温かい。
親の目をしている。
「だが、それも、こやつの個性だと思い、ワシは気にしてはおらん。少々物は言うがな。だが、この娘はどうだ? 自分の欲のために牙を向け、相手を傷つけ無理やり自身のモノにしようとする。まるで、昔のぬしのようだ」
冷たい瞳で言うと、雫様が顔を真っ赤にし怒り出した。
「黙りなさい!!! やはり、貴方はいけ好かないわ。あの時、殺しておくべきだった!!」
「殺せなかったの間違いだろう」
「黙りなさい!!!」
っ、雫様が父上に爪を向けた!!
「しねぇぇぇぇえええ!!」
「父上!!」
いきなり前ぶりもなく駆けだした雫様。
我が駆けだそうとしたが、父上は指を鳴らした。
瞬間、雫様が急に首を抑え苦しみ出した。
「な、何が?」
父上を見ると、冷たい目を浮かべている。
何を思っての、目ですか? ものすごく、冷たく、どこか哀れんでいるような目。
「さて、興覚めだ。帰るぞ、七氏」
「ち、父上?」
まだ、後ろでは雫様が「待ちなさい!!」と叫んでいるが、父上は振り向きすらしない。
廊下を歩き、外へと向かう。
我もついて行くが、一つ気がかりがあった。
――――静稀は、大丈夫だろうか。
※
「――――ちっ、いつの間に……」
外に出ると、馬車が無くなっていた。
我らを帰さないようにの手段なのだろう。
まぁ、馬車が無くても帰れるのだが……。
「気になるか?」
「…………はい。今まで、沢山困らされてきました。ですが、親にあのようなことを言われてしまったら、子供はどうなってしまうのだろうか。大人だろうと、傷ついてしまうのではないかと思いまして」
だが、我が戻ったところで、場を鎮めることなど出来るわけがない。
それどころか、もっと場を乱してしまう可能性がある。ここは、静かに去るしかないのか。
だが、最後に見た静稀は、今まで見た事がないほどに顔を青くし、今にも泣き出しそうになっていた。
その表情を一言で表すのなら、絶望。
「――――今は、我慢してもらうしかない。こちらはこちらで動くぞ」
「う、動く、とは?」
「今回の件は、ワシらだけでは解決できんのだ。氷璃にも話さんとならん」
父上は目を細め、心苦しそうに言う。
母上も猫花家と関わりがあるという事なのだろうか。
※
「――――あ、あれ? 旦那様?」
「っ、九尾様」
九尾様と旦那様を見送った後、何故か氷璃様の顔が青く心配だったため、共に部屋でお話をしておりました。
楽しくお話をしていましたが、そこまで時間は経っていないはず、忘れ物でしょうか?
いや、ただの忘れ物ではありませんね。
お二人とも、何故か表情が暗い。何かあったのは確実。
九尾様が部屋の中に入り、まっすぐ氷璃様の隣へと移動します。
耳打ちしたかと思えば、お話しして笑っていた氷璃様の顔がまたしても青く、怯えたような表情を浮かべてしまいました。
「……わかりました」
九尾様の話を聞き、お二人は廊下へといなくなってしまいます。
残されたのは私と、旦那様の二人だけ。
ど、どうしたのでしょうか。
聞いても、いいのでしょうか。でも、旦那様は顔を俯かせており、声をかけられません。
でも、あの……。
「華鈴」
「は、はい」
「話があるのだが、まず父上達が空いてからにしたい。それまで、我は部屋にいる」
あっ、旦那様が行ってしまわれます。
…………確実に、何かありましたよね、旦那様。
置いてけぼりにされてしまい唖然としていると、旦那さまとは入れ替わりに二口女さんとろくろっ首さんが声をかけてくれました。
「奥様? いかがいたしましたか、顔色が悪いですよ」
「…………私は、大丈夫です。旦那様が苦しそうにしており、どうすればいいのかわからないだけなので」
どうすれば、よかったのでしょうか。
なんと、声をかければよかったのでしょうか。
「奥様、先程旦那様は部屋に戻られました。お疲れの様子でしたので、何か甘い物でもお持ちしましょう」
「でも、今は一人になりたいのでは…………」
「私達には、そのように言ってしまうでしょう。ですが、奥様でしたら、きっと求められますよ」
ニコッと笑みを浮かべる二口女さん。
隣にいるろくろっ首さんも頷き、私の背中を押し、台所へと促されます。
「で、でも!」
「さぁ、さぁ。迷っている時間はありませんよ」
うー!!! 本当に、大丈夫なのでしょうか……。
「何を怒っているのかしら。あぁ、息子を傷つけられたことを怒っているの? それは申し訳なかったわね。でも、女性に負けて傷つけられているそちらの息子にも非はあるのではなくて?」
っ、それは、そうだ。
さきほど、父上にも言われてしまった。
非道になれ、と。
「何を言っておる。実力だけであれば、七氏なら一瞬で静稀など殺せる」
「っ、そんなこと……。現に今――……」
「七氏は、ワシと違って優しいからな。まだ、非道な判断ができんのだ」
父上が、我を見る。
その目は、悲しそうにも見えるが、温かい。
親の目をしている。
「だが、それも、こやつの個性だと思い、ワシは気にしてはおらん。少々物は言うがな。だが、この娘はどうだ? 自分の欲のために牙を向け、相手を傷つけ無理やり自身のモノにしようとする。まるで、昔のぬしのようだ」
冷たい瞳で言うと、雫様が顔を真っ赤にし怒り出した。
「黙りなさい!!! やはり、貴方はいけ好かないわ。あの時、殺しておくべきだった!!」
「殺せなかったの間違いだろう」
「黙りなさい!!!」
っ、雫様が父上に爪を向けた!!
「しねぇぇぇぇえええ!!」
「父上!!」
いきなり前ぶりもなく駆けだした雫様。
我が駆けだそうとしたが、父上は指を鳴らした。
瞬間、雫様が急に首を抑え苦しみ出した。
「な、何が?」
父上を見ると、冷たい目を浮かべている。
何を思っての、目ですか? ものすごく、冷たく、どこか哀れんでいるような目。
「さて、興覚めだ。帰るぞ、七氏」
「ち、父上?」
まだ、後ろでは雫様が「待ちなさい!!」と叫んでいるが、父上は振り向きすらしない。
廊下を歩き、外へと向かう。
我もついて行くが、一つ気がかりがあった。
――――静稀は、大丈夫だろうか。
※
「――――ちっ、いつの間に……」
外に出ると、馬車が無くなっていた。
我らを帰さないようにの手段なのだろう。
まぁ、馬車が無くても帰れるのだが……。
「気になるか?」
「…………はい。今まで、沢山困らされてきました。ですが、親にあのようなことを言われてしまったら、子供はどうなってしまうのだろうか。大人だろうと、傷ついてしまうのではないかと思いまして」
だが、我が戻ったところで、場を鎮めることなど出来るわけがない。
それどころか、もっと場を乱してしまう可能性がある。ここは、静かに去るしかないのか。
だが、最後に見た静稀は、今まで見た事がないほどに顔を青くし、今にも泣き出しそうになっていた。
その表情を一言で表すのなら、絶望。
「――――今は、我慢してもらうしかない。こちらはこちらで動くぞ」
「う、動く、とは?」
「今回の件は、ワシらだけでは解決できんのだ。氷璃にも話さんとならん」
父上は目を細め、心苦しそうに言う。
母上も猫花家と関わりがあるという事なのだろうか。
※
「――――あ、あれ? 旦那様?」
「っ、九尾様」
九尾様と旦那様を見送った後、何故か氷璃様の顔が青く心配だったため、共に部屋でお話をしておりました。
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いや、ただの忘れ物ではありませんね。
お二人とも、何故か表情が暗い。何かあったのは確実。
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耳打ちしたかと思えば、お話しして笑っていた氷璃様の顔がまたしても青く、怯えたような表情を浮かべてしまいました。
「……わかりました」
九尾様の話を聞き、お二人は廊下へといなくなってしまいます。
残されたのは私と、旦那様の二人だけ。
ど、どうしたのでしょうか。
聞いても、いいのでしょうか。でも、旦那様は顔を俯かせており、声をかけられません。
でも、あの……。
「華鈴」
「は、はい」
「話があるのだが、まず父上達が空いてからにしたい。それまで、我は部屋にいる」
あっ、旦那様が行ってしまわれます。
…………確実に、何かありましたよね、旦那様。
置いてけぼりにされてしまい唖然としていると、旦那さまとは入れ替わりに二口女さんとろくろっ首さんが声をかけてくれました。
「奥様? いかがいたしましたか、顔色が悪いですよ」
「…………私は、大丈夫です。旦那様が苦しそうにしており、どうすればいいのかわからないだけなので」
どうすれば、よかったのでしょうか。
なんと、声をかければよかったのでしょうか。
「奥様、先程旦那様は部屋に戻られました。お疲れの様子でしたので、何か甘い物でもお持ちしましょう」
「でも、今は一人になりたいのでは…………」
「私達には、そのように言ってしまうでしょう。ですが、奥様でしたら、きっと求められますよ」
ニコッと笑みを浮かべる二口女さん。
隣にいるろくろっ首さんも頷き、私の背中を押し、台所へと促されます。
「で、でも!」
「さぁ、さぁ。迷っている時間はありませんよ」
うー!!! 本当に、大丈夫なのでしょうか……。
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