転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第3巻第2章 里上層部vsマヤ

密輸入品を売って起こったこと

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「マヤさん、なんか、どんどん、人が、増えて、ない?」

 マヤたちが密輸入品の農作物を売り始めてから3日目の帰り道、カーサの言葉にマヤは大きく頷いた。

「増えてるね。正直ここまで一気に増えるとは思ってなかったけど」

「今日はとうとう売り切ったのだろう? 明日の補充――では流石に間に合わないだろうが、明後日の補充からは2人で持ってきてもらった方がいいかもしれん」

「そうだね。とりあえずブランさんに手紙を出しとくよ。宿に帰ってすぐ出せば間に合うかもしれないし」

「マヤさん、ここと、キサラギは、魔物を、飛ばして、3日、かかる、よ?」

 カーサに指摘され、マヤはここはキサラギ亜人王国からそれなりに離れた場所だということを思い出した。

 毎日農作物を持って来てくれているSAMASサマスの隊員たちだって、3日かけてここまで来てくれているのだ。

「そうだった……。じゃあ早くても3日後の補充からしか対応できないね。困ったなあ……あれ? なんか宿の前に人だかりが……」

「ふむ、どうやら我々に用があるらしいな」

 持ち前の聴覚で人だかりから情報を得たマッシュが、マヤにそう教えてくれる。

 マヤたちに用があるということは、おそらくというかほぼ密輸入品を売っていることがバレたためだろう。

「こそこそ宿に来るなんてやな感じだね」

「民衆が我々の方に味方するのは目に見えているからな。店に来るのは避けたのだろう」

「でしょうね。それに、この里は公にはあの市場を認めてませんから、それもあるのかもしれません」

「……もしかしてパコ君って意外と賢い?」

「マヤさんは俺のことを何だと思ってたんだ?」

 パコに非難の視線を向けられて、マヤは素直に思っていた事を答えることにした。

「いや、貧乏すぎて勉強とかできてないんじゃないかな、って思ってたんだけど……」

「確かに読み書きなんかはできないけど……」

 どういったものか悩んでいるパコに、最近パコとエマに簡単な読み書きを教えているマッシュが助け舟を出す。

「こいつはなかなか地頭はいいようだぞ? 店でも代金の計算をすぐに覚えたしな」

 マッシュがパコを褒めたことで、パコと手を繋いでいたエマが「はいはいっ!」と手を挙げる。

「ねえねえマッシュ先生! エマは? エマも、じあたま? いい?」

「ああ、エマも良くできているぞ」

 地頭の意味がよくわかっていないエマの言葉に、マッシュはそれを指摘することなく優しくエマに答えてあげる。

「やったあ、じゃあマッシュ先生もふもふさせてー」

「それは――いや、仕方ない、いいだろう」

 普段はめったにもふもふさせてくれないマッシュだが、エマのような子供には弱いのか、マヤが同じお願いをした時とは比べ物にならないほど簡単に折れて、エマの前で立ち止まる。

「やった! ふふふっ、もふもふー」

 エマがマッシュをもふもふし始めたタイミングで、もふもふされているマッシュがマヤに目配せしてくる。

 マヤを見てから宿の前の人だかりを見るマッシュを動きから、どうやら、自分がエマの面倒を見ているうちに宿の前の件を片付けてこい、ということらしいとマヤは理解した。

 マヤはマッシュにうなずくと、カーサとパコを連れて宿の前まで歩いていった。

「あのー、私達この宿に泊まってるんですけど、何かあったんですか?」

 宿の入口を塞いでいる警察組織らしき制服を着たドワーフに、マヤは全く事情を知らないふりをして話しかける。

「ああ実はこの宿に、密輸入品を売りさばいているグループが泊まっているらしくてな」

 話しかけた端のドワーフの代わりに、真ん中に立っていたリーダーらしきドワーフがマヤの前に来て答えてくれた。

 どうやら、まだマヤたちがその密輸入品を売りさばいている張本人だとは気がついていないようだ。

 それならそれでいいか、とマヤたちはそのまま入れてもらうことにする。

「へえ、それは大変ですねえ。それじゃあ私達は入っていいですか?」

「いやだめだ。この宿で今日まだ戻っていないのはそのグループだけらしいからな」

 その言葉を聞いて、マヤは全てを察した。

「あー……」

「密輸入品を売ってるのはお前たちだな?」

「ちっ、わかってるなら最初言ってくれればいいのに」

 マヤはわざと警察組織らしきドワーフを煽るようなことを言う。

「なっ! お前、自分が逮捕される立場だってことがわからないのか?」

「そんなことはわかってるよ! でも、逮捕されることが正しいとは思わないけどね!」

 声を荒げるドワーフに、マヤも同じように大声で反論する。

 わざと大きな声で、できるだけ周りの一般人に聞こえるように。

「このっ! 犯罪者のガキの分際でいっちょ前に口答えしやがって!」

「犯罪者って何さ! 私はみんなが困ってるから食べ物を売ってあげてるだけでしょ!」

「ぐぬっ……へ、屁理屈を言うな! この犯罪者!」

 反論に窮したドワーフは持っていた棒を振り上げると、怒りのままにマヤへと振り下ろした。

 マヤへと迫る棒に、マヤは周囲にわからないように自分に強化魔法をかけて、受け止めるか避けるかを考えたのだが、カーサが動いたのがわかったので動かないことにした。

「暴力、なら、相手に、なる、よ?」

 ドワーフが振り下ろした棒を横から掴み、静かな怒りをその目に宿して自らを見下ろすカーサに、ドワーフはつばを飲む。

 受け止めたのではなく、横から掴まれたということは、カーサにはドワーフの攻撃が完全に見えていたということだ。

 それが何を意味するかがわからないほど、警察組織らしきドワーフは馬鹿ではなかった。

「いや、すまなかった。つい感情的になってしまった」

「そう。なら、いい、けど。次は、ない」

 カーサが手を離すと、ドワーフはほっと胸をなでおろす。

「それで、私達はこれからどうなるのかな?」

「とりあえず、我々の本部まで連行させてもらう」

「嫌だって言ったら?」

「強制的にでも――と言いたいところだが、どうやら我々にその選択肢はとれないようだ。断られてしまえば、お願いするしかない」

「なーんだ、もっと強気かと思ったのに。まあいいや、いいよ、ついていってあげる」

「くっ……! 協力、感謝する……」

 警察組織らしきドワーフは本気で悔しそうだったので、マヤは少し気の毒になってしまう。

(まあ、ちょっと煽られただけで殴りかかっちゃだめだよね。自業自得だよね)

 こうして、マヤたちはこの里の警察組織の本部まで連行されたのだった。

 この時マヤが警察のドワーフと大声で言い合ったおかげで集まった野次馬に、その場に残ったマッシュが事情を説明したことにより、マヤたちが最近話題の安く農作物を売っている店の関係者であることが里中に知れ渡ることになる。

 とりあえず、今のところは思惑通りにことが進んでいることを、厳重注意で釈放されて帰ってきたマヤは確認したのだった。
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