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第三章:来たる日に備えて
忍び漂う
しおりを挟むーー時間は少し戻り、
シオンの、家の庭でーー
「まだ…勝負は、これからだ!!」
俺は、かすんでいく視界の中の男を睨んで。
たぶん、人生で1番大きな声で、そう叫んだ。
「そんな大きな声も出せたのねー。
ま、気絶する直前、
最後のあがきで、そうなるやつ、多いけど。
…って、お前、その瞳の色…!」
睨みつけていた派手男の顔が
ぼやけていく視界の中で、
確かに、驚きの表情に変わった。
(俺の…瞳の、色…っ?)
派手男の言葉を、頭の中で再度繰り返して
その意味を、必死に考える。
俺の考えが、正しければ…
(俺の瞳…
カラーズが…濃く、なってるんだな…っ!?)
そう思うと、一気に
頭の中がクリアになっていく気がした。
(チカラが、増してる…!)
そう、自覚するのと同時に
勝手に…口が、動いた。
「ーー勅令する…ルナ、忍び漂え。」
「勅令!?
ちっ!この状況でかよっ!」
気絶寸前だった俺の
予想外の勅令に
派手男は驚いて、
紐のチカラは緩めず、距離だけをとった。
(俺…初めて、勅令した…。
頭に、勝手にセリフが浮かんできて…それで…。)
俺は、縛られていて酸欠だったからか
ぼーっとする頭で、
今、自分の身に起こったことを、冷静に分析する。
そんな俺の、すぐ近くで…
「おいおい!
あいつ…また消えやがったな!?
しかも今度は…
実体まで、透明かよっ!」
派手男は慌てたように
頭を左右に振りながら、周囲を警戒する。
(透明…?俺…。)
「くっそ!
すっかりさっぱり
俺の紐からいなくなってるじゃねーか!
勅令放棄より、
勅令した方が威力が増すらしーけど…
実体がなくなるとか、
グレードアップしすぎじゃねー?」
派手男はブツブツつぶやいて、
口調は軽いが、
真剣な表情で、周囲を警戒していた。
(実体が、ない…!)
自分自身は、自分の姿が見えているから
なんで、あいつのチカラから抜け出せたのか、
疑問だったけど
(そうか、だから俺、
あいつの紐から抜け出せてるのか…!)
派手男のおかげで、
自分の、
初めての勅令を理解することが出来た。
それに…
(君が…ルナ、かな?)
俺は、すぐ近くの空中に漂う
紫色のクラゲに、心の中で話しかけた。
すると、その手のひらサイズのクラゲは
俺の呼びかけに応えるように、
俺の顔の前で、クルリと一回転して見せた。
(そうか…。ルナ、よろしくね。)
チカラは、ずっと前から使えたけど
オーバーは、一度も現れなかったから
こうして、初めて自分のオーバーに会えて
こんな状況だけど、少し、嬉しい気持ちになった。
「くそ…
このままじゃ、らちがあかねーな。」
派手男は、
俺の動きを待つしか出来ない現状に
少しイライラした様子でつぶやいて。
「どーせ、近くで聞いてんだろ?
複数のチカラは、基本一度に使えねーから
俺の心は読めねーもんな。」
派手男は、俺に、勝手に話しかける。
「いつまでも消えてたって…
実体がないってことは、攻撃もできねーだろ。
つまり、俺に攻撃する時は、
必ず、実体が戻るわけだ。」
(確かに…こいつの言う通りだ。)
俺も、同じことを考えていたから。
ただ黙って、こいつの話を聞く。
「俺は、自分の周りに、
さっきと同じ、
見えねー位細い、紐を張り巡らせてる。
お前がどうあがいたって、
攻撃する時、
実体が戻れば、この紐に絡まるって仕組みだよ。」
(まあ、そうだよな…。)
派手男の、紐のチカラは
正直…強い。
あいつの周囲の紐は、
攻撃でもあり、防御にもなる。
俺がたとえ、
離れた所から攻撃できるチカラを持っていても
先に触れるのは、
あいつ本体じゃなくて、あいつの紐だ。
紐に触れた瞬間、
すぐに、その太さや数を増やして
自分自身の身を守るのだろう。
(それに俺は、そもそも…
攻撃系のチカラなんて、無い…。)
「よーするに
このままじゃ、
お互い発現したまんま…持久戦だろ?
お前のカラーズが
どの程度かは知らねーけど
俺は、優秀だからな
先に言っとくと、発現の持続時間は、
ホワイトノーブルでもピカイチなんだぜ。」
(俺は、心の声を読むチカラは、よく使ってるけど…。
このチカラは…そもそも、初めての勅令だし…。)
そう考えると、持久戦は、一か八かになる。
自分の発現の持続時間に、
派手男ほど、自信はもてなかった。
「持久戦になっても、俺が勝つだろーけど。
ダラダラ戦うのは、性に合わねー。
いつまでも隠れてないで
面と向かってさ、
正々堂々戦おうぜ?」
派手男は、一通り話終わって
「ま、ちょっと考えてみろよ。」
両手を広げて、
やれやれ、とアピールしてみせた。
(どう、するか…。)
持久戦は、一か八か。
そして、面と向かっての勝負では、
俺は、攻撃系のチカラを持っていない。
(せっかく、
実体がなくなったのに…これじゃ…。)
せっかくレベルアップしたチカラ…
目の前で優雅に漂うルナを見て、
もう一度、よく考える。
(このチカラ…もっと、活かせるはずだ。
実体が、無いんだから…。
それを活かして、こいつを、気絶させるには…。)
俺は、必死に考えて…
(そうだ…これ、なら…!)
”ある作戦”を、思いついた。
(これも充分、一か八かだけど…。)
初めての勅令。そして
頭に浮かんだ、”ある作戦”。
「やってみる価値は、ある…!」
俺は、ポツリとつぶやいて
派手男の目の前で、
チカラを解いて、姿を現してみせた。
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