【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第82話【夜八時】

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【NexSeed黒田】の広報部では、社長命令のもと、幸と男性が仲睦まじく写った写真を、SNSに配信した。

 しかし――
 配信してほどなく、反応が出始めた頃には、状況は一変していた。

 《見出しが陰湿すぎる》
 《根も葉もない噂を流すなんて、悪質》
 《これはさすがにアウトでしょ》

 非難と苦情が、雪崩のように押し寄せる。

「部長、どうしますか? 苦情が止まりません。大変なことになっています」

 慌てた部下が、青ざめた顔で報告する。

 広報部長は、西村秘書がどれほど誠実に職務を果たしてきたかを知っていた。

 元秘書を貶めるような内容を配信することに、最初から強い抵抗を感じていたのも事実だ。

 だが――

「お前も、片桐みたいに俺に逆らって、クビになりたいのか?」

 圭吾のその一言に、逆らえる者はいなかった。

 脅され、押し切られる形で、仕方なく配信に踏み切ったのだ。

 だからこそ――

「……すぐに、そのSNSを閉鎖しろ」

 部長は、低く短く指示を出した。

「大丈夫ですか、部長? 社長命令ですよ」

 部下の不安そうな声にも、部長は首を横に振る。

「構わない。このまま苦情が増えれば、配信元がどこか調べられる。そうなる前に、
 問題のアカウントを即座に閉鎖しろ」

 その判断は、会社を守るためであり、同時に――これ以上、取り返しのつかない事態を招かないための、
 苦渋の決断だった。

 *****

 圭吾は、会社が危機的な状況に陥っていることにより、すでに追い詰められていた。

 幸に向けた憎しみは、彼の焦燥をさらに煽り、その結果、冷静な判断力を奪っていく。

 片桐秘書を一方的に切り捨てたこと。
 広報部長を脅し、無理やりSNSを配信させたこと。

 その一つ一つの選択が、状況を好転させるどころか、確実に――最悪な方向へと加速させていた。

 だが圭吾は、それが自分自身の手で、自分の首を絞めている行為だということに、
 まだ気づいていなかった。

 そんな圭吾のもとに、一本の電話が入る。

 着信画面には、〈黒田 明〉の文字。

 通話ボタンを押すと、すぐに低く、疲れ切った声が耳に届いた。

「今日の午後八時に、会長宅へ来なさい。高瀬社長と、由紀さんも来るそうだ。遅れるんじゃないよ」

 父・明の声は淡々としていたが、その奥に滲む疲労が、圭吾の鼓膜を震わせる。

 本当は、会社の状況について問いただしたい気持ちもあった。

 だが、その声色から、今それを口にすべきではないと察し、

「……わかりました」

 そう答えた瞬間、通話は一方的に切れた。

 圭吾はしばらく、暗くなった画面の携帯電話を見つめたまま動かなかった。

 ――今回の集まりは、婚約についての話し合いだろう。

 そう、当然のように考える。

 ――由紀は、いったい何を話すつもりだ?
 ――まさか、俺が幸に「愛人になれ」と言ったことを持ち出すつもりか?

 だが、由紀の手元には、その決定的な証拠はない。

 証拠さえなければ、先に手を出した由紀のほうが、責められるに決まっている。

 ――俺は、ただ否定すればいい。

 すべての非を、由紀になすりつけるつもりでいた。

 *****

 匠のもとに、高瀬社長から電話が入った。

「先ほどお話しした件ですが、本日、夜八時に黒田会長宅で集まることになりました。
 ご都合はいかがでしょうか?」

「承知しました。夜八時ですね」

 匠がそう返すと、

「ありがとうございます。それでは、夜八時にお待ちしております」

 高瀬社長は丁寧にそう告げ、通話は切れた。

 通話が終わると同時に、匠は、今日の集まりに必要な人間へと連絡を入れていく。

 ――あの男も……今日で終わりだな。

 そう確信しながら、匠は何事もなかったかのように、再び仕事へと戻った。
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