ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ

文字の大きさ
10 / 47

10.初配信

しおりを挟む
「ユウくん、心の準備はいい?」
「少し待って、まだ緊張が収まらない……」

 俺とサリナは予定通り初のダンジョン配信を行うためにダンジョンにいた。
 サリナはモデルの仕事とかで人前に出たり人前で話すことにも慣れているようだが、俺は違う。

 そもそも大勢の人前で話すことが今までなかった。というか、鍛錬に時間を費やしていたから自分から避けていた。
 もっと積極的に人前に出たりしていればこんなに緊張することはなかったはずなのに。

 過去の自分を殴りたい……。

 とはいえ、最初の配信だ。
 そこまで多くの人が見に来るはずもない。だから、あまり気にしなくてもいいはずなんだけど、どうしても緊張してしまう。

「ユウくんは考え過ぎなんだよね。あまり配信のことは気にせずに、どう喋ろうとか深く考えないでいつも通りの自然体のユウくんとして喋ったりしてればいいんだよ」
「そう? 無愛想に見られないかな?」
「そんなこと思う人いないよ。だって、近くにいる私が一緒にいて楽しいと思っているんだから! 大丈夫! 気軽にいこっ!」
「ああ、そうだよな。それじゃ、いつでも開始していいよ」

 サリナは俺といて楽しいと思ってくれていたんだな。
 一緒にいてくれるから良く思ってくれているのは知っていたが、改めて口にして言われるとより一層嬉しく感じる。

 サリナの言葉のお陰もあり、俺の緊張は少しばかり和らいだ。

「それじゃあ、いくよ?」
「うん」

 サリナはDプロの撮影開始ボタンを押す。
 すると、撮影と同時に配信も開始させる。

 配信が開始しても俺はできるだけカメラを気にせずに普段通りダンジョンを進んでいくようにした。
 だが、隣にいるサリナが急に黙り始めた。

「あの、ユウくん……?」
「どうした?」
「ちょっとおかしいことが起きているんだけど……」

 サリナはそう言うと、ダンストの自分たちのチャンネルページに記載されている現在の視聴人数の欄を俺に見せてきた。

「え……? 視聴人数5000人!? いや、まだ伸びてる。6000人いった」
「これどういうこと? 最初の配信ってあんまり見に来てくれないんじゃないの?」

 驚くことに俺たち――ユウサリちゃんねるの初配信には多くの人が見に来てくれていた。やはり、サリナの知名度があれば最初の配信でも多くの人が見に来てくれるんだな。

「やっぱり、サリナの知名度のお陰もあるんじゃない?」
「いや、コメントを見てるとユウくんを見に来た人も多いよ」
「え、そうなの?」
「うん、ほらこれみて」

 サリナが配信のコメント欄を俺に見せてくれる。
 コメントの中には、サリナに関するコメントと同じくらい俺に対してのコメントも書かれていた。

 俺はサリナが人気モデルだから俺に対しての悪意あるコメントなどが来るのではないかと危惧していたのだが、実際にはそういったものは全くなく、『この男の人って、ネットで話題のユウさんだよね!?』とか、『この二人が組むなんて凄すぎ!』といったコメントが書かれていた。

 俺が良く思われていたことを知り、ホッとした。
 これで悪いコメントが多かったらこれから先、サリナと一緒にダンジョン配信をしていくのが大変になっていただろうからな。

「なんかホッとしたよ」
「ユウくんも大人気だね。ほら、もう視聴人数1万人超えたよ」
「え! 数字は言わないでくれ、余計緊張しちゃうから」
「ごめんごめん。私も少し緊張するけどとりあえずいつも通りやろっか!」
「ああ、そうだな」

 今日は初配信だからあまり深くまで潜るつもりはないが、それでも魔物は多く現れる。
 ダンジョン深くの魔物と比べると全然弱いがそれでも油断してしまえば危険な状況に陥ってしまうこともあると聞く。なので、初配信だからと配信ばかり気にして足元をすくわれてしまってはいけない。

 それに、もうサリナに怪我を負わせたくないからな。

 そんなことを考えながら進んでいくと早速魔物が姿を現した。
 ゴブリンが七体現れ、俺たちを睨みつけ、唸りながら威嚇している。前回戦った時よりも数が多いな。

 地上に近ければ近いほど魔物は弱くなるが、その分、集団で行動することが多くなるのだ。それもあって、弱いからと油断はできないのだ。

「いくよ!」
「ああ、油断禁物な」
「もちろん!」

 俺とサリナは前回同様に互いの動きと敵の位置を把握しながら武器を構えながら走り、上手く連携し魔法も使ってゴブリンを圧倒する。

「【重力グラビティ】」

 俺はそう唱えながら敵に左の手のひらを向ける。
 ミノタウロスと戦った時は武器にこの魔法を使ったが今回は数が多いので敵の足を止めるためにそのまま使った。

 ミノタウロスほどの強敵ならそのまま使ってもあまり意味を成さないだろうが、ゴブリンに対しては有効だ。

 俺の魔法を食らったゴブリンたちはうめき声を上げながら、重力に耐え切れずに両膝を地面についていた。
 それを確認したサリナは魔法を使い、すべてのゴブリンを切り裂く。

「【雷の斬撃ライトニング・スラッシュ】」

 斬撃を受けたゴブリンたちは光の粒子となり消え、小さな魔石だけを落としていった。

「さすがだよサリナ」
「ユウくんが重力で敵の足を止めてくれたからだよ!」
「とりあえず配信初めての戦いは勝利だな」
「やったね!」

 俺たちはお互いを褒め合い、ハイタッチをした。

 配信のコメント欄でも盛り上がっているようだった。

【ライブチャット】

:重力系の魔法ってゴブリン相手とはいえ、両膝を地面につけさせるくらい強力な魔法だっけ?

:いや、そんなはずはない。戦いにはあまり使えない魔法のはずだが……

:この二人の戦い方、相性良いな

:この二人、最強のコンビになりそう!

:ユウさんも凄いし、サリナちゃんの攻撃も強かったな!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...