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第二章 君を守るために僕は夢を見る
二十九話 逆襲の信長(8)
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佐久間信盛が素早く自軍の方へ逃げ去り、信長の刀の届かない距離を保つ。
退き佐久間の看板に、偽りなし。
信長は無理に追わず(二連続で徹夜した後である)、佐久間信盛の領地没収を、甲高い声で叫ぶ。
可近を含めた全側近たちが、信長の凶行を止めに入る。
ここで信長が怒りに任せて佐久間信盛を処分した場合、見限る家臣が大量に出る。
無礼な主君には、家来の方から見限る時代である。
ここで歯止めをかけないと、織田軍は分解する。
家臣団が信長を包囲し、宥めにかかる。
後にも先にも、ここまで織田軍の武将がここまで一致団結した例はない。
柴田勝家「殿は一つの過失に対し、三つの侮辱を返しました。やり過ぎです」
前田利家「殿が勝手に張り切って、徹夜でキレてただけでしょ? 口答えぐらいしますよ」
明智光秀「十兵衛ちゃんでもドン引きするくらいの逆ギレ合戦でした。ときめいたので、もっと見せ(可近に腹パンされる)ここは一休みして、頭を冷やしましょう」
滝川一益「周辺に敵勢力は見当たりませんので、休息を取って問題ありません」
丹羽長秀「殿。佐久間は、得難い武将です。シニカル系ダンディ武将の需要を、甘く見ないでください」
羽柴(木下)秀吉「殿! 平泉寺の僧兵たちを保護しただぎゃあ! 彼奴等、織田に寝返りを決めました」
信長が、可近を睨む。
金森可近「暴風雨の最中でしたので、朝倉の本陣と間違えて、羽柴(木下)の陣に着いてしまったようです。これこそまさに、ついていますなあ」
羽柴(木下)秀吉「これも殿の御威光だぎゃあ! 越前最強の僧兵集団が、合力してくれただぎゃあ」
主君に黙って勝手放題のやり口を見せ付けられて、信長は苦笑する。
面と向かって口答えした佐久間信盛の方が、なんぼかマシに思えるように、小芝居を打ってくれている。
信長は刀を小姓に預けて、全軍に休息を告げる。
「…寝る」
堀久太郎(秘書)が、宿所に確保した寺に、大急ぎで信長を放り込む。
このチャンスに、可近がトドメを刺す(物理的にではない)
「あのアホが寝ているうちに、佐久間の処分を決めるぞ。あのアホが起きたら、『覚えていないのですか? 寝る前に、我々の前で、はっきりと告げましたぞ』と口裏を合わせて、騙す」
「五郎八。お主も寝ておけ」
柴田勝家は、敬語を一部忘れてしまった可近にも、休息を勧める。
八月十五日・十六日を、織田軍は休息して過ごした。
戦争中の織田軍にしては、大変珍しい事に、有給休暇である。しかも二日連続。
信長の暴走で乱れてしまった編成を修正し、寝不足を解消するまで、織田軍は本気で休息した。
頭も気持ちもリフレッシュしてから、信長は佐久間信盛に沙汰を言い渡す。
「この戦いが終わったら、三好本家を潰しに行けや。それで帳消しだで」
言い方はアレだが、大手柄を立てるチャンスを与えた。
普通は圧倒的な大軍で押し潰す所を、佐久間信盛を主将に据えた。
懲罰という形の、信長なりの謝罪だった。
「今年中に三好本家を倒し、面目を取り戻します」
睡眠不足が取れたので、佐久間信盛は爽やかに、謝罪を受ける。
お互い、元の関係に戻ったが、理解している。
お互い、隙があったらぶち殺したくなる程に、憎んでしまった事に。
八月十七日。
織田軍が平静を取り戻し、越前に侵攻を開始する。
八月十八日。
越前朝倉家の本拠地・一乗谷(福井県福井市)に、織田軍が攻め込む。
朝倉軍は数百人しかおらず、朝倉義景は既に脱出した後だった。
この地を焼き払って、朝倉義景の避難先に移動する間に、勝負は付いていた。
朝倉義景の従兄弟・朝倉景鏡が裏切り、首級を持参して信長に降伏する。
この展開は予想されていたが、朝倉景鏡と残った朝倉一族への信長の対応は、冷たかった。
義景の系類は、助命を条件に降伏したにも関わらず、処刑された。
朝倉景鏡や、戦に加わらずに生き残った朝倉家臣団は、織田に臣従して領土を安堵されたが…
こういう手合いに、信長は臣従を認めても、好意を示さなかった。
織田軍はこの地から去り、浅井長政との決着に向かうのだが、越前一向一揆が朝倉景鏡&朝倉家臣団を一掃した。
以前から一向一揆に悩まされている土地柄で、織田軍に与したのである。一向一揆から目の敵にされたし、そもそも将兵の数が激減している。
信長は救援を請われたが、無視して消されるに任せた。
旧朝倉家臣団がいなくなった後で、信長が再侵攻して治める。
信長の朝倉家への対応は、一切の敬意が無かった。
八月二十六日。
織田軍は、小谷城の包囲に戻り、総攻撃に入る。
攻めの主将は、予定通り、木下(羽柴)秀吉に任される。木下軍は、一日で本丸以外を攻め落として、本丸(城の司令塔&最終防衛ライン)を包囲する。
その手際の良さに、敵味方が感嘆する。
その場にいる誰も、木下軍より上手くやれるとは言わなかった。
そこまで戦局が詰むと、相手も抵抗を辞めた。
本丸の浅井長政は、市(正室。信長の妹)と三人の娘を織田軍に引き渡してから、自害した。
信長は、浅井長政の系類を(市と三人の娘を除き)皆殺しにし、浅井長政から寝返った武将も処刑した。
織田軍は出撃してから一ヶ月以内に、二つの戦国大名を攻め滅ぼした事になる。
信長は逆襲の成功を誇示する為に、浅井長政と父・久政の首を京都で晒した。
それが済むと、朝倉義景の首級も含めて三つの頭蓋骨で、記念の酒盃を作るように指示する。
金森可近に対して。
流石にそこまで悪趣味な記念品を作れる職人に心当たりがないので、可近は堺へと相談の足を延ばす。
「何で此処に持って来ますのや、悍ましい」
金森可近から、「三人の戦国大名の頭蓋骨で酒盃を作る」話を持ち掛けられて、千宗易は本気で嫌がる。
久しぶりに達人の入れた茶を飲んで「ほのぼの」しながら、可近は嫌な用事をお裾分けする。
「供養です、供養。これで殿の逆襲も、ひと区切り。新年の席で、家臣団にこの記念杯を披露して、過去の怨みを水に流して、心機一転する流れです」
一応は信長なりの供養と清めなのだが、普段の行いがサイコパスなので、残虐な示威行為だと受け取る人が多い。
「あの方のハイペースやと、毎年記念杯を作る羽目になりませんか?」
「流石に一度で飽きると思う。大不評だろうし」
「大不評と思うなら、はなから作らんとええ事ですがな」
「あの人は、作って見せた方が、早い」
「(ため息)ほな、漆で仕立てますけど、よろしいか?」
「いっそ金箔で覆いません?」
「面白がってどないすんねん。毒されてまっせ、金森はん」
「そうですねえ、少し離れようかな」
金森可近は、佐久間信盛よりも遥かに多い回数、信長を怒らせている。
信長を少年期から見てきたので、その執念深さは理解している。
側近ではなく、武将として働いた方が、三河に逃げ易いかもしれない。
「自分もそろそろ、一軍の将に、なっておきます」
それを聞いた千宗易の、目の色が変わる。
「武具の調達は、是非とも、うちで」
注意・千宗易は、商人です。茶道は趣味です。
「今後とも、ご贔屓に」
「じゃあ、お祝いに、この茶器を貰っても…」
「あかん」
千宗易は斗々屋茶碗を可近から遠避けると、紙コップで白湯を出す。
「次に言うたら、頭かち割りまっせ」
巨漢の茶人に凄まれて、可近はおねだりを断念する。
退き佐久間の看板に、偽りなし。
信長は無理に追わず(二連続で徹夜した後である)、佐久間信盛の領地没収を、甲高い声で叫ぶ。
可近を含めた全側近たちが、信長の凶行を止めに入る。
ここで信長が怒りに任せて佐久間信盛を処分した場合、見限る家臣が大量に出る。
無礼な主君には、家来の方から見限る時代である。
ここで歯止めをかけないと、織田軍は分解する。
家臣団が信長を包囲し、宥めにかかる。
後にも先にも、ここまで織田軍の武将がここまで一致団結した例はない。
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信長が、可近を睨む。
金森可近「暴風雨の最中でしたので、朝倉の本陣と間違えて、羽柴(木下)の陣に着いてしまったようです。これこそまさに、ついていますなあ」
羽柴(木下)秀吉「これも殿の御威光だぎゃあ! 越前最強の僧兵集団が、合力してくれただぎゃあ」
主君に黙って勝手放題のやり口を見せ付けられて、信長は苦笑する。
面と向かって口答えした佐久間信盛の方が、なんぼかマシに思えるように、小芝居を打ってくれている。
信長は刀を小姓に預けて、全軍に休息を告げる。
「…寝る」
堀久太郎(秘書)が、宿所に確保した寺に、大急ぎで信長を放り込む。
このチャンスに、可近がトドメを刺す(物理的にではない)
「あのアホが寝ているうちに、佐久間の処分を決めるぞ。あのアホが起きたら、『覚えていないのですか? 寝る前に、我々の前で、はっきりと告げましたぞ』と口裏を合わせて、騙す」
「五郎八。お主も寝ておけ」
柴田勝家は、敬語を一部忘れてしまった可近にも、休息を勧める。
八月十五日・十六日を、織田軍は休息して過ごした。
戦争中の織田軍にしては、大変珍しい事に、有給休暇である。しかも二日連続。
信長の暴走で乱れてしまった編成を修正し、寝不足を解消するまで、織田軍は本気で休息した。
頭も気持ちもリフレッシュしてから、信長は佐久間信盛に沙汰を言い渡す。
「この戦いが終わったら、三好本家を潰しに行けや。それで帳消しだで」
言い方はアレだが、大手柄を立てるチャンスを与えた。
普通は圧倒的な大軍で押し潰す所を、佐久間信盛を主将に据えた。
懲罰という形の、信長なりの謝罪だった。
「今年中に三好本家を倒し、面目を取り戻します」
睡眠不足が取れたので、佐久間信盛は爽やかに、謝罪を受ける。
お互い、元の関係に戻ったが、理解している。
お互い、隙があったらぶち殺したくなる程に、憎んでしまった事に。
八月十七日。
織田軍が平静を取り戻し、越前に侵攻を開始する。
八月十八日。
越前朝倉家の本拠地・一乗谷(福井県福井市)に、織田軍が攻め込む。
朝倉軍は数百人しかおらず、朝倉義景は既に脱出した後だった。
この地を焼き払って、朝倉義景の避難先に移動する間に、勝負は付いていた。
朝倉義景の従兄弟・朝倉景鏡が裏切り、首級を持参して信長に降伏する。
この展開は予想されていたが、朝倉景鏡と残った朝倉一族への信長の対応は、冷たかった。
義景の系類は、助命を条件に降伏したにも関わらず、処刑された。
朝倉景鏡や、戦に加わらずに生き残った朝倉家臣団は、織田に臣従して領土を安堵されたが…
こういう手合いに、信長は臣従を認めても、好意を示さなかった。
織田軍はこの地から去り、浅井長政との決着に向かうのだが、越前一向一揆が朝倉景鏡&朝倉家臣団を一掃した。
以前から一向一揆に悩まされている土地柄で、織田軍に与したのである。一向一揆から目の敵にされたし、そもそも将兵の数が激減している。
信長は救援を請われたが、無視して消されるに任せた。
旧朝倉家臣団がいなくなった後で、信長が再侵攻して治める。
信長の朝倉家への対応は、一切の敬意が無かった。
八月二十六日。
織田軍は、小谷城の包囲に戻り、総攻撃に入る。
攻めの主将は、予定通り、木下(羽柴)秀吉に任される。木下軍は、一日で本丸以外を攻め落として、本丸(城の司令塔&最終防衛ライン)を包囲する。
その手際の良さに、敵味方が感嘆する。
その場にいる誰も、木下軍より上手くやれるとは言わなかった。
そこまで戦局が詰むと、相手も抵抗を辞めた。
本丸の浅井長政は、市(正室。信長の妹)と三人の娘を織田軍に引き渡してから、自害した。
信長は、浅井長政の系類を(市と三人の娘を除き)皆殺しにし、浅井長政から寝返った武将も処刑した。
織田軍は出撃してから一ヶ月以内に、二つの戦国大名を攻め滅ぼした事になる。
信長は逆襲の成功を誇示する為に、浅井長政と父・久政の首を京都で晒した。
それが済むと、朝倉義景の首級も含めて三つの頭蓋骨で、記念の酒盃を作るように指示する。
金森可近に対して。
流石にそこまで悪趣味な記念品を作れる職人に心当たりがないので、可近は堺へと相談の足を延ばす。
「何で此処に持って来ますのや、悍ましい」
金森可近から、「三人の戦国大名の頭蓋骨で酒盃を作る」話を持ち掛けられて、千宗易は本気で嫌がる。
久しぶりに達人の入れた茶を飲んで「ほのぼの」しながら、可近は嫌な用事をお裾分けする。
「供養です、供養。これで殿の逆襲も、ひと区切り。新年の席で、家臣団にこの記念杯を披露して、過去の怨みを水に流して、心機一転する流れです」
一応は信長なりの供養と清めなのだが、普段の行いがサイコパスなので、残虐な示威行為だと受け取る人が多い。
「あの方のハイペースやと、毎年記念杯を作る羽目になりませんか?」
「流石に一度で飽きると思う。大不評だろうし」
「大不評と思うなら、はなから作らんとええ事ですがな」
「あの人は、作って見せた方が、早い」
「(ため息)ほな、漆で仕立てますけど、よろしいか?」
「いっそ金箔で覆いません?」
「面白がってどないすんねん。毒されてまっせ、金森はん」
「そうですねえ、少し離れようかな」
金森可近は、佐久間信盛よりも遥かに多い回数、信長を怒らせている。
信長を少年期から見てきたので、その執念深さは理解している。
側近ではなく、武将として働いた方が、三河に逃げ易いかもしれない。
「自分もそろそろ、一軍の将に、なっておきます」
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「武具の調達は、是非とも、うちで」
注意・千宗易は、商人です。茶道は趣味です。
「今後とも、ご贔屓に」
「じゃあ、お祝いに、この茶器を貰っても…」
「あかん」
千宗易は斗々屋茶碗を可近から遠避けると、紙コップで白湯を出す。
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