転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
79 / 324
第2巻第4章 バニスター反攻作戦

決着

しおりを挟む
「わ、たし、は……」

 マヤの強化魔法がその体を包み込んでから、攻撃を止めていたオリガがゆっくりと声を発した。

「良かった、もとに戻ったみたいだね」

「そうでした、確かにマノロ将軍が謎の装置を私とレオノルさんに向けてきて……」

 オリガは徐々に状況を理解していく。

「もしかして、私操られてました?」

「うん、少しの間だけね。でももう大丈夫でしょ?」

「はい、今はなんともありません……マヤさんの強化魔法が効きすぎていて少し力が有り余ってる感じですが……」

「そっかそっか、それなら良かった。それじゃあ、さっさとマノロ将軍を倒しちゃって終わりにしようか」

 マヤは魔人制御装置を手に固まっているマノロ将軍を睨みつける。

「本当は穏便に対話で済ませたかったんだけどねー」

 口調は相変わらず軽いマヤだが、その目は全く笑っていなかった。

 ゆらりゆらりと近づいてくるマヤに、マノロ将軍は思わず後退りする。

「別にさ、私の国に喧嘩を売るのはいいんだよ? まだ誰も死んだりしてないしさ?」

 後退りするマノロ将軍との距離を、一歩また一歩と詰めてくるマヤに、マノロ将軍は振り返って逃げ出そうとするが……。

「くそっ!」

「今回は俺も頭にきてるからよ? 逃げられると困るんだわ」

 先んじて入り口を抑えていたファムランドによって、行く手を阻まれてしまう。

 焦ったマノロ将軍が振り返った時には、マヤの顔が目と鼻の先に近づいていた。

「……っ! こうなっては仕方がないっ!」

 最後の手段として用意していた剣を抜こうとしたマノロ将軍の右手を、マヤが上から押さえつける。

「させると思うのかな?」

 そのまま力を込めたマヤに、マノロ将軍の表情が苦痛に歪む。

「ぐっ……、なんだ? 何だというのだ! この力は!?」

 マノロ将軍が驚くのも無理はない。

 マヤは本来非力な魔物使いなのだ。

 だが今は、怒りのあまり無意識に自身へ強化魔法をかけているため、その力が大幅に強化されているのだ。

「とりあえず、これは壊さないとね」

 マヤはマノロ将軍が持っていた魔神制御装置を手刀を叩き込む。

「ひぃっ!」
 
 マヤの手刀を受けた魔神制御装置は、鋭利な刃物に切り裂かれたかのように真っ二つになっていた。

 激しすぎる怒りに、マヤの可愛らしい顔はもはや微笑みを浮かべているようにすら見える。

 そんな表情と暗い光を浮かべる瞳のせいで、今のマヤは余計に凄みを増していた。

「こっちも壊しとこうか? どうせオリガが治してくれるだろうし」

 マヤはマノロ将軍の右手を抑えていた手に力を込める。

 そしてそのまま、力任せに握りつぶした。

 マノロ将軍の右手が、地面に真っ赤な華を描いて飛び散る。

「ぎゃああああああああ!」

 爆散した右手を押さえつけながら転げ回るマノロ将軍に、マヤは冷ややかな視線を向ける。

「うるさいなあ……もう殺しちゃおうか」

 人を殺さないことを信条としていたマヤだったが、自分の大切な仲間を操り人形にして弄ばれたことによる怒りで、完全に我を忘れているようだ。

 容赦なく、先ほど魔人制御装置を両断した手刀をマノロ将軍の首へと振り下ろそうとしたマヤだったが、マノロ将軍の首に手刀が届く寸前で、マヤの手はピタリと止まった。

「やめて下さいマヤさん! そんなことをしたら絶対後悔しますよ!」

「マヤさん、やめて」

 マノロ将軍にとどめを刺そうとしたマヤを、オリガとカーサが後ろから羽交い締めにして止めたのだ。

「2人とも……」

 2人に止められたことで、マヤはようやく少し冷静さを取り戻した。

「落ち着きましたか?」

「ちょっとはね。まだこいつを許す気にはならないけど」

 マヤが相変わらず冷たい視線を向けた先にでは、潰された右手を抑えてマノロ将軍がうめいていた。

「ううぅ……」

「それでも、マヤさんは、人を、殺したく、ないん、だよね?」

 ゆっくりとしたカーサの言葉にマヤは落ち着きを取り戻していく。

「そう、だね…………ありがとね2人とも、勢い余って殺しちゃうところだった」

「気にしないで下さい。マヤさんが私のために怒ってくれて、私は嬉しかったですよ」

「うん、マヤさんは、仲間の、ために、怒った、だけ。仲間の、ために、怒るのは、いいと、思う、よ?」

「あははは、2人は優しいね。それじゃあオリガ、マノロ将軍を回復させてあげてくれる? カーサはその間にマノロ将軍から剣を取り上げといて」

「わかりました」

「わかった」

 オリガが回復魔法をかけている間に、カーサが剣を取り上げ、マノロ将軍の右手が元通りになった時点でマノロ将軍を後ろ手に拘束する。

「さて、マノロ将軍、今更だけど交渉する気があるなら私としては応じてあげてもいいけど?」

 マヤの言葉に、マノロ将軍は屈辱をその顔ににじませる。

「なぜ私はお前のようなぽっと出の小国の王と交渉せねばならんのだ……っ!」

「ふーん、そういう事言うんだ? いいんだよ、私は別に。あなたとあなたの支持者をまとめて牢屋にぶち込んで、バニスター将国を丸々支配下に入れても、さ」

 冷たく言い放つマヤに、マノロ将軍はしばらくうつむいて黙り込んでしまう。

 しばらくして、数度頭を大きく横に振ったかと思うと、マノロ将軍は顔を上げマヤを正面から見据えた。

「マヤ国王陛下、私はバニスター将国国家元首として、陛下に終戦交渉をお願いさせていただきたい」

「うん、いいよ。交渉してあげる」

 こうして、キサラギ亜人王国とバニスター将国の戦争は終わりを告げた。

 その後は、驚くほど早くことが進んでいった。

 まず今回の戦争はすべてバニスター将国に否があるということで話が決着する。

 その結果、キサラギ亜人王国はバニスター将国から多額の賠償金を得ることとなった。

 加えて、キサラギ亜人王国で保護している捕虜兵とその家族について、正式にキサラギ亜人王国の国民としてよい、ということになった。

 次に、エメリンの強い要望により、バニスター将国内のすべての奴隷が開放されることとなり、亜人奴隷についてはすべてキサラギ亜人王国への引き渡しされることになった。

 亜人奴隷のキサラギ亜人王国への引き渡しに伴い、妖精の杖の部品にされていた奴隷も全てキサラギ亜人王国の引き渡され、後日到着したクロエの妖精姫の御手によって無事回復を果たした。

 他にもマヤの代理となったエメリンが主体となり様々な交渉が行われたが、あまりにも多くのことが起きたので、ここでは割愛することとする。

 兎にも角にも、キサラギ亜人王国とバニスター将国の戦争は、キサラギ亜人王国の圧勝で幕を閉じたのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...