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第39話【アシスタントルーム】
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買い物を終えた後、匠と幸は一度マンションへと戻った。
購入した品を片付け終えたところで、携帯の着信音が室内に響く。
画面を見ると、水沢匠の名前が表示されていた。
通話ボタンを人差し指で押すと、すぐに落ち着いた声が鼓膜を震わせる。
「荷物は片付いた?」
「はい、片付け終わりました」
「今から会社に行くけど、一緒にどう?」
秘書として働くことになる会社。
どこまで形になっているのか――この目で確かめたい。
「はい、行きます!」
幸は迷うことなく返事をした
*****
エントランスを出ると、目の前には一台の車が待機していた。
助手席の横には、スーツをきちんと着こなした若い男性が一人立っており、匠と幸の姿を認めると、
慣れた所作で後部座席のドアを開けた。
匠に促され、幸が先に乗り込み、続いて匠も後に続く。
ドアが閉まると、その男性は静かに助手席へ。
運転手がエンジンをかけ、車がゆっくりと走り出す。
走り出すと同時に、匠が口を開いた。
「村田、こちらが西村幸さんだ。しばらくの間、俺の専属秘書として働いてもらうつもりだ。
いろいろ教えてやってくれ」
村田秘書(27歳)は、社長である水沢匠に絶対の信頼を寄せている。
だから、匠が彼女を秘書として迎えることに、少しの抵抗もなかった。
むしろ、普段は女性を寄せ付けない匠が西村幸を“専属秘書”に任命するというのなら――彼女にはきっと
何か特別な資質があるのだろう。
村田は自然とそう考えた。
「はい、わかりました。西村さん、よろしくお願いします」
穏やかな声が、幸の鼓膜をふるわせる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
幸も柔らかい声で応じる。
「幸さん、彼が秘書の村田肇。わからないことがあったら、なんでも彼に聞くように」
匠もまた、村田を深く信頼していた。
だからこそ、幸との関係を村田に隠そうとは思っていない。
ただ今は、もう少し状況を見極めてから話そう──そう考えていた。
そうこうしているうちに、車は地下駐車場へと滑り込んで行く。
三人は車を降り、エレベーターに乗り込む。
エレベーターは静かに上昇し、一階のフロアで止まった。
扉が開くと、広々とした空間が視界に入る。
ガラス張りのエントランスには柔らかな光が差し込み、光沢を帯びた大理石の床がその光を反射して、
フロア全体を明るく照らしていた。
ロビー中央には受付カウンターがあり、笑顔の受付嬢が来客対応にあたっている。
横にはソファとテーブルが並ぶラウンジスペースが整えられ、
来客がくつろぎながら打ち合わせできるようになっていた。
匠と幸、そして村田の三人が姿を現すと、受付嬢をはじめ社員たちは一斉に姿勢を正し、
匠に向かって深く頭を下げる。
その礼の最中、自然と全員の視線が幸へと向けられた。
社長が女性を連れて歩いている。
その事実だけで、皆の好奇心は静かにかき立てられる。
さらにその女性――モデルのようにすらりとしたスタイルに、類希な美貌を兼ね備えている。
その圧倒的な存在感に、男女を問わず、社員たちは思わず釘付けになってしまった。
匠と幸、村田の三人がロビーを抜け、上階に向かうエレベーターの前に立つ。
エレベーターのパネルにはカードリーダーが設置されており、村田が社員証をかざすと
「ピッ」と小さく音が鳴り、ボタンが光った。
扉が認証音とともに開き、三人が乗り込む。
エレベーターは静かに上昇を始め、社長室がある最上階で、止まった。
扉が開き、三人はエレベーターから降りる。
廊下にはカーペットが敷かれており、靴音は響かない。
村田が社長室の扉を開け、匠、幸、村田の三人は社長室へと入った。
「幸さん、君のデスクはここだから」
匠に案内されたのは、社長専用のアシスタントルーム。
社長室に隣接した、もう一つの部屋だった。
圭吾に与えられたあの部屋とは、雰囲気も設備も大きく違う。
窓があり、部屋の中、全体が明るいだけでなく、外の景色も眺められる。
くつろげるソファーセットや、長時間作業しても疲れなさそうな作業椅子までもが用意されていた。
浄水器もあり、冷蔵庫まである。
幸に対する匠の気遣いが、至る所から感じられ、幸の心はじんわりと温かくなる。
同時に、匠の気遣いに応えたい気持ちも、自然と膨らんでいった。
購入した品を片付け終えたところで、携帯の着信音が室内に響く。
画面を見ると、水沢匠の名前が表示されていた。
通話ボタンを人差し指で押すと、すぐに落ち着いた声が鼓膜を震わせる。
「荷物は片付いた?」
「はい、片付け終わりました」
「今から会社に行くけど、一緒にどう?」
秘書として働くことになる会社。
どこまで形になっているのか――この目で確かめたい。
「はい、行きます!」
幸は迷うことなく返事をした
*****
エントランスを出ると、目の前には一台の車が待機していた。
助手席の横には、スーツをきちんと着こなした若い男性が一人立っており、匠と幸の姿を認めると、
慣れた所作で後部座席のドアを開けた。
匠に促され、幸が先に乗り込み、続いて匠も後に続く。
ドアが閉まると、その男性は静かに助手席へ。
運転手がエンジンをかけ、車がゆっくりと走り出す。
走り出すと同時に、匠が口を開いた。
「村田、こちらが西村幸さんだ。しばらくの間、俺の専属秘書として働いてもらうつもりだ。
いろいろ教えてやってくれ」
村田秘書(27歳)は、社長である水沢匠に絶対の信頼を寄せている。
だから、匠が彼女を秘書として迎えることに、少しの抵抗もなかった。
むしろ、普段は女性を寄せ付けない匠が西村幸を“専属秘書”に任命するというのなら――彼女にはきっと
何か特別な資質があるのだろう。
村田は自然とそう考えた。
「はい、わかりました。西村さん、よろしくお願いします」
穏やかな声が、幸の鼓膜をふるわせる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
幸も柔らかい声で応じる。
「幸さん、彼が秘書の村田肇。わからないことがあったら、なんでも彼に聞くように」
匠もまた、村田を深く信頼していた。
だからこそ、幸との関係を村田に隠そうとは思っていない。
ただ今は、もう少し状況を見極めてから話そう──そう考えていた。
そうこうしているうちに、車は地下駐車場へと滑り込んで行く。
三人は車を降り、エレベーターに乗り込む。
エレベーターは静かに上昇し、一階のフロアで止まった。
扉が開くと、広々とした空間が視界に入る。
ガラス張りのエントランスには柔らかな光が差し込み、光沢を帯びた大理石の床がその光を反射して、
フロア全体を明るく照らしていた。
ロビー中央には受付カウンターがあり、笑顔の受付嬢が来客対応にあたっている。
横にはソファとテーブルが並ぶラウンジスペースが整えられ、
来客がくつろぎながら打ち合わせできるようになっていた。
匠と幸、そして村田の三人が姿を現すと、受付嬢をはじめ社員たちは一斉に姿勢を正し、
匠に向かって深く頭を下げる。
その礼の最中、自然と全員の視線が幸へと向けられた。
社長が女性を連れて歩いている。
その事実だけで、皆の好奇心は静かにかき立てられる。
さらにその女性――モデルのようにすらりとしたスタイルに、類希な美貌を兼ね備えている。
その圧倒的な存在感に、男女を問わず、社員たちは思わず釘付けになってしまった。
匠と幸、村田の三人がロビーを抜け、上階に向かうエレベーターの前に立つ。
エレベーターのパネルにはカードリーダーが設置されており、村田が社員証をかざすと
「ピッ」と小さく音が鳴り、ボタンが光った。
扉が認証音とともに開き、三人が乗り込む。
エレベーターは静かに上昇を始め、社長室がある最上階で、止まった。
扉が開き、三人はエレベーターから降りる。
廊下にはカーペットが敷かれており、靴音は響かない。
村田が社長室の扉を開け、匠、幸、村田の三人は社長室へと入った。
「幸さん、君のデスクはここだから」
匠に案内されたのは、社長専用のアシスタントルーム。
社長室に隣接した、もう一つの部屋だった。
圭吾に与えられたあの部屋とは、雰囲気も設備も大きく違う。
窓があり、部屋の中、全体が明るいだけでなく、外の景色も眺められる。
くつろげるソファーセットや、長時間作業しても疲れなさそうな作業椅子までもが用意されていた。
浄水器もあり、冷蔵庫まである。
幸に対する匠の気遣いが、至る所から感じられ、幸の心はじんわりと温かくなる。
同時に、匠の気遣いに応えたい気持ちも、自然と膨らんでいった。
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