クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第49話【片桐秘書のストレス】

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「まだ見つからないのか! 探偵も雇って、興信所も使っているのに、女一人捜すのに何日かかるんだ!」

 イライラした圭吾の怒声が、社長室に鋭く響き渡る。

 片桐秘書は緊張した面持ちのまま、報告を続けた。

「親戚に身を寄せている可能性を考え、西村さんの身内も調べてみました。しかし……父親のほうは孤児院育ちで、身内はいません。母親のほうは、戸籍そのものが調査不可能だったそうで……」

「戸籍を調べられない? どういうことだ?」

 圭吾の眉間にシワが寄る。

「興信所によれば……“何かしらの圧力”がかかっている可能性が高く、現状、調査は不可能とのことです」

「圧力って……一般庶民の戸籍に圧力なんてかけるわけないだろ。記入漏れか、機械ミスに決まってる」

 圭吾は呆れた目で片桐を睨みつける。

「海外への渡航記録もないんだから、日本にいるなら見つかるはずだ。必ず見つけだせ」

 吐き捨てるように言うと、圭吾は椅子にどかっと腰掛けた。

 ――幸の奴、どこへ消えたんだ。
 ――見つけたら、無理矢理でも連れて帰ってやる。

 圭吾は、外食続きで胃が重く感じていた。

 そのせいか――

 幸の作る手料理が、無性に食べたくなった。

 由紀に作らせることも考えたが、彼女はお嬢様育ちで料理経験がない。
 作ってもらっても、幸ほどの味は期待できない。

 とにかく、幸を見つけ出し、自分の側に置く。
 彼女がどう抵抗しようとも、愛人にすることは圭吾の中で確定していた。

 *****

 最近の圭吾は、西村幸のことで機嫌がすこぶる悪い。

 そのあおりを受け、片桐秘書は心身ともに疲弊し、胃痛で薬が手放せなくなっていた。

 一日の仕事を終え、片桐は兄の翼に電話をかける。

「兄さん、俺が会社を辞めたら……雇ってくれる?」

 翼は中小企業の社長だ。

「なに馬鹿なこと言ってんだ。圭吾の会社は給料いいだろ。うちの倍は出てるはずだ。
 そんなとこ辞めたら絶対後悔するぞ」

 兄の翼は、圭吾の親友でもある。

「給料はいいけど、社長の機嫌取るのに疲れたよ」

「圭吾、そんなに機嫌悪いのか?」

「悪いなんてもんじゃないよ。西村さんが辞めてから、ずっとピリピリしてて大変なんだ」

「西村って……圭吾の元カノの幸さんか?」

「そうそう。今じゃストーカーみたいに行方追ってるんだぞ」

「えー、マジかよ。前は関わるのすら鬱陶しがってたのに」

「だろ? あれだけ冷たくしといて、急に追いかけ回すって……意味わかんないよ」

 片桐は小さく息を吐いた。

「もともと我が儘なやつだったけどな。最近は確かに付き合いづらくなってきたって感じはある。
 でもまあ……働けるだけ働いてみたらどうだ。次の就職先が見つかるまでは。
 とはいえ――圭吾の会社みたいに給料出してくれるとこなんて、そうそうないぞ」

「……そうだよな。……もう少し、頑張ってみるかな」

「そうそう。簡単に辞めるなよ。じゃあな」

 通話が切れた。

 片桐はスマホを握ったまま、深く息を吐き出した。

 ――それにしても、西村さんは、どこにいるんだろう。

 山川洋子のマンションを出てから、完全に足取りは途切れている。

 探偵にも興信所にも依頼しているというのに、西村幸に関する情報は一つも入ってこない。

 まるで、神隠しにでもあったかのように。

 片桐は、自分の身を考えるなら、正直、幸が見つかった方が助かる。
 西村幸さえ見つかれば、圭吾の機嫌も少しは戻り、自分の胃痛もマシになるだろう。

 しかし——。

 幸が圭吾に捕まってしまう未来を想像するだけで、幸に同情してしまう。
 見つからない方が、幸の為になる。

 今の片桐は、幸の為にも、見つからないことを願っていた。

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