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第1巻第2章 マッシュの家族救出作戦
ダークエルフ
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「はあああ、つかれた~」
マヤは宿の部屋に戻ってくるなり、ベットに背中から倒れるように飛び込んだ。
「こらマヤ、靴くらい脱がんか、まったく……」
マヤに続いて入ってきたマッシュは呆れた様子でマヤを見ている。
そんなマッシュの後ろには、部屋の外の廊下で、オリガがどうすればいいのか戸惑った様子で佇んでいた。
「どうしたの? 入ってきていいよ?」
「は、はい、それじゃあ、お邪魔します……」
オリガは自分の服装に落ち着かないのか、ワンピースの裾をキュッと握りしめながら、おずおずと部屋の中に入ってきた。
「あの、いいんでしょうか、私なんかがこんな格好させてもらって」
街の浴場によったことで艶を取り戻した美しい黒髪と、白を基調とし控えめにフリルをあしらったワンピースと褐色肌のコントラストがオリガを彩っていた。
特別着飾っているわけではないが、もとからオリガの顔立ちが整っていることもあり、ここに来るまでに街の男たちの注目を集めてしまうほどに今のオリガは可愛らしかった。
「もちろん。だってオリガは可愛いんだから、可愛くしとかないと!」
「はあ……そういうものでしょうか?」
「そういうものだよ!」
マヤの勢いにオリガが困っていると、見かねたマッシュが、
「それよりもマヤ、いいかげんその少女について説明をしてほしいんだが?」
と言って話題を変えた。
どうやら、オリガに助け舟を出すのが半分、単純にいいかげんオリガのことを説明してほしいのが半分だったようだ。
「そういえば、説明してなかったっけ?」
「さては忘れていたな?」
突然襤褸1枚の少女を連れ帰ったかと思ったら、やれ「風呂に行く」だ、「服を買いに行く」だ、と当然のようにマッシュを巻き込んだマヤから、マッシュは未だにオリガのことを何も説明されていなかった。
「ごめんごめん。まあ簡単に説明すると―――」
マヤはオリガの手を取ると、マッシュの前に連れて来る。
「こちらは、これから私達の仲間になるダークエルフのオリガちゃんです」
「どうも、オリガです。よろしくおねがいします」
「マッシュだ、見ての通りうさぎの魔物だ。よろしくな」
マッシュがオリガに向けて出した前足に、オリガは一瞬何かわからない様子だったが、握手だと気がついてその前足をそっと掴んだ。
「わあ、もふもふ~」
マッシュの前足をつかんだ途端、まだ少し緊張していたオリガの表情が柔らかくなる。
「でしょう? うちの自慢のもふもふなんだよ?」
「なぜマヤが得意げなんだ……。それにしてもダークエルフエルフか、珍しいな。ということは、その不自然に隠している右目が魔石なのか?」
マッシュのその言葉に、握手の後、思わずマッシュの背中を撫でていたオリガの手がピタリと止まる。
「そうです。よくわかりましたね?」
「なに、たいしたことではない。魔石が動物の体内に魔石を生成する際、多くの場合動物の脳の近くに魔石ができるのだ。だから体に魔石を宿すダークエルフもそうではないか、と思っただけだ」
「マッシュさんは魔石に詳しいんですね。確かにエルフの文献に残っているダークエルフはいずれも目や額に魔石を宿していたそうです」
「というか、マッシュはダークエルフって知ってるんだ?」
「本当に”知っている”、という程度だがな。私が知っているのは生まれつき体に魔石を宿したエルフが生まれることがあり、それがダークエルフだということだけだ」
「エルフが持っている情報もそんなところです。あとは他のエルフより魔力が強いということくらいでしょうか。多くの場合ダークエルフは村から出ていってしまうので……」
「なるほどね。じゃあマッシュも、なんで私の強化の魔法がオリガに効いたのかはわからないんだ?」
「強化の魔法が効いた? マヤが唯一使えるあの魔物強化の魔法がか?」
「うん、なんかオリガに効くみたいで、おかげで命拾いしたんだよ」
マヤはオリガとの出会いの一部始終をマッシュに説明した。
「なるほど、そんなことがあったのか。オリガ、さっきダークエルフは普通のエルフより魔力が強いと言っていたな?」
「はい、基本的にはそうみたいですけど、それがどうかしたんですか?」
「具体的にはどれくらい強いのだ? それと、そもそもオリガも他のエルフより魔力が強いのか?」
「えーっと、大体2倍から3倍くらいの魔力量だって言われてますね。ちなみに私は普通のエルフの3倍位あるらしい、です」
「なるほど……」
それきりしばらくマッシュは黙り込んでしまう。
数分後、考え込んでいた様子のマッシュは、顔を上げるとゆっくりと話し始めた。
「マヤは知らないだろうが、魔物強化の魔法には、1つだけ絶対のルールがある」
「絶対のルール?」
「そうだ。それは『自分より魔力量が大きい魔物には使えない、使えても意味がない』というものだ」
「つまりどういうこと?」
「まあ早い話が、自分より強い魔物は強化できない、ということだ」
「ふーん、そんなルールがあったんだね。で、それがどうしたの?」
「いいか? エルフというのは平均的に人間の5倍から10倍の魔力を持っている、そしてダークエルフであるオリガはそのさらに3倍だ。つまり、オリガは平均的な人間の15倍から30倍の魔力を持っていることになる」
「おおっ! オリガすごいじゃん!」
ぽんぽんとオリガの肩を叩くマヤだったが、褒められているオリガは苦笑していた。
「マヤ、確かにオリガもすごいのだがな、もっとすごいのは、というか得体が知れないのはマヤ、お前だ」
「え? なんで?」
「マヤさん、さっきマッシュさんが言った魔物強化の魔法の絶対のルールを思い出して下さい」
「えーっと『自分より魔力量が大きい魔物には使えない、使えても意味がない』だっけ――あっ!」
「気がついたか」
「うん、つまり私の魔力量、ダークエルフ以上ってこと、だよね」
「そうだ」
街でダークエルフの少女を助けた結果、魔物を強化できること以外何も取り柄がないと思っていたマヤの意外な能力が明らかになったのだった。
マヤは宿の部屋に戻ってくるなり、ベットに背中から倒れるように飛び込んだ。
「こらマヤ、靴くらい脱がんか、まったく……」
マヤに続いて入ってきたマッシュは呆れた様子でマヤを見ている。
そんなマッシュの後ろには、部屋の外の廊下で、オリガがどうすればいいのか戸惑った様子で佇んでいた。
「どうしたの? 入ってきていいよ?」
「は、はい、それじゃあ、お邪魔します……」
オリガは自分の服装に落ち着かないのか、ワンピースの裾をキュッと握りしめながら、おずおずと部屋の中に入ってきた。
「あの、いいんでしょうか、私なんかがこんな格好させてもらって」
街の浴場によったことで艶を取り戻した美しい黒髪と、白を基調とし控えめにフリルをあしらったワンピースと褐色肌のコントラストがオリガを彩っていた。
特別着飾っているわけではないが、もとからオリガの顔立ちが整っていることもあり、ここに来るまでに街の男たちの注目を集めてしまうほどに今のオリガは可愛らしかった。
「もちろん。だってオリガは可愛いんだから、可愛くしとかないと!」
「はあ……そういうものでしょうか?」
「そういうものだよ!」
マヤの勢いにオリガが困っていると、見かねたマッシュが、
「それよりもマヤ、いいかげんその少女について説明をしてほしいんだが?」
と言って話題を変えた。
どうやら、オリガに助け舟を出すのが半分、単純にいいかげんオリガのことを説明してほしいのが半分だったようだ。
「そういえば、説明してなかったっけ?」
「さては忘れていたな?」
突然襤褸1枚の少女を連れ帰ったかと思ったら、やれ「風呂に行く」だ、「服を買いに行く」だ、と当然のようにマッシュを巻き込んだマヤから、マッシュは未だにオリガのことを何も説明されていなかった。
「ごめんごめん。まあ簡単に説明すると―――」
マヤはオリガの手を取ると、マッシュの前に連れて来る。
「こちらは、これから私達の仲間になるダークエルフのオリガちゃんです」
「どうも、オリガです。よろしくおねがいします」
「マッシュだ、見ての通りうさぎの魔物だ。よろしくな」
マッシュがオリガに向けて出した前足に、オリガは一瞬何かわからない様子だったが、握手だと気がついてその前足をそっと掴んだ。
「わあ、もふもふ~」
マッシュの前足をつかんだ途端、まだ少し緊張していたオリガの表情が柔らかくなる。
「でしょう? うちの自慢のもふもふなんだよ?」
「なぜマヤが得意げなんだ……。それにしてもダークエルフエルフか、珍しいな。ということは、その不自然に隠している右目が魔石なのか?」
マッシュのその言葉に、握手の後、思わずマッシュの背中を撫でていたオリガの手がピタリと止まる。
「そうです。よくわかりましたね?」
「なに、たいしたことではない。魔石が動物の体内に魔石を生成する際、多くの場合動物の脳の近くに魔石ができるのだ。だから体に魔石を宿すダークエルフもそうではないか、と思っただけだ」
「マッシュさんは魔石に詳しいんですね。確かにエルフの文献に残っているダークエルフはいずれも目や額に魔石を宿していたそうです」
「というか、マッシュはダークエルフって知ってるんだ?」
「本当に”知っている”、という程度だがな。私が知っているのは生まれつき体に魔石を宿したエルフが生まれることがあり、それがダークエルフだということだけだ」
「エルフが持っている情報もそんなところです。あとは他のエルフより魔力が強いということくらいでしょうか。多くの場合ダークエルフは村から出ていってしまうので……」
「なるほどね。じゃあマッシュも、なんで私の強化の魔法がオリガに効いたのかはわからないんだ?」
「強化の魔法が効いた? マヤが唯一使えるあの魔物強化の魔法がか?」
「うん、なんかオリガに効くみたいで、おかげで命拾いしたんだよ」
マヤはオリガとの出会いの一部始終をマッシュに説明した。
「なるほど、そんなことがあったのか。オリガ、さっきダークエルフは普通のエルフより魔力が強いと言っていたな?」
「はい、基本的にはそうみたいですけど、それがどうかしたんですか?」
「具体的にはどれくらい強いのだ? それと、そもそもオリガも他のエルフより魔力が強いのか?」
「えーっと、大体2倍から3倍くらいの魔力量だって言われてますね。ちなみに私は普通のエルフの3倍位あるらしい、です」
「なるほど……」
それきりしばらくマッシュは黙り込んでしまう。
数分後、考え込んでいた様子のマッシュは、顔を上げるとゆっくりと話し始めた。
「マヤは知らないだろうが、魔物強化の魔法には、1つだけ絶対のルールがある」
「絶対のルール?」
「そうだ。それは『自分より魔力量が大きい魔物には使えない、使えても意味がない』というものだ」
「つまりどういうこと?」
「まあ早い話が、自分より強い魔物は強化できない、ということだ」
「ふーん、そんなルールがあったんだね。で、それがどうしたの?」
「いいか? エルフというのは平均的に人間の5倍から10倍の魔力を持っている、そしてダークエルフであるオリガはそのさらに3倍だ。つまり、オリガは平均的な人間の15倍から30倍の魔力を持っていることになる」
「おおっ! オリガすごいじゃん!」
ぽんぽんとオリガの肩を叩くマヤだったが、褒められているオリガは苦笑していた。
「マヤ、確かにオリガもすごいのだがな、もっとすごいのは、というか得体が知れないのはマヤ、お前だ」
「え? なんで?」
「マヤさん、さっきマッシュさんが言った魔物強化の魔法の絶対のルールを思い出して下さい」
「えーっと『自分より魔力量が大きい魔物には使えない、使えても意味がない』だっけ――あっ!」
「気がついたか」
「うん、つまり私の魔力量、ダークエルフ以上ってこと、だよね」
「そうだ」
街でダークエルフの少女を助けた結果、魔物を強化できること以外何も取り柄がないと思っていたマヤの意外な能力が明らかになったのだった。
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まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
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