転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第1巻第4章 亜人国建国

建国宣言

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「それでは、これにて建国記念式典を終わります。ご出席いただきました皆様、ありがとうございました」

 司会進行を努めた魔王ルーシェの言葉で、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

「はあ、やっと終わったー」

「マヤさん、まだ一応来賓もいるんですからしっかり座っていてくださいね?」

「はーい。それにしてもヘンダーソン王国はまだしも、私たちが昔いたアンブロシア皇国にその隣のバニスター将国も来るなんてね。他にも色々来てるみたいだけど」

「亜人が始めて建国するわけですからね。色々気になる国もありでしょうし」

 そう言って、オリガはバニスター将国のマノロ将軍に鋭い視線を向ける。

 バニスターは公に亜人の奴隷化を認めている国だ。

 正確には、他国を侵略し連れてきた者は人間だろうが亜人だろうが奴隷にしている国、というだけだが。

「まさか下町の魔物使いが王になるとは思わなんだ」

 マヤたちが話していると、初老の男性がマヤに話しかけてきた。

「えーっと、誰?」

「マヤさん! アンブロシア皇国のモーガン・アンブロシア皇帝閣下ですよ! 覚えておいてって言ったじゃないですか!」

「あー、アンブロシアの。申し訳ありません、物覚えが悪くて……」

「はははは、気にすることはない。私も好きに話させてもらう。マヤ殿もいつもどおりで構わん」

「じゃあお言葉に甘えて。それにしても、私のこと知ってたの?」

「驚いたか?」

「うん。確かにアンブロシアには1ヶ月位いたけど、ただの一冒険者だったし」

「はあ……大物なのか鈍感なのか、まあどちらもかもしれんが……」

「どういうこと?」

「マヤ殿、お主は大層目立っておったのだぞ?」

「え、本当に?」

「ああ。まず喋れる魔物というのは極めて少ない。それを連れている魔物使いというだけで目立つというのに、何やら規格外の強化魔法を使うとなれば、目立って当然だ」

「そうなんだ。そんな自覚なかったけど……」

「だろうな。ただ、冒険者として目に止まる存在だったとはいえ、まさか亜人を束ねて建国するなど全く予想外だ」

「それは私も予想外だよ。まあ色々あってね」

「他国のことだ、深くは詮索しまいよ。マヤ殿、我がアンブロシアは貴国と友好関係を築いていきたいと思っておる。一時とはいえ我が国でマヤ殿が暮らしていたのもなにかの縁だ。考えてみてくれ」

 モーガンはマヤに向かって右手を差し出した。

「うん。というか、考えるまでもないよ。モーガンさんいい人そうだしね」

 マヤは差し出された右手を握りながら、モーガンの提案を受け入れる言葉を口にする。

 マヤのあまりに素直な回答に、申し出を受け入れてもらったモーガンの方が目を丸くしてしまっていた。

 しばらくすると、モーガンが大きな声で笑い始め、握ったままのマヤの右手を勢いよく引き寄せてマヤと肩を組む。

「はははははははっ、マヤ殿は面白いな。私は好きな性格だが、王としては腹芸の一つでも出来たほうが良いかもしれんぞ?」

 そう言って、小柄なマヤの肩をバシバシと叩く大柄なモーガンにマヤはされるがままだった。

「いたっ、ちょっと、痛いってモーガンさん……」

 マヤが痛がっているのに気がついたモーガンは、ようやくマヤを開放してくれた。

「おお、すまんすまん、ついな。だがお主のことが気に入ったのは本当だ。これから宜しく頼む、マヤ殿」

「こちらこそ、よろしくね、モーガンさん」

「そうだ、友好の証、というわけではないのだがな―――」

 モーガンはそこでスッとマヤに顔を近づけた。

「バニスターのマノロには気をつけろ。まあ、マヤ殿なら心配いらないかもしれないが」

 モーガンはマヤの護衛をしているオリガたちに目をやると、先程モーガンがマヤを勢いよく引き寄せた時のことを思い出す。

(右後ろのオークの女は私の動きに気づいて一瞬剣に手をかけていた。左後ろのダークエルフと真後ろの狼の魔物は防御魔法をすぐ発動できる段階まで展開していた。おそらく私がマヤ殿を攻撃していれば、今頃バラバラに斬り殺されているだろうな)

 モーガンは立場上命を狙われることが多いため観察眼は一流の戦士のそれだが、視えるだけでそれに対応するだけの戦闘力はない。

 カーサが斬りかかって来れば、ひとたまりもないだろう。

「わかった、気をつけるよ。って、どうしたのモーガンさん?」

「いや、なんでもない。それではまた会おう、友よ」

「うん、またね、モーガンさん」

 マヤが立ち去るモーガンの背中に手を振っていると、オリガとマッシュがマヤの隣にやってきた。

「ねえマッシュ、私アンブロシアにいる時目立ってたらしいけど、本当?」

「やはり気がついていなかったのか。主にお前の強化魔法が規格外だということでな、あの町ではちょっとした有名人だったのだぞ?」

「そうなんだ。でもまさか皇帝にまで知られるほどだとはね」

「モーガン陛下は賢帝の呼び声高い名君ですからね。なんでも民の声を聞くためにお忍びで各地の下町に繰り出しているとか」

「なるほどね~。私も参考にしようっと」

 王としてはどうあるべきかまだ今一つわかっていないマヤだが、とりあえず目標にするべき王の姿だけはわかったかもしれない。

「そういえば、最後にモーガン陛下がマヤさんになにか言ってたみたいですけど、何だったんですか? おかげでモーガン陛下がお妃様に問い詰められてますけど……」

 オリガの視線の先では、モーガンがその妻に人差し指を胸に突きつけられて問い詰められていた。

 流石は皇帝の妻といったところか、初老のモーガンと同い年のはずだが、若々しく美しい女性だった。

「ははは、なんか悪いことしちゃったね。たいしたことじゃないんだけど、バニスターのマノロ将軍に気をつけろって……あれ? もういないね」

 マヤはあたりを見渡すが、マノロ将軍の姿はどこにもなかった。

「バニスターですか。昔からいい噂の聞かない国ですからね」

「オークの村、襲われたこと、ある」

 オリガとカーサは2人ともバニスターに否定的だった。

「そうなんだ。まあオリガもカーサもいるし、シロちゃんたちもいるから大丈夫だと思うけど、気をつけておくことにするね」

 キサラギ亜人王国の建国記念式典は、何かが始まってしまいそうな一抹の不安を残しながら幕を閉じた。

 ちなみに、先程までお妃様に問い詰められていたモーガンはといえば、今ではそのお妃様と仲睦まじく腕を組んでいた。

 なんやかんやでラブラブだなあ、とのんきなことを考えているマヤなのだった。

***

 今回の式典を機に、キサラギ亜人王国は人間国家から正式に認知されることになる。

 皇帝モーガンとの出会いのように、知られることが良い方向に働くこともあれば、逆に悪い方向に働くこともあるということを、これからマヤたちは理解していくことになる。

 ただし、マヤたちがそのことに気がつくのは、まだ少し先のことである。
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