氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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大天狗

氷鬼先輩と天狗山!

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 外に出ると、屋敷の前の広場では、二つの式神が翔と湊に攻撃を仕掛けていた。

 ユキは、つららを降らせ、鬼火は火の玉をくり出す。
 だが、二つの属性が打ち消し合ってしまい、上手く出来ない。

 やっぱり、付け焼き刃では無理だろうかとこの場にいる皆があきらめた時、詩織たちが戻ってきた。

「おや?」

「なんか、様子がおかしいな」

 湊と翔が詩織に注目する。
 司と凛も苛立ちをにじませつつも、詩織を見た。

 未だに顔が赤く、恥ずかしそうに立っている詩織。何をしようとしているのか予想が出来ず、誰も声をかけない。
 唯一わかっている喜美は、詩織の後ろで「がんばれ」と真顔でエールを送る。

(うー!! 役に立ちたいとは言ったけど、いくらなんでもおばさんが言ったことは見当違いじゃない!? でも、絶対氷鬼先輩のためになるからって言ってたし……)

 なぜか前に出て何も言わない詩織を不思議に思い、司が「詩織?」と、名前を呼んだ。
 もう、どうにでもなれという気持ちも込め、うつむかせていた真っ赤に染まった顔を上げ、息を大きく吸いこんだ。

「~~~~~司先輩!! 頑張ってくださぁぁぁぁぁい!!!!!」

 辺りにひびき渡るほどの声量で応援を受けた司は、予想外過ぎて目を大きく開き固まった。
 凛と湊、翔は固まってしまった司を見る。

 息を切らし、肩を上下に動かしている詩織は、何も返答がないことに恥ずかしさが限界突破しそうになっていた。

「な、何か言ってください!!」

「いや、あの…………」

(やっぱり、見当違いだったんだ。私からの応援なんて何のためにもならないもんね! それに、勝手に名前呼びをしてしまって。本当に申し訳ないのと、普通に恥ずかしい!!)

 体をふるえさせ恥ずかしさに耐えていると、司がやっと動き出した。
 右手で口元をかくし、顔を逸らす。

「え、あ、あの…………」

(あ、あれ? なんか、氷鬼先輩の耳、赤い?)

 藍色あいいろの髪からのぞき見える耳が、ほんのり赤く見える。
 じぃ~と見ていると、水色のひとみだけを詩織に向け、小さな声で司はつぶやいた。

「…………ありがとう、元気出た」

「あ、い、いえ……。元気出たのなら、良かったです…………」

 司の顔も詩織に負けないくらい赤く、これ以上何も言えない二人。
 周りはニヤニヤと二人を見ており、翔は喜美の元へと近付いた。

「なに言ったの? 母さん」

「司の応援がしたいと言っていたからね。名前を呼んで目一杯応援してあげると一番の力になると言っただけよ」

「なるほど、確かに。いい薬にはなったみたいだな」

 二人のピンクオーラに、翔は苦笑い。でも、司はやる気を取り戻してくれたみたいで、最初よりはるかにやる気を出していた。

「これ、大天狗も簡単に倒せそうだなぁ」

「そうね」

 ※

 修行を続けた結果、司が覚醒したため、合わせ技ができるようになった。
 だが、予想していたのとは違い湊と翔は大笑い。凛は、ぽかんと目を丸くしてしまった。

「いやぁ、まさか。炎もろとも凍らせることができるなんてね。打ち消さないで形まで保っている。覚醒した司は違うなぁ~」

「うるさいよ」

 今、四人の前には、炎の形に固まっている氷の像。
 溶ける気配を見せない氷は、ユキが出したと思えない程頑丈だ。

「まるで、ヒョウリが出したような氷だなぁ。ユキって、ここまでの力出せたっけ?」

「普通は無理だね。今回は調子が良かった」

「ふーん。調子、ねぇ~?」

「うるさいよ」

「そんなにうるさくしていないと思うんだけど…………」

「目がうるさい」

「理不尽…………」

 そんな会話をくり返している兄弟をよそに、凛と湊はニヤニヤ。
 喜美もうれしそうなオーラを出して「娘が出来るのも近いわねぇ~」とぼやいていた。

 司の耳に君のボヤキが届き、「うるさいよ!!」と、叫ぶ。
 それが、喜美の怒りに触れた。

「あらぁ~? 母親にそんな口をきいてもいいのかしらぁ~?」

「いって!!」

 司の耳を引っ張る喜美の笑みは黒い。
 誰も、司を助ける事はせず、詩織のみ「あ、あの……」と、どうすればいいのかあわてていた。

 ・
 ・
 ・
 ・
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 ・

 そこから五人は、作戦を念入りに練って準備満タン。
 今は、電車で大天狗が住むと言われている山、天狗山てんぐざんに向かっていた。

 メンバーは、凛と湊、翔と司、詩織の五人。
 退治屋だとは思えない程、今の五人は楽しそうにお菓子をつまみながら雑談を楽しんでいた。

 一番あばれているのは凛。みんなに話を振り、会話を盛り上げる。
 司は、途中でめんどくさくなり寝ていた。
 詩織も、凛のいきおいに押されつつ、何とか会話について行き、翔と湊は自分のペースをみださない。

 そんなことをしていると、すぐに降りる駅に着いた。
 はぐれないように気を付けながら歩き、天狗山に向かう。

 山奥まで歩かなければならないため、皆動きやすい服装をしていた。

 司たちは、退治屋専用の服を着ていた。
 氷鬼家は、忍者をイメージしているような服。
 炎舞家は、赤がメインで和風イメージの服。

 詩織の分は準備がなかったため、凛の着替えを貸していた。

「着物……なのに、動きやすい」

「締め付けられているような感じしないでしょ! 昔から代々引き継がれた退治用の服は、様々な工夫がされていて、その家にあった物を作ってくれているの!」

 笑顔で説明をしている凛の横を、感心しながら詩織は山を歩く。
 周りは木に囲まれている為、同じ景色が続いている。

 迷わないか不安を抱えながらも、湊が持ってきた方角を示してくれる羅針盤らしんばんと呼ばれる物を頼りに歩いていた。

「湊さんの羅針盤らしんばんって、腕時計みたいになっているから、目立たなくていいですね」

「まぁね。大きな物の方が見やすいけど、持ち運びしやすい方がいいし、聞かれた時も見た目は腕時計だからごまかしやすいんだよね」

 退治屋は、世間一般的に広がっているわけではない。
 あやかし自体、一般の人は見えないため、退治屋道具を素直に教える訳にはいかない。
 それを踏まえての形状だと聞き、司は感心してしまった。

 そこからまたさらに歩く。
 詩織もさすがに疲れてきたころ、先頭を歩いていた湊が振り返った。

「足元気を付けてね、少し上り坂になっているから」

「はーい」

 湊の問いかけに凛が元気に返事。
 詩織も転ばないように歩いていると、ふと、何かに気づく。

「あれ、司先輩?」

 隣を歩いていたはずの司がいなくなっていた。
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