楽将伝

九情承太郎

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第三章 楽将するは我にあり

三話 それあなたの完敗ですよね?(3)

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 天正てんしょう十二年(1584年)
 四月六日、夜。
 小牧山城から徳川軍を誘き出す為に、秀吉は別働隊を三河に進軍させる。

 第一隊 池田恒興つねおき 五千
 第二隊 森長可ながよし 三千
 第三隊 堀秀政ひでまさ 三千 
 第四隊 羽柴秀次ひでつぐ 九千

 総勢二万の大軍勢である。
 
 これに対し、徳川家康は丸一日、情報収集に費やす。
 本拠地に大軍が向かっているのに、凄まじい忍耐力で、情報収集を最優先にする。
 別働隊の陣立てを詳細に確認してから、八日の夜に榊原康政等の部隊四千五百を先に行かせ、更なる情報収集を重ねる。
 四時間の差を付けて、徳川家康と織田信雄の本隊九千三百が出発し、先発した部隊と合流する。
 真夜中の二十四時に行われた軍議で、家康は最初の獲物を明確にする。
「最後尾の羽柴秀次から、狩る」
 仕入れた情報から、家康は翌日に殲滅する順番を決めて、各武将に指図をする。
 決めると、深夜二時に進撃を開始。
 敵の意表を突くために、徹夜で移動した。


 四月九日、未明。
 池田恒興つねおきと森長可ながよしの隊は、進路上で邪魔な岩崎城を攻撃していた。
 三時間で岩崎城を落とし、朝日の中で休息を取っていた頃合いで、後続の羽柴秀次隊がいる方向から不自然な煙が上っているのを視認する。
「流石だ、先にケツから掘りに来たか」
 脂汗を流す森長可ながよしの視界に、朝日を浴びて眩しく輝く金の扇が目に入る。
 徳川家康の馬印・金扇を掲げた軍勢が、後続の堀秀政との連携を断つ位置に、着陣する。
 いきなり軍勢を真っ二つにされて、池田恒興つねおきは、その場で吐いた。
「…秀次を狩るには四千で、こっちに一万って采配かな? 岳父殿、まだ五分だぜ! 酒でも飲んで気合い入れ直せよ」

 城攻めで疲れた池田・森八千
  VS
 徹夜で移動してきた徳川・織田九千三百

 確かに、まだ五分に見える。
 酒は飲まずに白湯で胃腸と気分を和らげつつ、池田恒興つねおきは堀秀政に応援を要請する。
 合流は無理でも挟撃をすれば、秀吉が到着するまでに、家康を撃破する可能性がある。


 池田・森からの救援要請を、堀秀政は無視する。
 無視である。
 返答すらしない。

 二時間前。
 未明に奇襲を受けて壊滅した秀次の軍勢を、堀秀政は吸収して自軍に加えると、接近してきた徳川軍を迎撃していた。
 真夜中過ぎに味方が奇襲を受けて敗退しているのに、沈着冷静に効果的な迎撃陣を強いて、榊原康政と他数個の隊を敗走させている。
 武田信玄、真田一族と並び、徳川から勝ち星を上げた稀有な名将の仲間入りを、堀秀政は果たす。
 この戦況を知った家康は、作戦を一部変更する。
 手強い堀秀政を次の餌食にするのではなく、堀秀政と池田・森を分断する戦術を取った。
 その意を汲み取り、堀秀政は池田・森からの援軍要請を無視し、この戦線から離脱する。
 秀次も拾って帰るので、そこは秀吉の期待に沿わなかったかもしれないが。


「堀久を、見逃すつもりですか?」
 織田信雄のぶかつにとって、堀秀政は『父・信長の秘書だったのに、織田家を秀吉に切り売りした裏切り者』である。
 それの勝ち逃げを許したので、思わず家康に文句を言ってしまう。
「見逃してやると、堀は秀次の残兵数千を連れて、逃げてくれる。我々は池田と森に専念できる」
 家康は眠そうに、若者へ柔軟な考え方を教えてあげる。
「分かりました。後回しにします」
 私怨を後回しに出来るスキルに長けているお陰で、織田信雄のぶかつは今後も器用に生き残る。


 四月九日、午前十時。
 徳川・織田軍約一万VS池田・森軍約八千の戦いが、長久手ながくて(愛知県長久手市)で開始される。
 家康が陣を構える高台に、池田・森軍が攻め込む形の戰となった。
 池田恒興つねおきとしては、がっぷり四つ相撲で組み合っている間に、森長可ながよしの異常な攻撃力が家康に届く事に賭けた。
 激闘が二時間続いた末に。
 家康の本陣目掛けて最前線で血煙を上げていた森長可ながよしが、鉄砲の狙撃で頭部を直撃され、即死。
 森軍が総崩れとなり、戦力バランスが一気に崩れる。
 池田恒興つねおきは敗戦後を見据えて、次男・池田輝政てるまさを隊ごと離脱させて、池田軍の全滅を防いでから討ち死にした。


 この作品だけを見ると散々な目に遭っている池田恒興つねおきだが、最後の采配は池田家にとって大きな繁栄をもたらす。
 生き延びて家督を継いだ次男・池田輝政てるまさは、秀吉からも家康からも信任される程に人柄が良く、家康は娘婿に選んだ。
 この縁で後に播磨姫路藩初代藩主となり、大河ドラマでの出番が稀でも、大大名として生き残った。
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