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第5話【完璧なお嬢様】
しおりを挟むお昼過ぎ。
来客があるらしく、社長室までコーヒーを持ってくるよう、内線で連絡が入った。
幸は手早くコーヒーを淹れ、トレイに乗せて社長室へ向かう。
ドアの前で軽くノックすると、片桐秘書が静かにドアを開けてくれた。
その表情は暗く、幸を見つめる瞳には沈んだ影が宿っている。
その瞳を見て、胸に一抹の不安がよぎった。
だが幸はすぐに気持ちを切り替え、「失礼します」と小さく声をかけ、社長室へ。
部屋に入った瞬間、ソファーに座る圭吾の姿が目に飛び込んできた。
その表情は驚くほど柔らかい。
目も穏やかで――まるで、優しさそのものを湛えているようだった。
その眼差しに、幸は、昔の圭吾を重ね、胸の奥が一瞬熱くなった。
あの頃の彼は、いつもこんなふうに、優しい眼差しで幸を見てくれていた。
けれど――今は違う。
その視線の先にいるのは、もう自分ではない。
圭吾の向かいには、一人の女性が座っていた。
彼女を見つめる圭吾の瞳は、紛れもなく“愛おしさ”で満たされている。
その光景を目にした瞬間、幸は悟った。
――今朝、圭吾が電話で話していた相手が、この女性だと。
そして、片桐秘書のあの暗い表情の理由も。
全てが、今つながった。
胸の奥がざわつく。
悲しみ、戸惑い、痛み、悔しさ、諦め――いくつもの感情が、押し寄せ湧き上がる。
二人に歩み寄りながら、幸は女性へと視線を向けた。
年の頃は、圭吾より二つほど年下だろうか――。
透き通るような白い肌に、柔らかく肩へとかかる栗色の髪。
ぱっちりとした大きな瞳は、まるで絵本から抜け出したかのような可憐さを漂わせていた。
服装は、淡い色合いのワンピース。
仕草に合わせて裾がふわりと揺れ、そこにいるだけで空気が柔らかくなるようだった。
ひと目で“いいところのお嬢様”だと分かる。
幸には到底出せない、上品で自信に満ちたオーラをまとっている。
その瞳が、まっすぐ幸を射抜いた。
――息が詰まる。
喉の奥がきゅっと締めつけられるような息苦しさに、幸は深く息を吸い込み、震える手でトレイを持ち直す。
そして、できるだけ平静を装いながら、コーヒーを差し出した。
「……どうぞ」
擦れた声が、かろうじて出る。
「ありがとう」
柔らかく、甘い声。
室内に響いたその声までもが可憐で、完璧だった。
幸の心は、さらに沈んでいく。
「あなたが、西村さんですか?」
女性が、穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。
「……はい。西村です」
幸は小さく頷き、震える声で答える。
「初めまして、西村さん。私は――高瀬由紀といいます」
由紀と名乗った女性は、にっこりと微笑んだ。
その微笑みまでもが愛らしい。
守ってあげたくなるような――そんな雰囲気を、彼女は自然にまとっていた。
会社で「ダサい第二秘書」として知られる幸は、すべてにおいて彼女に負けていると感じた。
ノックアウト寸前の幸に、圭吾が言葉をかける。
「由紀さんは、高瀬テクノロジーの大事なお嬢様だ。だから、くれぐれも粗相のないように」
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