悪党の食卓。 --王妃の実家は、たぶん黒幕説。--

マイネ

文字の大きさ
9 / 51

計画1日目を終えて。  食卓

しおりを挟む


計画実行1日目
ベルトハイド家・食卓・夜
一家集結


 食事を終えた後、血の様に真っ赤なワインを片手に、ベルトハイド家の面々は、それぞれが言葉を交わす事もなく、自由に過ごしていた。


「我が麗しき同胞達よ。計画1日目の終わりに、乾杯しようではないか?」

 笑みを浮かべる公爵は、今日も麗しい。綺麗な笑顔なのに、どこか危険な香りがする。


「悲願達成の為に」
 公爵がグラスを軽く持ち上げる


「「「悲願達成の為に」」」
 公爵に続いて、皆がグラスを持ち、音のない乾杯を交わし、血の様に真っ赤なワインを呷る。


「それでは、進捗を教えて貰おうかな…誰からが良いかな?」


「…それでは、私からお願いしたいですわ。旦那様」

 そう言って、夫人がグラスを僅かに持ち上げる。夫人は今日も美しく艶やかで、夫人の一挙手一投足が、視線を華麗に攫っていく。

「ああ。頼むよ」

 という公爵の合図を受けて、夫人の真っ赤な唇を薄く開き、ゆっくりと語り出す。



「本日のお茶会にて、派閥の皆様に、アリスがジーク殿下の婚約者候補となる事を、周知いたしました。

 その中で何名か、反抗的な態度を取る者がおりましたが…
 全員、しっかりと牙を折っておきましたわ。

『そんな事、聞いてない!』とか、生意気な事を言ってきますのよ。

 可笑しいでしょう?笑いを堪えるのが大変でしたわ。
 言ってないのだから、当然、聞いてるはずがありませんのに」

 そう言って笑う公爵夫人は、心底愉快な状況だと、楽しむように微笑んでいた。



「そうか…。我が家に楯突くような、愚か者がまだ残っているのか…。
 でも、ありがとう。
 これで無事に、これからの行動への建前が出来たね?」

 そう言って公爵は、綺麗に微笑んだ。



「では、お父様。次は私ですわ!好物は後で頂きましょう?」


 と、少女が無邪気に笑いながら、細く美しい指をグラスに這わせ、僅かに持ち上げる。



「…」
 少女の言葉を受けて、傍に座る儚げな美貌を持つ青年が、眉間に皺を寄せ、痛ましげな顔をする。



「…ではアリス。頼むよ?」



「はい。お父様。
 私は本日、ジーク殿下と接触致しました。
 ジーク殿下に直接、婚約者候補となる件の、ご承諾を頂きましたわ。

 ですが、イリスお兄様の事前情報通り、ジーク殿下の様子は、…不敬ですが、とても変でしたわ。

 ミーナ嬢の名前を出した瞬間に、女である私に対して、声を荒げて怒鳴り付け、激しい怒りを露わにされました…。

 以前までの、紳士的なジークお兄さまの様子とは、酷くかけ離れていて、同一人物とは思えない程でしたわ。

 それに、情緒の不安定さも際だっておりましたが、同時に、酷く体調が悪そうな様子で、頭を抑えてフラついているのも気になりました。

 冷静な判断が出来ているのか…大変怪しい所かと。

 今後の計画を実行するにあたり、ジーク殿下の変化の原因は、探る必要があるのかな?と、思いましたわ」




「…なるほど。それは怖い思いをしたね。大丈夫だったかい?」


「ええ。問題ありませんわ」


「今後は少し気をつけなさい。出来るだけ、2人きりにはならない様に…」


「それにしても、困った話だね。
 …ジーク殿下のそんな様子が広まったら、王位どころでは無い。…本人も辛いだろうし、何とかしなければならないね…」


 そう言って公爵は、思案するようにグラスを撫でた。


「…では、次はイリス…頼めるかな?」


「…はい。お父様」



「…本日は、アリスがジーク殿下との時間を過ごせるように、ミーナ嬢を引き離しました。

 その際に、ミーナ嬢に対する聞き取りを行いました。

『ジーク殿下や、その他の令息達を、どのように思っているのか?』と、本人に聞いてみたところ、ミーナ嬢は"全員が好き"と回答致しました。

 ですので、ミーナ嬢は殿下だけを狙い、王妃や妃の座を狙っている。…という事では、無いようです。

 また、ミーナ嬢の自由な振る舞いを、彼女のご両親である男爵夫妻は容認しております。

 信じられない事に。叱るどころか、"みんなと仲良く出来て偉いぞ"等と、ミーナ嬢の振る舞いを、褒めているようです。

 ミーナ嬢がやっている事は、全く理解出来ませんが【計画的に、この事態を引き起こしている】という事は、無い。と、思われます…」



「…正気を疑いますわ…」
 公爵夫人が綺麗な眉を僅かに寄せて、疑問を溢す。


「お母様?これが彼女が説く【自由恋愛】ですわ。ジーク殿下も、大変共感しておりましてよ?」


「まぁ…ジーク殿下まで…」


「…理解が難しいね。革新的というか、何というか…」


「…はい。ミーナ嬢が何を言っているのか、何を考えているのか…全く理解出来ません…」


 イリスが思い出したように、話を続ける。


「…それと、少し別件ですが、いつも彼女が配り歩いている【手作り菓子】を入手しました。

 彼女なりの、お礼だそうです。

 この菓子を、殿下を含めた彼女を取り巻く令息達に、事あるごとに配っております。

 気持ちが悪くて、今まで一度も食べた事はありませんが、物証として持ち帰りました」


 そう言ってイリスは、小袋に入った【手作り菓子】を食卓へと提出した。


 それを妹であるアリスが、興味深そうに覗き込み、小袋を開けて中身を取り出そうとする。



「やめなさい。触らない方が良い。
 この菓子については、後ほど成分解析をしよう。
 …殿下の様子から察するに、何かが盛られている可能性がある」



「…では、それは私にお任せください旦那様」



「ああ。ありがとう。よろしく頼むよ」
 そう言って公爵は、ゆるりと微笑んだ。



「では、最後は私か…。

 皆、初日からよくやってくれた。
 本当にありがとう。

 私は先日、女神にお願いをして、アリスを婚約者候補に押し入れてから、

 ミーナ・マーテル男爵令嬢及び、マーテル男爵家の調査を開始している。

 ミーナ嬢の出生調査から、男爵家の資金の流れ、交友関係まで、広く調査を入れている。

 少し調べただけでも、面白い結果が出てきそうなんだ。
 けれど、なんせ情報が膨大でね…もう少し時間がかかりそうだ…。

 だから、引き続き調査を進める。
 詳しくわかった段階で、皆にも共有しよう。

 それと、みんなが自由に動けるように、動かせるお金を増やしたから、今後は自由に使ってくれて構わないよ。

 私からはこんな所かな…。他に何か言いたいことがある人は居るかな?」





「…無いようであれば、今後の計画を再度確認して、明日からに備えようじゃないか…」



 そう言って公爵が笑顔を浮かべ、ゆるりとワインを口に含んだ。


 美しく優しい見た目をした公爵が、薄暗い食卓で、血の様に真っ赤なワインを口に含む光景は、不思議と酷く怪しくて、その食卓を不気味に見せた。
 


 王位奪取計画・第一段階・準備 完。
・ベルトハイド公爵家にて、計画全体の進捗確認。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された公爵令嬢と、処方箋を無視する天才薬師 ――正しい医療は、二人で始めます

ふわふわ
恋愛
「その医療は、本当に正しいと言えますか?」 医療体制への疑問を口にしたことで、 公爵令嬢ミーシャ・ゲートは、 医会の頂点に立つ婚約者ウッド・マウント公爵から 一方的に婚約を破棄される。 ――素人の戯言。 ――体制批判は不敬。 そう断じられ、 “医療を否定した危険な令嬢”として社交界からも排斥されたミーシャは、 それでも引かなかった。 ならば私は、正しい医療を制度として作る。 一方その頃、国営薬局に現れた謎の新人薬師・ギ・メイ。 彼女は転生者であり、前世の知識を持つ薬師だった。 画一的な万能薬が当然とされる現場で、 彼女は処方箋に書かれたわずかな情報から、 最適な調剤を次々と生み出していく。 「決められた万能薬を使わず、  問題が起きたら、どうするつもりだ?」 そう問われても、彼女は即答する。 「私、失敗しませんから」 (……一度言ってみたかったのよね。このドラマの台詞) 結果は明らかだった。 患者は回復し、評判は広がる。 だが―― 制度は、個人の“正 制度を変えようとする令嬢。 現場で結果を出し続ける薬師。 医師、薬局、医会、王宮。 それぞれの立場と正義が衝突する中、 医療改革はやがて「裁き」の局面へと進んでいく。 これは、 転生者の知識で無双するだけでは終わらない医療改革ファンタジー。 正しさとは何か。 責任は誰が負うべきか。 最後に裁かれるのは―― 人か、制度か。

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...