異世界家族―追放貴族と没落令嬢と勇者の娘、今日も気ままに開拓日和。

和本明子

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12章 降りしきる雨の帳にて、本棚の隙間が開く扉。英雄譚は少女の瞳に再び息づきて

第27話

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 ラパンがこの地を去って、数日が経過していた。
 今日は雨が降っていた。

 雨が降ると、この辺境の拠点小屋は、世界から切り離されたように静かになる。
 辺境の地を叩く雨粒のリズムは、大地そのものが鼓動しているのではないかと錯覚させた。

 雨の日は農作業も建築作業もお休みである。否応なしに手を止められた日常の端に、小さな空白がぽっかりと生まれる。

 アルトは窓際の小さな机に向かい、黒板に未来の村の輪郭を描くように建築案を走り書きしていた。

 対してステラは、部屋の反対側で自分用の小さな黒板を抱え、棒人間に剣を持たせたり、妙に強そうな魔獣らしき落書きをしていたが、雨雲のように表情を曇らせる。

「雨って……ヒマ」

 壁にもたれた少女は、のびをする猫のように口を大きく開けて、遠慮のない欠伸あくびをひとつ。

 その気怠げな様子を横目で見たセリカは、ほんの少し肩を落とし、しかし無理に笑みを整えるようにゆっくり息を吐いた。
 本来なら、こういう隙間の時間こそ勉強に充てさせるべきなのだが、詰め込みは毒にもなるし、今日ばかりは無理に机へ縛り付ける気にもなれなかった。

「今日は……私が勉強する日でいいわね」

 ぽつりと呟き、雨に濡れた空気のなかでそっと視線を書物棚へ向ける。ラパンとの物々交換で手に入れた本の数々が、今はまだ心許ない隙間を多く残しながら並んでいる棚。
 その隙間を、いつの日にか全部埋めたいものだと思う。

 セリカは一冊の農学入門書に手を伸ばそうとした――そのとき。

「……あら?」

 セリカの指先が、思いがけない一冊の表紙で止まった。

 ――『勇者リウス物語』。

 かつて幼い頃、家庭教師が「これは少し難しいわよ」と微笑みながら読んでくれた懐かしくも重みのある古い英雄譚。
 ページの端は擦れ、紙は黄ばみ、しかしその装丁にはどこか宗教画めいた荘厳さがあった。

 物語は、史実をもとに勇者リウスが魔王を討伐するという王道の筋立てでありながら、単純な勧善懲悪に終わらず、どこか身近な人間の影や迷いが漂っていた。
 読んでいた当時の自分は、英雄に憧れるというより――リウスの内面に、奇妙な親しみを覚えていたのだと、セリカはぼんやりと思い返した。

 そして何より、この物語で語られる地名の多くは実在する場所で、歴史や世界観を学べる良い教材だった。

「セリカーさん、それ何?」

 興味に引かれて近づいてきたステラが覗き込む。

「お伽噺みたいなものですわよ。そうだ、ステラ。読み聞かせしてあげましょうか?」

「面白いの?」

「んー、まあ世界中で読まれて知られる物語ですからね。面白いと思いますわよ」

「それじゃ、セリカーさん。読んで読んで」

「はいはい、えーと……」

 セリカは本を広げ、ゆっくり読み始めた。
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