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12章 降りしきる雨の帳にて、本棚の隙間が開く扉。英雄譚は少女の瞳に再び息づきて
第29話
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読み終えるや否や、ステラは弾かれたように上体を跳ね上げた。その動きは、まるで胸の奥底に小さな火種が落ちて、一瞬で乾いた薪へと燃え移ったかのようで、瞳は熱気を帯び、頬には期待が色濃く差していた。
「つづき! ねえ、セリカーさん、つぎは、どうなっていくの?」
「ええと……」
急くように身を乗り出す少女に対し、セリカは一度深く呼吸を整え、本をそっと閉じて胸に抱きしめた。表紙の温度と、読み聞かせを終えた余韻がまだ手のひらに残っている。その心地よさを噛みしめながらも、彼女は困ったように柔らかく微笑んだ。少女の期待が、まるで雨の日の静かな部屋の空気を少し押し広げたようだった。
「ステラ、残念だけれど、この本はここまでしか書かれてないのよ。続きは“二巻”からですわ」
「その二巻は?」
「残念ながら、ラパンさんが持ってきたのは、この一巻だけですわよ」
「えっーーーー!」
途端に小屋の静寂を突き破るような悲痛な叫び声が響き渡り、雨音すら一瞬かき消された。
その声に釣られるように、アルトが手を止めて顔を覗かせる。
「なんだ、どうした?」
「この本の続きが読みたいの!」
訴えるようなステラの声に、セリカはほんの短い沈黙の後、少女の頭へそっと手を伸ばした。その掌が触れた瞬間、ステラの髪の温かさと、幼い焦燥の気配がふわりと伝わってくる。
「じゃあ、こうしましょう。ステラが、これから“ちゃんと勉強をする”って約束できるなら、ラパンさんが来た時、続きを注文してあげますわ」
「ほんとに?」
「ええ。約束よ」
セリカが小さな儀式のように左手を差し出すと、ステラは椅子を蹴る勢いで立ち上がり、まるで宝物に触れるような真剣さで小指を絡めた。その一瞬、雨音まで祝福するかのように柔らかく鳴り響く。
「ところで、この後、勇者リウスはどうなるの?」
瞳を期待で充たしながら身を乗り出すステラ。しかし、問いかけられたセリカは珍しく言葉をつまらせた。ふわりとした表情に、微かな照れと悔しさが混じる。
「……実はね。幼い頃に読んだきりなの。正確にどんなお話しだったのか、もうほとんど覚えていないのよ。ただ勇者リウスが魔王を討伐するというぐらい」
その告白に、ステラは裏切られた小動物のような目をした。
「そ、そうだ。アルトさんは、勇者リウス物語の続きをご存知ですか?」
「え?」
急に話を振られたアルトは、姿勢を正しながらも気まずそうに頭をかいた。
「悪いが……俺はこういう“勇者もの”は読んだことがなくてな」
「なんで?」
「いや、なんでと言われても……単純に興味の方向が違っただけだ。魔獣と戦うものより、ロボット…あっいや、ゴーレムとかの方が好きなタイプで……」
言い終わる前に、セリカの視線が鋭く突き刺さった。
「アルトさん。勇者リウス物語を読んだことが無いなんて……。普通、子どものころに誰でも一度は読むものだと思っていましたわ。読み聞かせの定番でもありますし、王都の図書館でも、村の共同本棚でも必ず置かれているはずなのに」
「いや、まあ……人それぞれだし」
ぶっきらぼうに肩をすくめるアルト。その横で、雨のしずくが叩く規則的な音に、部屋の空気がゆるやかに溶けあう中、ステラは二人のやり取りを両目いっぱいに詰め込みながら眺めていた。
「つづき! ねえ、セリカーさん、つぎは、どうなっていくの?」
「ええと……」
急くように身を乗り出す少女に対し、セリカは一度深く呼吸を整え、本をそっと閉じて胸に抱きしめた。表紙の温度と、読み聞かせを終えた余韻がまだ手のひらに残っている。その心地よさを噛みしめながらも、彼女は困ったように柔らかく微笑んだ。少女の期待が、まるで雨の日の静かな部屋の空気を少し押し広げたようだった。
「ステラ、残念だけれど、この本はここまでしか書かれてないのよ。続きは“二巻”からですわ」
「その二巻は?」
「残念ながら、ラパンさんが持ってきたのは、この一巻だけですわよ」
「えっーーーー!」
途端に小屋の静寂を突き破るような悲痛な叫び声が響き渡り、雨音すら一瞬かき消された。
その声に釣られるように、アルトが手を止めて顔を覗かせる。
「なんだ、どうした?」
「この本の続きが読みたいの!」
訴えるようなステラの声に、セリカはほんの短い沈黙の後、少女の頭へそっと手を伸ばした。その掌が触れた瞬間、ステラの髪の温かさと、幼い焦燥の気配がふわりと伝わってくる。
「じゃあ、こうしましょう。ステラが、これから“ちゃんと勉強をする”って約束できるなら、ラパンさんが来た時、続きを注文してあげますわ」
「ほんとに?」
「ええ。約束よ」
セリカが小さな儀式のように左手を差し出すと、ステラは椅子を蹴る勢いで立ち上がり、まるで宝物に触れるような真剣さで小指を絡めた。その一瞬、雨音まで祝福するかのように柔らかく鳴り響く。
「ところで、この後、勇者リウスはどうなるの?」
瞳を期待で充たしながら身を乗り出すステラ。しかし、問いかけられたセリカは珍しく言葉をつまらせた。ふわりとした表情に、微かな照れと悔しさが混じる。
「……実はね。幼い頃に読んだきりなの。正確にどんなお話しだったのか、もうほとんど覚えていないのよ。ただ勇者リウスが魔王を討伐するというぐらい」
その告白に、ステラは裏切られた小動物のような目をした。
「そ、そうだ。アルトさんは、勇者リウス物語の続きをご存知ですか?」
「え?」
急に話を振られたアルトは、姿勢を正しながらも気まずそうに頭をかいた。
「悪いが……俺はこういう“勇者もの”は読んだことがなくてな」
「なんで?」
「いや、なんでと言われても……単純に興味の方向が違っただけだ。魔獣と戦うものより、ロボット…あっいや、ゴーレムとかの方が好きなタイプで……」
言い終わる前に、セリカの視線が鋭く突き刺さった。
「アルトさん。勇者リウス物語を読んだことが無いなんて……。普通、子どものころに誰でも一度は読むものだと思っていましたわ。読み聞かせの定番でもありますし、王都の図書館でも、村の共同本棚でも必ず置かれているはずなのに」
「いや、まあ……人それぞれだし」
ぶっきらぼうに肩をすくめるアルト。その横で、雨のしずくが叩く規則的な音に、部屋の空気がゆるやかに溶けあう中、ステラは二人のやり取りを両目いっぱいに詰め込みながら眺めていた。
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