楽将伝

九情承太郎

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第二章 君を守るために僕は夢を見る

十一話 爆裂! ザ・ノブナガマン!?(5)

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 金森可近ありちか(信長のコスプレ中)の腹に、杉谷善住坊ぜんじゅうぼうの放った弾丸が命中する。
 鉄砲玉は鎧を貫通し、服の下に忍ばせておいた性技指南書(著作・松永久秀)で、辛うじて止まった。
 着弾の衝撃は腹部に至ったが、柴田勝家の腹パン程度で済んだ。
 充分に痛いが。
「痛っっっったあああ」
 可近は芝居を忘れて、思わず腹部を抱えて呻く。
 可近(信長のコスプレ中)が紙一重で致命傷を免れたとは知らず、長屋喜藏きぞうがキレる。
 槍を構えて馬を茂みに突進させ、茂みの奥へ逃げる杉谷善住坊ぜんじゅうぼうを追う。
 杉谷善住坊ぜんじゅうぼうは現役の忍者らしく、地形の起伏と大自然を利用して追手を撒こうとするのだが、長屋喜藏は器用に距離を詰めて槍を付けた。
 金森隊の忍者たちが加勢する暇もなく、勝負が付く。
 逃げる杉谷善住坊ぜんじゅうぼうの無事な方の肩が槍で貫かれ、持ち上げられて強引に引き戻される。
 杉谷善住坊ぜんじゅうぼうにとっては不幸な事に、長屋喜藏は険しい地形で生まれ育った経験を活かす方向で武勇を磨いている。
 後年、金森軍が山深い飛騨国を攻略する際、この武勇を活かして攻めの主将に採用される。

「お見事です、長屋殿!」
 堀久太郎は、馬で入り難い場所に突入して、苦もなく曲者を生け捕りにした長屋喜藏の武勇に、歓声をあげる。
「でかした」
 可近も信長の真似をする余裕を取り戻し、弟子の手柄を喜ぶ。
 師匠が無事そうなので、喜藏は驚いて杉谷善住坊ぜんじゅうぼうを地面に落とす。
「手当てをしなくていいのですか?!?!」
 可近(信長のコスプレ中)は腹の下から、弾のめり込んだ性技指南書(著作・松永久秀)を取り出す。
「エロ本は、人類を救う。覚えておけ」
「師匠。かっこ悪いです」
「今は織田信長のコスプレ中だから、そう見えるだけだよ」
 堀久太郎は、逃げようとする杉谷善住坊ぜんじゅうぼうの肩を踏んで止めながら、聞かなかった事にする。
 杉谷善住坊ぜんじゅうぼうは、聞かなかった事にはしなかった。
「くそ、影武者かよ。そうだよなあ、小姓はいても、鬼強の馬廻が見当たらねえ。そうだよなあ。誰だ、あんた?」
 金森可近ありちかは、信長のように偉そうなドヤ顔で、名乗ってあげる。
「織田の殿様に代わって悪を斬る、正義のスーパー影武者、爆裂! ザ・ノブナガマン!!」
「お前、絶対に殺す」
 冥土の土産に堂々と名乗ると思いきや、思い切りバカにされたので、杉谷善住坊ぜんじゅうぼうは個人的に激怒した。
 必ずや、このふざけ過ぎている影武者に鉄砲玉を撃ち込もうと、決意する。
「そんなに怒らなくても。死ぬ前に、腹の底から笑わせてから死なせてあげようという、優しさが分からないか?」
 可近(信長のコスプレ中)はサービスのつもりで、GACKT版・織田信長の声真似もしてあげる。
「(GACKTっぽい声音で)さらばだ、杉谷善住坊ぜんじゅうぼう。名のみを残して、永遠に眠れ」
「似てねえよ」
 杉谷善住坊ぜんじゅうぼうには、不評だった。
 こんなのに殺されたくないので、堀久太郎を跳ね除けて、再び茂みに逃げ込もうとする。
 喜藏が再び槍を付けようとするが、敵の矢弾が届き始めたので、断念する。
 朝倉・浅井同盟軍が、杉谷善住坊ぜんじゅうぼうの失敗を知るや、本気の追撃を始める。
 小細工抜きの、力押しの追撃戦が、再開された。
「走れ! 逃げろ!」
 可近ありちかは信長のフリをやめて、全力で逃げに入る。

 
 三日後。
 第八迎撃地点まで戦い抜き、あと四時間も歩けば京都に着くという所まで進んだのに、朝倉・浅井同盟軍は追撃をやめなかった。
 三日間、ほぼ徹夜で連戦したので、木下・明智・池田・金森隊の面々も、限界である。
 逆に朝倉・浅井同盟軍は、ここで全く疲れていない軍団を投入してきた。
 引き離せそうにないので、殿軍は迎撃し易そうな街道沿いで、最後の一休みをする。
「半兵衛、今度のを凌げば、流石に終わりだぎゃあ。何かアイデアない?」
 秀吉が、自分だけダッシュで逃げ帰りたい欲求を抑えて、天才軍師に助けを求める。
 返事がないので振り返ると、痩せ馬と一緒に、寝落ちしている。
「寝かしてやれ。ここは蜂須賀小六が、壁になる」
 蜂須賀小六が、覚悟を決めて最後の防波堤になろうと、街道中央で仁王立ち。
 したまま寝落ちしかける。
「早く来いやあ、寝ちまうだろうが」
 強がっているが、望みは薄い。
 木下秀長は、散り散りに逃げる際の方向を、再々確認しておく。
 池田隊と金森隊は、粛々と残った矢弾を確認する。
「余っていませんな。二回斉射して、尽きます」
 池田勝正かつまさが、金森可近ありちかに確認する。
「第八迎撃地点で、最後だと踏んでいましたので」
 家来に矢弾の調達を緊急で頼んだが、間に合わないだろう。
「はっはっは、うちの隊なんか、人も余っていませんよ」
 家来が三十人以下にまで減った明智光秀が、変な自慢をしてくる。
 明智隊は、撤退の為の隙を作るために何度も奇襲を繰り返したので、兵の死傷率が激しい。
 また明智隊だけは迎撃地点に寄らずに行動したので、食事も休憩も負傷者の手当も満足に出来ずに、脱落者が多い。
「ありがとう、明智光秀。君がいてくれて、ここまで来られたよ」
「先輩…」
 可近ありちかが珍しくめっちゃ褒めるので、明智光秀は涙目でおねだりする。
「ご褒美に、織田信長のコスプレを、是非とも祝勝会で」
「ちっ、まだ生き残る気か」
 光秀が死ぬ前に、ちょっと優しくしてあげただけだった。
「先輩、ダメですよ、味方の士気を挫こうとしては」
「お前が常日頃、全ての味方にしている事だろうが!」
「先輩、誤解ですよ。相手の感受性が、この十兵衛ちゃんより劣等なだけですよう」
「いいや、相手が真っ当な証拠だ」
 そんなやり取りをしている間に、大軍が押し寄せる足跡が、迫り来る。
「う~む。いつも以上に迫力のある足音だ」
 長屋喜藏が、疲れ切った馬から降りて休ませながら、槍を握り締める。
 大地から全身を震わせる足音に負けないように、深呼吸を繰り返す。
「…いえ、確かに、今まで以上に、足音の数が多いようです。異常です」
 堀久太郎は、馬に頼らず、自らの足で街道を戻って様子を見に行く。
 敵の更なる増援だった場合、ここで迎撃するよりも、解散して勝手に逃げた方が生き残る可能性が高いだろう。
 やがて堀久太郎がハンドサインを出し、観に来るように手招きをする。
 喜藏が走り寄り、その様子を見た可近ありちかが、駿馬で追い越す。



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