生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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これからも

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「では、少し離れてください」

「ま、待て!! 華鈴は拳銃すら触ったことがないのだぞ! 出来るわけないだろう!!」

 距離を取る静稀様に、旦那様が言います。
 すると振り返り、銃口を私に向けて拳銃を構えました。

「簡単です。狙いを定め、引き金を引く。ただ、それだけです。安全装置も外しておりますので、引き金に手を添えれば準備は完了ですよ」

「そういう問題ではない!」

「私も、拳銃を握ったのはありません。条件は同じ、何をそこまで拒むのですか?」

 っ、目が、もう、焦点が合っていない。
 必死なんて言う、可愛い言葉では済まされない。

 あれは、殺気。
 私に向けて、殺気を放っている。

「死んだらそれまで。生き残った方が、七氏様のお嫁さんになれる、それで、いいですよね?」

「駄目に決まっているだろう!! 華鈴、その拳銃を寄こすのだ。危険すぎる!」

 旦那様が私に手を伸ばします。
 そのまま、拳銃を渡した方がいいのでしょう。

 ですが、なぜか、それを私は拒んでおります。
 渡してはいけないと、そう、頭が訴えてきます。

 手にのしかかる重さ。これは、本当に拳銃だけの重さでしょうか。
 静樹様の想いが乗せられているような、そんな感じがします。

 チラッと静稀様を見てみますと――あっ。

「…………申し訳ありません、旦那様。私は、この勝負、受けます」

 静樹様に振り向きながら言うと、旦那様は驚いたように目を大きく開きました。

「な、何を言っているのだ華鈴よ! 一歩間違えれば死んでしまうのだぞ! 今すぐやめるのだ!」

「いえ。私は、この勝負を受けなければなりません。受けたいのです。お願いします!」

 ごめんなさい、本当に、ごめんなさい。
 ここで、引いてしまえば、私は一生、後悔してしまう可能性があるのです。
 いえ、可能性ではありません。絶対に、後悔してしまいます。

 なので、私は、受けます。
 でも、拳銃をは構えません。

 私が拳銃を下ろすと、静稀様は驚いたみたいです。

「な、何をしているの。早く、構えなさい!」

「いえ。まぐれにでも、私が放ってしまった拳銃が貴女に命中してしまえば、人が一人、死んでしまうのでしょう? なので、私は構えません」

「それなら、貴方が死体になるだけよ。いいのかしら?」

 っ、良くは、ありませんね。
 ですが、私は、分かっています。

「良くありません。ですが、大丈夫、大丈夫なんです。この場の誰も、死にません」

「なぜ、そんなことを言いきれるのかしら。私が拳銃を握ったことがないから? そんなもの、どうとでもなるのよ!」

「いえ、違います」

 静樹様の持っている拳銃を指さし、私は築いたことをそのまま伝えます。

「貴方の弾は、私には当たりません」

 言い切ると、今度は「は?」と、惚けたような声を出します。思わず笑ってしまいますね。

「な、なぜ……」

「手、震えていますよ?」

 拳銃を構える手が、震えている。
 拳銃を握ったことがないのは、本当のようですね。

 私が指摘すると、静稀様が顔を赤くし、拳銃を下げ手を隠します。
 今更、遅いですよ。

 お話がしたい。
 さっきは、空気の重さに負けて何も言えませんでしたが、今はお話が出来ます。

「こ、来ないで!」

 近づくと、静稀様が逃げるように後ずさってしまいます。
 これ以上近づいてしまえば、静稀様の心が壊れてしまうかもしれません。

 しかたがありません。
 距離がありますが、この場でお話ししましょう。

「……静稀様。私も、旦那様が大好きです。心が、慕っております」

「だ、だったら、なんなのよ。私は、貴方より優れているの!! 貴方より可愛いの!! 貴方より綺麗なの!! 貴方みたいな薄汚い人間なんかより、私の方が七氏様に相応しいのよ!!」

 薄汚い、人間。
 確かに、私は薄汚い人間でした。

 親には捨てられ、親戚には生贄にされ。
 なんで、私は生まれて来てしまったんだろうと、何度も何度も、考えました。

 そんなことを考えても、私は自分を殺すことが出来ないというのに。

「私は、私自身を旦那様に相応しい人間だとは思っておりません」

「なら、私に譲りなさい!」

「嫌です」

 近づき、静稀様と目を合わせると、怖がるように後ろをへと下がる。
 これ以上、下がらせたくはないですね。

 静稀様に手を伸ばし、肩に置く。
 怯えて振りほどこうとしますが、私もそんなにやわではありませんよ。

「な、なっ……」

「だから、私は相応しい奥様になれるように努力しております。旦那様の役に立ちたい、旦那様に幸せを感じて欲しい。私の手で、旦那様を幸せにしたいのです。今の貴方では、それは難しいと思います」

 私の言葉を聞いて何を思ったのか、静稀様は「ふざけるな!!!」と言いながら、私の額に拳銃を向けます。
 ゼロ距離射撃。これだと、手が震えていても私の額を撃ち抜けます。

「……引き金、引かないのですか?」

「う、うるさい! いいの?! このまま私が引き金を引けば、あなたは死ぬのよ! 死にたいの?!」

「先程も言いました。貴方は、私を殺せません。貴方は、優しい方だと思いますので」

「なっ!!」

 私は、静稀様を詳しくは知りません。
 でも、優しい方だと言うのは、何となく、伝わりました。

 雫様の気持ちに必死に答えようとしたのでしょう。
 雫様を落ち込ませないように。お母様の役に、立つために。

 拳銃を握る手が震えていたのは、怖いから。
 人を殺すのが、怖いからなのでしょう。
 恐怖を感じるということは、殺したくないからだと、私は思います。

 周りが見えなくなってしまったのは、雫様が何かをしてしまったのでしょう。
 でも、雫様も旦那様の言葉で会心してくれるはず。なら、静稀様もまだ、道を戻れる。

 外れた道から、戻れるはずです。

「静稀様。これから、仲良くしていただけませんか? 旦那様の素敵なところ、一緒にお語り合いましょう?」

 拳銃を握る手を両手で包み込み、下げさせます。
 すると、静稀様は大きな泣き声をあげ、その場に崩れてしまいました。

 屋敷からは、雫様が息を切らし現れます。
 崩れ落ち、泣いている静稀様を抱き寄せ、謝っております。

 わだかまりは、無くなりましたでしょうか。
 今はまだ、分かりません。

「――――あっ」

 背中に、優しい温もり。
 振り向くと、旦那様が安心したように笑みを浮かべ、私を見下ろします。

「私、少しは役に立てたでしょうか」

「あたりまえだ、馬鹿者」

 ふふっ、それなら、良かったです。
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