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第2話【ダサい第二秘書】
しおりを挟む帰り支度を終えた幸は、三階の社員ラウンジへと向かった。
今日は、温かいコーヒーを片手に、ただぼんやりと過ごしたい。
エレベーターを降りて廊下を歩くと、突き当たりに社員なら誰でも利用できるリフレッシュラウンジが広がる。
備え付けのコーヒーマシン、くつろげるソファ、大きな窓から一望できる外の景色。
そのラウンジに近づくにつれ、女性社員たちの話し声が聞こえてきた。
幸の足が止まる。
「黒田社長って、かっこいいよね」
「ホント、それ。見た目もカッコいいのに、仕事もできるなんて、男として最高だよね」
幸の胸に、微かな痛みが走る。
「彼女いないのかな?」
「浮いた噂も聞かないし、いないんじゃない?」
圭吾と幸の関係は、公にはできない。
圭吾の祖父に知られれば、二人は間違いなく引き裂かれてしまうだろう。
それを避けるため、交際を隠そうと提案したのは圭吾だった。
圭吾と離れたくない一心で、幸はその提案を迷わず受け入れた。
その結果、二人の関係を知るのは、圭吾と親しい一部の友人と、第一秘書の片桐勉。
そして、幸の親友、山川洋子だけ。
「ねぇねぇ、前から気になってたんだけど、第二秘書の西村さんって社長とどういう関係なの? いつもそばにいるよね」
「ああ、それね……会社を立ち上げた頃からずっと社長を支えてきた社員らしいよ。そのことに感謝して秘書として置いてるんだって」
「そうなんだ……だから、あんなにダサくても秘書でいられるんだ。……社長って義理堅い人なんだね」
「でもさ、西村さんって本当にダサいよね」
「社長があんなにイケメンだから、余計に目立つっていうか……もう少し見た目がマシな人を秘書にしたらいいのに」
「言えてる。でも今さら他部署に異動させるのも難しいんじゃない?」
「確かにそうかもね。だから、見た目も素敵で賢い第一秘書の片桐さんを連れて歩いて、誰でもできる雑用とかお茶くみは西村さんに任せてるんでしょうね」
その会話が耳に入った瞬間、幸の体からすっと血の気が引いていった。
――自分を気遣っての降格だと信じていた。
でもそれは、ただ都合のいい配置換えだったのかもしれない。
胸の奥でひりひりと痛みが広がり、呼吸さえ苦しくなる。
「かもね。でもさぁ、お情けで会社に置かれて、恥ずかしくないのかな?」
「年齢も年齢だし、もう雇ってくれる会社もないんじゃない? だから、恥ずかしくてもここに居座るしかないんでしょ」
「そうかもね。でも……なんか、痛すぎて笑えるね」
クスクスと笑う声が、幸の心を深く抉り傷つける。
震える手を握り締めた幸は、コーヒーを諦め、踵を返しラウンジを後にした。
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