【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第40話【顧客情報】

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 匠と幸の様子を見ていた村田は、あることに気づく。

 従業員として雇用するにしては、匠の幸に対する気遣いが普通ではないと。

 本来なら「西村」と呼ぶところを、「幸さん」と名前で呼び、しかも“さん付け”までしている。

 これだけでも、ある程度は推測できる。

 ――社長は、西村幸に好意を寄せている。

 この美しさに、このスタイルの良さ。
 そして何より、人柄の良さが、声にも態度にも表情にも自然と滲み出ている。
 誰もが思わず心を奪われるほど、西村幸は魅力的な女性だ。

 ――間違いない。

 そう確信した村田は、これから西村幸とどう関わればいいのか、悩みはじめる。

 ――社長が思いを寄せている相手に、あれこれ指示を出していいものなのだろうか。

 ――だが、仕事と私生活は分けなければ、業務に支障が出てしまう。

 そんな村田の心配を払うように、

「村田さん、すみません。給湯室の場所とか、いろいろ教えていただけませんか?」

 幸のほうから声がかかった。

 匠のほうへ視線を向けると、彼は軽く頷いている。

「それでは、西村さん。この階をご案内します」

「ありがとうございます」

 幸は村田の後ろに続いて歩き出す。

 給湯室、コピー室。
 役員が使用する専用会議室。
 来賓を迎える応接室。

 村田はフロアの設備を、一つひとつ丁寧に説明しながら、幸を案内していった。

「ありがとうございます。村田さんは、お仕事に戻ってください。私はコーヒーを入れてから、
 社長室に戻りますから」

 コーヒーを入れようと思っていた村田は、

「あっ……それじゃ、お願いします」

 幸の言葉に少し戸惑いながらも、任せることにした。

 給湯室に入った幸は、村田に教えられた通りにコーヒーを淹れ、それぞれ専用のカップに注いだ。

 トレイにのせ、社長室へと向かう。

 扉を開けて中に入ると、匠はデスク上の書類に真剣な眼差しを向けていた。

 村田秘書は、匠のデスクから少し離れた専用デスクでパソコンを立ち上げ、黙々と仕事を進めている。

 幸は、二人の邪魔をしないように気を配りながら、空いたスペースへそっとコーヒーカップを置いた。

 匠は軽く頷き、村田は「ありがとう」と穏やかに言葉をかける。

 二人が集中して働く姿を見ていると、幸の中にも“仕事がしたい”という気持ちが、自然と芽生えてくる。

 幸は静かにその場を離れ、自分専用のアシスタントルームへと向かった。

 深呼吸をひとつしてから、自分のデスクに腰を下ろす。

 電源を入れ、パソコンを立ち上げると、すべての機能が設定されており、すぐにでも使える状態になっていた。

 キーボードを叩きながら、【NexSeed黒田】と取引のある企業を一つひとつ検索していく。

 真剣な目で、パソコン画面を見つめ、情報を集める。

 幸は、一から情報を集めなければならなかった。

 なぜなら、前の会社で集めた顧客情報は、すべて置いてきたからだ。

 たとえ自分が苦労して集めたものであっても、その所有権は【NexSeed黒田】にある。

 だから、持ち出すことはできなかった。

 手元には、何もない。

 あれほど一生懸命集めた情報だったけど、あきらめるしかなかった。

 ……とはいえ。
 あれが圭吾のために使われると思うと、どこか面白くない。

 幸は個人情報の漏洩を恐れて、顧客データをすべて暗号化していた。
 今思えば、それは正解だった。

 暗号化されたままなら、誰にも解読されることはないからだ。
 つまり、情報そのものを置いてきたとしても、圭吾の役に立つことはない。

 それに――顧客の情報は、ある程度、自分の頭の中にしっかり残っていた。

 幸は記憶をたどりながら、取引先の名前やこれまでのやり取り、会話の中で
 知ったちょっとした嗜好を思い出していく。

「確か、この会社の社長はワインが好きだったはず……」

「CTOのAさんは、釣りが好きだと言っていた……」

 思い出した情報をもとに、一般公開されているデータと照らし合わせていく。

 なんとも地道な作業だ。

 それでも――。
 この積み重ねこそが、取引先の心をつかむと幸は信じて疑わなかった。


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