【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第74話【高瀬家では】

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 一方、高瀬家でも、重苦しい空気が漂っていた。

「どうして、みんなが見ている前で、圭吾君を叩いたんだ!」

 由紀の父・高瀬社長が、声を荒らげて由紀を問い詰めている。

 由紀はソファに腰を下ろしたまま、俯き、ぎゅっと拳を握りしめていた。

 唇を噛みしめ、しばらく黙り込んだあと、震える声で口を開く。

「……だって……許せなかったんだもの……」

「許せない? だからといって、手を上げていい理由にはならないだろ!」

 高瀬社長は苛立ちを隠そうともせず、吐き捨てるように言う。

「黒田ホールディングス主催の、重要なパーティーだぞ。どれだけ多くの人間が、お前の行動を見ていたと思っているんだ」

 由紀は、はっとしたように顔を上げた。

 だが、その瞳に浮かんでいたのは、後悔というよりも――馬鹿にされたという、強い悔しさだった。

「……でも、お父様。圭吾さんは、私のことを本当に馬鹿にしているんです……」

 訴えるように、由紀は父を見つめる。
 その目には涙が滲んでいた。

「どういうことだ。何をもって、馬鹿にされていると言うんだ」

 高瀬社長は苛立ちを抑え込み、話を聞く姿勢を取る。

 すると――

「圭吾さん……あの元秘書、西村さんを、愛人にしようとしていたんです」

 あまりにも非常識な内容だった。

「愛人だと? 彼女は水沢社長の婚約者だぞ。そんなこと、あるはずがないだろ」

「でも……圭吾さんが、西村さんに……“愛人になれ”って、はっきり言っていたんです」

 由紀は唇を小刻みに震わせながら、必死に訴えた。

 父親として、娘の言葉を最初から疑うつもりはない。

 だが――あまりにも内容が常識外れで、にわかには信じがたい。

「由紀……証拠はあるのか?」

 高瀬社長は、慎重に言葉を選びながら問いかける。

「圭吾君が、その元秘書に“愛人になれ”と迫ったという、確かな証拠だ」

 証拠がなければ、今回の騒動は――
 由紀が感情に任せて暴走した、と受け取られても仕方がない。

 いずれにせよ、婚約解消は避けられないだろう。

 だが、このままでは、こちらの落ち度として責任を問われ、一方的に非を背負った形で解消せざるをえなくなる。

 もし、由紀の話が事実であるならば――

 逆に、非があるのは黒田家のほうだということを、黒田会長の前で示すことができる。

 だが、そのためには、動かぬ証拠が必要だった。

 高瀬社長がそう考えていると、由紀が小さく息を吸い、口を開いた。

「証拠は……あるには、あるんだけど……」

 でもその声は、しりすぼみに小さくなる。

「証拠があるのか? それはどこにあるんだ?」

「……それは……西村さんの携帯の中に音声が……だけど……」

 それを父親に聞かせ、証明することは難しい。

 由紀は父をまっすぐに見つめ、

「信じて、お父様。圭吾さんは、はっきり言っていたの。西村さんに――“俺の愛人になれ”って」

 悔しさを噛みしめるように、由紀は拳を握りしめる。

「それに……圭吾さんは、私のことなんて、最初から愛していなかった。私と婚約したのは、家柄だけだって……そう、はっきり言ってた……」

 由紀の瞳から、堪えていた涙が溢れ流れ落ちていく。

 愛していると言われた言葉も、あのとき向けられた優しさも――
 すべてが、噓だったのだ。

 悔しさと怒りが込み上げ、由紀の涙は止まらなかった。

 そんな娘の様子を見て、

「……もう、泣くな」

 高瀬社長は、低く静かな声で言った。

「今度、その元秘書に会ってもらえるよう、こちらから頼んでみる。そこで、話を聞き――証拠となる音声を聞かせてもらおう」

 一拍置き、

「そのうえで――今後のことは、改めて話し合って決めよう」

 父の言葉に、由紀は小さく頷いた。

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