氷鬼司のあやかし退治

プロローグ

少年との約束

　昔、私は大きな人ではないなにかに襲われていた。
　おそらく、それは化け物と呼ばれる生き物。

　逃げないと殺される。何も考えず、森の中に逃げた。
　木の影に隠れてやり過ごそうとしたけど、化け物は諦めてくれない。

　（怖い、怖い。誰か、助けて……）

　見つかってしまったらどうしよう、何をされるんだろう。そればかりが頭を埋め尽くす。

　体をふるわせ、かくれていると、化け物は私の気配に気づいてしまった。
　逃げようとしたけど、ちょうど木の根っこがあってつまずき、転んでしまった。

　すぐに立ち上がることが出来ず、逃げられない。

『い、いや…………』

　目の前には大きな顔に、耳まで裂けている赤い口。その顔には、あるはずの目はない。
　黒い歯を見せて笑う化け物が、ゆっくりと手を伸ばしてきた。

　もうダメだと、目をぎゅっと閉じた。
　その時、聞こえたのは化け物の叫び声と、安心するような男の人の声。

『氷の剣つるぎにより、今ここで消えるがいい』

　目を開けると、そこには自分より少しだけ小さい、一人の男の子がいた。
　手には長方形の紙を持ち、目元に狐の面を付け、目の前にいる化け物を見上げている。

　化け物は、どこから現れたのかわからない大きなつららが体に突き刺さり、動けないでいた。

『君、よくがんばったね。あとは僕にまかせて』

　男の子はそれだけを言うと、右手に持っていた長方形の白い紙を化け物に向けて投げた。

『ユキ！　おはぐろべったりを凍らせろ！！』

　言うと、紙は白いきりに包まれ、一人の女の子が現れた。
　水色のおさげに、白い着物の可愛い女の子。

　その女の子は、白い息を化け物に向けて吹いた。すると、化け物はどんどん氷に包まれ始める。

「終わりだよ」

　────ガシャン！！

　体がすべて凍ってしまうと、男の子の合図とともに、その場で崩れる。
　藍色あいいろの髪を揺らしている男の子は、最後に私を見た。

『君、今まで大変だったみたいだね。大丈夫、これからは僕が守るよ！』

　その人はそれからずっと、私と一緒に居てくれた。
　約束通り、私を守ってくれていた。

　――――私が引っ越す、その日まで。

『必ず、迎えに行くもん。僕がしぃーちゃんを守るんだもん！！』

『ありがとう、つっくん！　また、会えるのを、待ってるから！！』

　それから数年、私とつっくんは会っていない。