75 / 324
第2巻第4章 バニスター反攻作戦
妖精の杖の影響
しおりを挟む
(噂には聞いていましたが、まさかこれほどとは……)
妖精の杖の材料にされ、光のない目で中空を見つめている少女を見て、エメリンは言葉を失っていた。
(ここまで酷いなら、もっと早くバニスターを滅ぼしておくべきでしたね)
魔王は人間世界に干渉しない、という原初の魔王の取り決めを守るルーシェに従って、エルフを含めた亜人を平然と奴隷とするバニスターの所業を見逃していたわけだが、流石にこれは看過できるものではない。
(それにしても、これは普通に治癒魔法で治るんでしょうか?)
少女たちの状態は、エメリンが知る中ではエルフの秘薬によって心を閉ざされた状態に近い。
とりあえず、エメリンは自分が使える一番強力な治癒魔法を少女にかけてみた。
(……やはりだめですか。手足の拘束具でできた傷は治りましたが……それだけ、ですね)
エメリンの治癒魔法は傷を治すことはできたが、精神の方は治せないようだ。
(さて、困りましたね……クロエを呼んでみましょうか?)
秘薬の効果を唯一打ち消せるクロエの治癒魔法、妖精姫の御手なら、この少女たちの精神を開放できるかもしれない。
「……これは、いったい……」
クロエを呼ぼうかどうしようか考えていたエメリンは、少女たちの体にところどころおかしなところがあることに気がついた。
(目の色が……これは金が混じり始めている……のでしょうか? ということは……)
エメリンは少女たちの上着を捲くってその裸身を観察する。
(あざだと思っていましたが、私の治癒魔法でも治っていない………………なるほど、そういうことですか……)
エメリンは、自分の推測を補強するために、マッシュを呼んできた。
「どうしたのだ、エメリン」
「突然すみません。ちょっとマッシュさんに見てほしいことがありまして」
エメリンはエルフの少女の瞳を、その次に体のあざを指さした。
「魔人化しかかっているのか? いやエルフだからダークエルフ化か」
マッシュはエメリンの言葉と、エメリンが指さして少女の身体を見て、状況を理解したようだ。
「やっぱりそう思いますか?」
「ああ、不完全というか中途半端というか、明らかに私がジョンに行った見様見真似の魔人化よりもっとレベルが低いが、ほんの少しだがダークエルフ化しているのは間違いないだろうな」
「そうですか……魔石を取り込まないでダークエルフ化できるとは……私も聞いたことがない技術です」
「エメリンが聞いたことがないとなると、相当に珍しい技術なのだろうな。まあそもそも、魔人化の技術自体がベルフェゴールの独占技術だが」
「ということは、ベルフェゴールから技術が提供されたか漏れたか、そんなところでしょうか」
「そうだろうな。だが、何にせよこの少女たちは魔石から引き離せば直に治るのではないか?」
「魔人化は基本的に魔石の影響を受けた結果だから、ですか?」
「そうだ。だからこの少女たちはとりあえず問題ないだろう」
マッシュは裸身をさらしている少女に、近くにあった布を被せると、エメリンに向かい合った。
「それより、多少なりとも魔人化の技術を持った連中のところに、オリガやレオノルが向かっていることが心配だ」
「……オリガやレオノルを操る技術を持っているかもしれないと?」
魔人化の技術は秘匿技術であるがゆえに、まだわからないことが多い。
オリガは生まれ持ってのダークエルフ、つまり魔人であるため、魔人化技術による影響を受けないだろうが、ベルフェゴールによって魔人化されたレオノルは影響を受けてしまうかもしれない。
「操る、というのは難しいだろうが、一時的に魔法を使えなくする、くらいのことはできるかもしれない」
「それは少し心配ですね……」
「どうする? 娘が心配なら助けに行っても構わんぞ?」
「それは……」
エメリンはしばらく考える。
おそらくだがオリガが影響を受けることはないだろう。
だが、昔オリガがいなくなった時、他の子どもたちのこともあって探しに行くことができなかったことをエメリンはずっと後悔していたのだ。
「うちの子どもたちをお願いできますか?」
「任せろ。私とジョセフでお前の子供たちも、この国も、必ず守る」
マッシュやジョセフが子どもたちのことを見てくれるのであれば、エメリンの選択は1つしかなかった。
「マッシュさん、私はこれからオリガたちを追いかけます。おそらくその少女たちはクロエの治癒魔法なら治せるはずですから、クロエに連絡して治療に来てもらって下さい」
エメリンは早口で要点だけ伝えると、後ろを振り返りそのまま姿を消した。
「了解だ――もう聞こえていないか」
魔法による高速移動まで使って姿を消したエメリンに、マッシュは思わず苦笑する。
「かつて魔王を滅ぼしてまわった伝説の副官でも、ああなるとただの心配性な母親でしかないな。もう少し冷静になったほうがいいと思うが……」
マヤやオリガがいれば「お前がそれをいうか」とツッコミが入りそうだが、あいにく今マッシュの周りにいるのは心が閉ざされたエルフの少女たちだけだ。
「さて、それでは私もクロエに連絡するとしよう」
マッシュは摩耶から預かっている魔物にエルフの少女たちの見張りを任せ、伝令用の魔物を用意するべく監視所へと戻っていったのだった。
妖精の杖の材料にされ、光のない目で中空を見つめている少女を見て、エメリンは言葉を失っていた。
(ここまで酷いなら、もっと早くバニスターを滅ぼしておくべきでしたね)
魔王は人間世界に干渉しない、という原初の魔王の取り決めを守るルーシェに従って、エルフを含めた亜人を平然と奴隷とするバニスターの所業を見逃していたわけだが、流石にこれは看過できるものではない。
(それにしても、これは普通に治癒魔法で治るんでしょうか?)
少女たちの状態は、エメリンが知る中ではエルフの秘薬によって心を閉ざされた状態に近い。
とりあえず、エメリンは自分が使える一番強力な治癒魔法を少女にかけてみた。
(……やはりだめですか。手足の拘束具でできた傷は治りましたが……それだけ、ですね)
エメリンの治癒魔法は傷を治すことはできたが、精神の方は治せないようだ。
(さて、困りましたね……クロエを呼んでみましょうか?)
秘薬の効果を唯一打ち消せるクロエの治癒魔法、妖精姫の御手なら、この少女たちの精神を開放できるかもしれない。
「……これは、いったい……」
クロエを呼ぼうかどうしようか考えていたエメリンは、少女たちの体にところどころおかしなところがあることに気がついた。
(目の色が……これは金が混じり始めている……のでしょうか? ということは……)
エメリンは少女たちの上着を捲くってその裸身を観察する。
(あざだと思っていましたが、私の治癒魔法でも治っていない………………なるほど、そういうことですか……)
エメリンは、自分の推測を補強するために、マッシュを呼んできた。
「どうしたのだ、エメリン」
「突然すみません。ちょっとマッシュさんに見てほしいことがありまして」
エメリンはエルフの少女の瞳を、その次に体のあざを指さした。
「魔人化しかかっているのか? いやエルフだからダークエルフ化か」
マッシュはエメリンの言葉と、エメリンが指さして少女の身体を見て、状況を理解したようだ。
「やっぱりそう思いますか?」
「ああ、不完全というか中途半端というか、明らかに私がジョンに行った見様見真似の魔人化よりもっとレベルが低いが、ほんの少しだがダークエルフ化しているのは間違いないだろうな」
「そうですか……魔石を取り込まないでダークエルフ化できるとは……私も聞いたことがない技術です」
「エメリンが聞いたことがないとなると、相当に珍しい技術なのだろうな。まあそもそも、魔人化の技術自体がベルフェゴールの独占技術だが」
「ということは、ベルフェゴールから技術が提供されたか漏れたか、そんなところでしょうか」
「そうだろうな。だが、何にせよこの少女たちは魔石から引き離せば直に治るのではないか?」
「魔人化は基本的に魔石の影響を受けた結果だから、ですか?」
「そうだ。だからこの少女たちはとりあえず問題ないだろう」
マッシュは裸身をさらしている少女に、近くにあった布を被せると、エメリンに向かい合った。
「それより、多少なりとも魔人化の技術を持った連中のところに、オリガやレオノルが向かっていることが心配だ」
「……オリガやレオノルを操る技術を持っているかもしれないと?」
魔人化の技術は秘匿技術であるがゆえに、まだわからないことが多い。
オリガは生まれ持ってのダークエルフ、つまり魔人であるため、魔人化技術による影響を受けないだろうが、ベルフェゴールによって魔人化されたレオノルは影響を受けてしまうかもしれない。
「操る、というのは難しいだろうが、一時的に魔法を使えなくする、くらいのことはできるかもしれない」
「それは少し心配ですね……」
「どうする? 娘が心配なら助けに行っても構わんぞ?」
「それは……」
エメリンはしばらく考える。
おそらくだがオリガが影響を受けることはないだろう。
だが、昔オリガがいなくなった時、他の子どもたちのこともあって探しに行くことができなかったことをエメリンはずっと後悔していたのだ。
「うちの子どもたちをお願いできますか?」
「任せろ。私とジョセフでお前の子供たちも、この国も、必ず守る」
マッシュやジョセフが子どもたちのことを見てくれるのであれば、エメリンの選択は1つしかなかった。
「マッシュさん、私はこれからオリガたちを追いかけます。おそらくその少女たちはクロエの治癒魔法なら治せるはずですから、クロエに連絡して治療に来てもらって下さい」
エメリンは早口で要点だけ伝えると、後ろを振り返りそのまま姿を消した。
「了解だ――もう聞こえていないか」
魔法による高速移動まで使って姿を消したエメリンに、マッシュは思わず苦笑する。
「かつて魔王を滅ぼしてまわった伝説の副官でも、ああなるとただの心配性な母親でしかないな。もう少し冷静になったほうがいいと思うが……」
マヤやオリガがいれば「お前がそれをいうか」とツッコミが入りそうだが、あいにく今マッシュの周りにいるのは心が閉ざされたエルフの少女たちだけだ。
「さて、それでは私もクロエに連絡するとしよう」
マッシュは摩耶から預かっている魔物にエルフの少女たちの見張りを任せ、伝令用の魔物を用意するべく監視所へと戻っていったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました
【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。
どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!
スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!
天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる