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第3巻第1章 ドワーフの内情
実態調査
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「じゃあな、観光客のお嬢ちゃんたち」
「うん、ありがとねおじさん」
マヤたちは本日最後の聞き込み調査を終え、宿に向かって歩き始めた。
「最後のお店もいっしょかあ」
「どうやらこの里に入るキサラギの品はすべて里長が止めているようだからな、どこも同じなのだろう」
ドワーフの里に着いてから3日間、マヤたちは毎日のようにいろいろな市場で聞き込み調査をしていた。
一瞬でバレてしまったマヤの変装だったが、それが逆にドワーフ里に来て民族衣装着てはしゃいでいる観光客に見えたらしく、怪しまれることなく里の状況を尋ねることができていた。
「でも、お店の、人も、街の、人も、困ってる、よ?」
「だよね。それでもキサラギの商品を止める理由って何なんだろう?」
聞き込み調査でわかったことは、キサラギ亜人王国からの輸入品を、この里の里長が中心となって市場に流れないようにしているらしい、ということだ。
結果として、カーサの言うとおり、市場では商品が入ってこないために売れない商人と、商品が無くて欲しい物が買えない市民の双方が困り果てていた。
「でも不思議なのは、どうしてこの里で作られた農作物が全然市場に出てこないのかってことだよね。うち――じゃなかった、キサラギが大規模を始める前は、この里の中だけで食料も賄えてたはずでしょ?」
なぜマヤがわざわざ言い直したかといえば、今のマヤたちはキサラギ亜人王国にカーサの親戚に会いに行った帰りのヘンダーソン王国民、ということになっているので、あえて自分たちの国のことを国名で呼んでいるからだ。
「そのようだな。どうも、こちらについては複雑な理由があるようだぞ?」
「なにかわかったの?」
「ああ、市場の他の場所で興味深い話をしているのを聞いてな」
マッシュには、マヤとカーサが聞き込みをしている間に、市場中の話し声を聞いて情報収集をしてもらっていたのだ。
「どんな話?」
「なんでも――」
マッシュの説明を要約すると、キサラギ亜人王国からの農作物を里長が市場に流さないようにする、という情報が里中の農家に漏洩し、価格の高騰を予想した農家が売り渋り始めたらしいのだ。
「その上、キサラギの商品に乗り換えていた商社は農家と関係が悪くなってて、売ってもらおうにも売ってくれなくなった、ってことかな?」
マッシュの説明を聞いてその先を予想してみせたマヤに、マッシュは目を丸くする。
「…………なんだ、マヤのくせに鋭いではないか。本当にお前マヤなのか?」
マッシュは、完全な真顔と本音のトーンで酷いことを言ってくる。
「ひどっ!? マッシュは私をなんだと思ってたのかな?」
「ポンコツ能天気娘だとばかり……」
「ポンコツ!? 能天気!? 娘!? ……いや、娘は悪口じゃないか……でも、流石にその評価はあんまりじゃない?」
「そうだな、ポンコツは取り消そう」
「いや能天気も取り消してよ!」
「能天気は悪いことだけではあるまい」
「そうかもしれないけど……悪い意味で使ってるよね?」
「無論そうだが?」
「無論そうだが? じゃないよっ! マッシュは相変わらず私に厳しいね!? ねえカーサ、カーサからもなにか――ってどうしたの、カーサ?」
マヤが振り返ると、頭から湯気を出しそうな勢いで頭を抱えて目を回しているカーサの姿があった。
「価格高騰? 売り渋り? 関係悪化? 商社? だから、みんな、困ってる? なにが、なんだか……?」
先程マッシュとマヤが言っていた言葉をぶつぶつとつぶやきながら頭を抱えているカーサに、マヤとマッシュは顔を見合わせる。
「あーっと、これは……」
「ああ、おそらくそういうことだろうな……」
そういえば、カーサは貿易摩擦がなにかもよくわかってなかったのだ。
であれば、さっきのマッシュとマヤの話などわかるはずもないだろう。
「えーっと、カーサ? 大丈夫?」
「マヤさん……私、さっぱり、わからな、かった……」
悲しそうな顔をするカーサに、マヤはその頭――は身長が足りなくて届かないので、その腰をぽんぽんと叩く。
「ごめんね、村育ちのカーサには難しかったよね」
「でも、私、今は、マヤさんの、護衛、だから、わからないと、だめ、なのに……」
今にも泣き出しそうなカーサに、マヤは慌ててフォローを入れる。
「カーサにはカーサの役目があるからさ、だから今はわからなくてもいいんだよ?」
「本当?」
「うん、本当本当。でも、カーサがわかるようになりたいっていうんだったら、帰ったら勉強しようか」
「うん、する!」
「よしっ、それじゃあ約束」
マヤはそう言って小指をカーサに向かって立てる。
「これは、なに?」
「ああそっか、そうだよね。えーっとね、これは約束が守れるようにするおまじないかな。カーサも小指を出してくれる?」
マヤに言われて、カーサは何が始まるのかよくわからないまま、マヤと同じように小指を立てる。
マヤは差し出されたカーサの小指に、自分の小指を絡ませた。
「行くよ? 指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーますっ、指切った!」
マヤが明るく指切りを終えると、カーサは何故か青ざめてマヤと指切りした小指を見ていた。
「マヤさん、さっきの、何の、呪い?」
「のろい!? いやいやいや、ただのおまじないだって」
「でも、嘘、つい、たら、針千本、飲まされる、んでしょ? それは、もう、なにかの、儀式、だよ?」
「あー、言われてみればこの歌ちょっと怖いね……でも安心して、本当に針千本飲ませたりしないから」
「本当?」
「本当本当」
「良かった……」
マヤの言葉に、カーサはやっと安心したのかホッと胸をなでおろす。
「終わったか?」
「終わったか? って……マッシュもなにかしてくれても良かったんだよ?」
「カーサはお前を信頼しているのだ。お前が励ます方がいいだろう?」
「そんなことないって、マッシュのその魅惑もふもふボディならどんな女の子も励ませるって」
「どうして私だけ体を差し出す形なのだ……」
「そこにもふもふがあるから、かな?」
「はあ、ふざけたこと言ってないで今後の方針を決めるぞ」
「はーい」
マヤは宿に向かうために通る大通りに差し掛かったところで、いつも人混みでしているようにマッシュを抱っこする。
いつものことなのでなんの抵抗もしなかったマッシュだが、そのせいでこの後、またカーサを励ますためとかなんとか言い始めたマヤによって、マッシュはマヤとカーサの2人から執拗にもふもふされる羽目になるのだった。
「うん、ありがとねおじさん」
マヤたちは本日最後の聞き込み調査を終え、宿に向かって歩き始めた。
「最後のお店もいっしょかあ」
「どうやらこの里に入るキサラギの品はすべて里長が止めているようだからな、どこも同じなのだろう」
ドワーフの里に着いてから3日間、マヤたちは毎日のようにいろいろな市場で聞き込み調査をしていた。
一瞬でバレてしまったマヤの変装だったが、それが逆にドワーフ里に来て民族衣装着てはしゃいでいる観光客に見えたらしく、怪しまれることなく里の状況を尋ねることができていた。
「でも、お店の、人も、街の、人も、困ってる、よ?」
「だよね。それでもキサラギの商品を止める理由って何なんだろう?」
聞き込み調査でわかったことは、キサラギ亜人王国からの輸入品を、この里の里長が中心となって市場に流れないようにしているらしい、ということだ。
結果として、カーサの言うとおり、市場では商品が入ってこないために売れない商人と、商品が無くて欲しい物が買えない市民の双方が困り果てていた。
「でも不思議なのは、どうしてこの里で作られた農作物が全然市場に出てこないのかってことだよね。うち――じゃなかった、キサラギが大規模を始める前は、この里の中だけで食料も賄えてたはずでしょ?」
なぜマヤがわざわざ言い直したかといえば、今のマヤたちはキサラギ亜人王国にカーサの親戚に会いに行った帰りのヘンダーソン王国民、ということになっているので、あえて自分たちの国のことを国名で呼んでいるからだ。
「そのようだな。どうも、こちらについては複雑な理由があるようだぞ?」
「なにかわかったの?」
「ああ、市場の他の場所で興味深い話をしているのを聞いてな」
マッシュには、マヤとカーサが聞き込みをしている間に、市場中の話し声を聞いて情報収集をしてもらっていたのだ。
「どんな話?」
「なんでも――」
マッシュの説明を要約すると、キサラギ亜人王国からの農作物を里長が市場に流さないようにする、という情報が里中の農家に漏洩し、価格の高騰を予想した農家が売り渋り始めたらしいのだ。
「その上、キサラギの商品に乗り換えていた商社は農家と関係が悪くなってて、売ってもらおうにも売ってくれなくなった、ってことかな?」
マッシュの説明を聞いてその先を予想してみせたマヤに、マッシュは目を丸くする。
「…………なんだ、マヤのくせに鋭いではないか。本当にお前マヤなのか?」
マッシュは、完全な真顔と本音のトーンで酷いことを言ってくる。
「ひどっ!? マッシュは私をなんだと思ってたのかな?」
「ポンコツ能天気娘だとばかり……」
「ポンコツ!? 能天気!? 娘!? ……いや、娘は悪口じゃないか……でも、流石にその評価はあんまりじゃない?」
「そうだな、ポンコツは取り消そう」
「いや能天気も取り消してよ!」
「能天気は悪いことだけではあるまい」
「そうかもしれないけど……悪い意味で使ってるよね?」
「無論そうだが?」
「無論そうだが? じゃないよっ! マッシュは相変わらず私に厳しいね!? ねえカーサ、カーサからもなにか――ってどうしたの、カーサ?」
マヤが振り返ると、頭から湯気を出しそうな勢いで頭を抱えて目を回しているカーサの姿があった。
「価格高騰? 売り渋り? 関係悪化? 商社? だから、みんな、困ってる? なにが、なんだか……?」
先程マッシュとマヤが言っていた言葉をぶつぶつとつぶやきながら頭を抱えているカーサに、マヤとマッシュは顔を見合わせる。
「あーっと、これは……」
「ああ、おそらくそういうことだろうな……」
そういえば、カーサは貿易摩擦がなにかもよくわかってなかったのだ。
であれば、さっきのマッシュとマヤの話などわかるはずもないだろう。
「えーっと、カーサ? 大丈夫?」
「マヤさん……私、さっぱり、わからな、かった……」
悲しそうな顔をするカーサに、マヤはその頭――は身長が足りなくて届かないので、その腰をぽんぽんと叩く。
「ごめんね、村育ちのカーサには難しかったよね」
「でも、私、今は、マヤさんの、護衛、だから、わからないと、だめ、なのに……」
今にも泣き出しそうなカーサに、マヤは慌ててフォローを入れる。
「カーサにはカーサの役目があるからさ、だから今はわからなくてもいいんだよ?」
「本当?」
「うん、本当本当。でも、カーサがわかるようになりたいっていうんだったら、帰ったら勉強しようか」
「うん、する!」
「よしっ、それじゃあ約束」
マヤはそう言って小指をカーサに向かって立てる。
「これは、なに?」
「ああそっか、そうだよね。えーっとね、これは約束が守れるようにするおまじないかな。カーサも小指を出してくれる?」
マヤに言われて、カーサは何が始まるのかよくわからないまま、マヤと同じように小指を立てる。
マヤは差し出されたカーサの小指に、自分の小指を絡ませた。
「行くよ? 指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーますっ、指切った!」
マヤが明るく指切りを終えると、カーサは何故か青ざめてマヤと指切りした小指を見ていた。
「マヤさん、さっきの、何の、呪い?」
「のろい!? いやいやいや、ただのおまじないだって」
「でも、嘘、つい、たら、針千本、飲まされる、んでしょ? それは、もう、なにかの、儀式、だよ?」
「あー、言われてみればこの歌ちょっと怖いね……でも安心して、本当に針千本飲ませたりしないから」
「本当?」
「本当本当」
「良かった……」
マヤの言葉に、カーサはやっと安心したのかホッと胸をなでおろす。
「終わったか?」
「終わったか? って……マッシュもなにかしてくれても良かったんだよ?」
「カーサはお前を信頼しているのだ。お前が励ます方がいいだろう?」
「そんなことないって、マッシュのその魅惑もふもふボディならどんな女の子も励ませるって」
「どうして私だけ体を差し出す形なのだ……」
「そこにもふもふがあるから、かな?」
「はあ、ふざけたこと言ってないで今後の方針を決めるぞ」
「はーい」
マヤは宿に向かうために通る大通りに差し掛かったところで、いつも人混みでしているようにマッシュを抱っこする。
いつものことなのでなんの抵抗もしなかったマッシュだが、そのせいでこの後、またカーサを励ますためとかなんとか言い始めたマヤによって、マッシュはマヤとカーサの2人から執拗にもふもふされる羽目になるのだった。
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