転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
96 / 324
第3巻第1章 ドワーフの内情

密輸入品を売る

しおりを挟む
「いやー、すごい量持って来てくれたねー」

 ブランに手紙を出してから3日後、マヤの目の前には、SAMASサマスの隊員が持ってきてくれた農作物が、マヤたち3人が泊まっている宿の部屋に所狭し並べられていた。

「まだほんの一部ですよ。最低限身体強化と防御魔法が使えるだけの魔力以外は持物インベントリに回して持てるだけ持って来ましたから」

 ベッドの上まで使って置けるだけ置いたにも関わらず、それでもまだごく一部だということに、マヤはエルフの魔力量の多さを改めて実感した。

(これだけたくさんのものを運べるなら、もしかしてうちの国って運送業をやったら最強なんじゃ……)

「おいマヤ、何をボーッとしているのだ? 早くお前の収納袋にしまってやらんと、こいつも困っているぞ?」

「ごめんごめん、それじゃあ私どんどんしまっていくから、お兄さんは空いたところにどんどん出してくれるかな?」

「了解です、陛下」

 それから30分ほどかかって、マヤはすべての農作物をSAMASサマスの隊員から受け取った。

「遠いところありがとね。もしかしたらまたお願いするかもしれないから、そのときはよろしくね」

「とんでもないです! 陛下から直々のご命令とあらば喜んで」

「あはは、そんなに畏まらなくていいってば。帰ったらゆっくり休んでね。なんならちょっと休んでいってもいいんだよ?」

「いえ! すぐ帰還するように隊長から指示を受けておりますので、私はこれにて失礼させていただきます」

「そう? じゃあまたね。ファムランドにもよろしく」

「了解です! 失礼します!」

 SAMASサマスの隊員は、直立不動で挨拶すると、そのまま回れ右して部屋を出ていった。

「さて、これで農作物は準備完了だね。マッシュ、市場の場所はどうかな? 使えそうなところあった?」

「ああ、どうやらここ数日で里の上層部に申請せずに作られた市場がいくつかできているらしい」

 どうやら、ものがなくなったことで、いわゆる闇市が発生しているらしい。

 キサラギ亜人王国で同じようなことが起きたとすれば喜ばしくないが、今回この里で闇市ができたことはマヤたちにとっては好都合だった。

「それは助かるね。それじゃあその闇市で勝手にお店を開かせてもらおう」

 マヤは農作物が大量に入った収納袋を持つと、マッシュの案内で闇市へと向かったのだった。

***

「さあさあいらっしゃいらっしゃい! 安いよ安いよー!」

 闇市にやってきたマヤは、敷物を広げると、さっそく農作物を取り出して並べた。

 八百屋よろしくお決まりの文句をマヤが大きな声で言った途端、マヤたちが店を広げていた通りの客がマヤの前に殺到する。

「なあ嬢ちゃん、この値段、嘘じゃねーだろうな!?」

「ちょっと、買わないならどいてくれないかしら!? 店主さん、この小麦粉全部欲しいのだけど!?」

「おいこのあま! 一人で全部買う気か!? ふざけてんじゃねーぞ!?」

 マヤが十分利益を含めてつけた値段でも、今のこの里の人々からすれば安すぎたらしい。

 血走った目でマヤに紙幣や硬貨を差し出す人々を、マヤはなんとかなだめようとする。

「ちょっと皆さん、落ち着いて、ね? まだまだたくさんあるからさ、あーもうそこ! 勝手に手に取らないでー!」

 ついには商品を手に取りお金を置いて立ち去ろうとする者まで現れ、収拾がつかなくなっていく。
 
「マヤさん、困って、る?」

「うん、困ってるね!?」

「どうにか、しよう、か?」

「できるなら今すぐやってー!?」

「わかった」

 マヤの返事を聞いたカーサは、目にも留まらぬ早業で背中を剣を抜くと、勝手に商品を手に取っていたドワーフの首に切っ先を突きつける。

「マヤさん、困って、る、落ち着か、ないと、首、落ちちゃう、よ?」

「ひっ!」

 真顔で恐ろしいことを言うカーサに、マヤに詰め寄って騒いでいたドワーフたちは水を打ったように静まり返る。

「うん、静か、に、落ち、着いて、ね?」

 無表情ながらもわずかに微笑んで、いつもどおりゆっくりと語りかけるカーサに、ドワーフたちは冷や汗を浮かべながらコクコクとうなずく。

「あははは……ごめんね、うちの子が……。それじゃあ、みんな1列に並んでくれるかな? 十分あるから安心して並んで。でも、全部くれっていうのはなしだよ?」

 先ほどのカーサがよほど怖かったのか、ドワーフたちは先ほどの混乱が嘘のように大人しく、静かに、揉めることなく、1列に整列した。

「うんうん、ありがとね。それじゃ、最初の人どうぞー」

 それからは、なんの問題もなく進んでいった。

 途切れるどころかどんどんと長くなっていく列に、マヤたちは交代で農作物を売り続け、最後の一人になった頃にはすっかり日が沈んでしまっていた。

「いやー、まさか半分以上なくなるとは」

「恐ろしい売れ行きだったな。それだけものが不足してるんだろうが」

「うん、みんな、必死、だった、ね」

「だよねー。カーサが止めてなかったら――あっ!」

 マヤが商品をしまっていると、小さな影が横切って果物が2つなくなっていた。

「子供、だね。泥棒、よくない、捕まえる?」

「うーん、わざわざ盗むってことは訳ありっぽいよね……。マッシュ、追っかけて様子だけ見てきてくれる?」

「取り戻さなくていいのか?」

「それはマッシュに任せるよ。「へへっ、あの店ちょろいぜー。またパクってやろうかな、ははっ」みたいなゲスな子供なら取り返して引きずってきてもいいよ」

「了解だ」

 マッシュが暗闇に消えると、片付けをしているマヤをカーサが後ろから抱きしめてきた。

「カーサ? どうしたの、突然」

「あの、ね、私、マヤさんが、王様で、良かった、って、思う、よ」

「そうかな? もっと優秀な人もいたと思うけど?」

「ううん、それでも、マヤさんが、王様の、方が、いい」

「嬉しいこと言ってくれるね。でもどうして急にそんなこと言い出したの?」

「うーん…………なんと、なく?」

 本当はなんとなくなどではなく、マヤがさっきの泥棒の子供をすぐに咎めなかったから、カーサはマヤが自分の主で良かったと思ったのだ。

 しかし、それを伝えるのはなんとなく恥ずかしかったので、カーサは誤魔化した。

「なにさそれー。ほら、さっさと片付けて宿に戻ろ? カーサも手伝って」

「うん、わかった」

 マヤとカーサは協力して全ての商品と敷物をしまい、宿へと帰ったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...