転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第3巻第2章 里上層部vsマヤ

糾弾

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「ということで、ここにいるハミルトンって人は、ノットリミッドってお店でたくさんの女性を文字通り使い潰してきたってこと。わかってくれたかな?」

 マヤが盗み出してきた多数の冊子を見せながら説明を終えると、会場はしんと静まり返った。

 ぱっと見半分くらいの客がステージから目を背けているようだ。

 おそらくノットリミッドを利用したことがある人物たちなのだろう。

 仮面と会場の暗さのせいで表情は読み取れないが、冷や汗の1つでもかいているかもしれない。

 しばらくすると、1人の客がすっと手を上げた。

「どうしたのかな、そこのお兄さん? おじさん?」

「どちらでも構いませんよ、マヤ陛下」

「じゃあ声も渋いしおじさんで。それで、なにかな?」

「はい、陛下はそこのハミルトン殿の罪をここで明らかにして、一体何がしたいのですか?」

 男性の質問に、会場の何人かの客が小さく頷いた。

「ハミルトンを失脚させて、ついでにノットリミッドに関係した人――もちろんただのお客さんも含めて、皆殺しにしようかな――」

 マヤが言い終わる前に、会場のあちこちから上がった怒声によってマヤの声はかき消された。

「ふざけるな! 俺はただの客だ! 殺されるようなことはしてないはずだ!」

「俺もだ! 普通にちょっと遊んだだけで、何も命まで奪わなくなっていいじゃねーか!」

 この2人の他にも、次々と講義の声が上がる。

 マヤは呆れた表情でそれを眺めていた。

 しばらくして客たちの抗議が収まったところで、マヤは最初にマヤの言葉に割り込んで抗議した男性を指さした。

「じゃあお兄さん、殺されるようなことはしてないんだから、名前を教えてよ」

「いやそれは……それに、ここは匿名の――」

「なーるほど、教えられないってことはもしかしてお兄さんが、1年で27人潰したっていう首絞め大好きのクソ野郎さんって――」

「ち、ちがう! 俺の名前はマルティンだ! そんな異常者と一緒にするな!」

 マヤの言葉にたまらず名前を白状した男性の名前を、マヤは冊子をめくって探していく。

「えーっと、マルティンさんは……あー、ドがつく少女好きのマルティンさんねー。いやー7歳にて出してるのはちょっと……しかも何、えーっと1、2、3、4、5、6、7…………18人!? 7歳の子だけで18人もって、これは一回死んだほうがいいと思うなー、女的には」

 マヤが話していくに連れて、周囲がマルティンを見る目が変わるとともに、マヤへの抗議はピタリと止んだ。

「もう異論がある人はいないかな? それから、みんな人の話は最後まで聞いたほうがいいよ? 私別に、皆殺しにするつもりとかないし」

「それはどういう……」

 マヤに質問したのは、うつむいて震えていたマルティンだった。

「そのまんまの意味だよ、幼女好きのマルティンさん。あなたが遮らなければ、皆殺しにしようかなとも思ったけど、流石にそれはやりすぎだから、うちの国で裁判にかけるだけにしてあげる、って言おうと思ってたんだよ?」

「じゃあ、俺も殺されるわけじゃないんだ、ですね?」

「いやー、それはどうだろう? うちの国まだ法律も作ってるところだし、死刑が組み込まれれば殺されちゃうかもしれないし」

「そんな……」

「まあ、死刑には私も反対だし、多分そうはならないけどね。で、これは私からみんなへの提案なんだけどね?」

 マヤは客たちの注目がマヤたちに集まるのを待ってから続きを話し始める。

「今私が話したことを、里中に広めてくれないかな? ついでにこの里がキサラギ亜人王国に加入するようにも仕向けてほしい。もしそうしてくれたら、後で裁判するときにちょっとだけ刑を軽くしてあげる」

 マヤは最後に「あ、マルティンさんの秘密は別だよ?」と付け足した。

「よろしいですか?」

 最初にマヤに真意を訪ねたドワーフが再び挙手とともに声をかけてきた。

「いいよおじさん」

「それでは我々は逃げたほうが得のように感じてしまいますが?」

「おっ、そこに気がついてその上今聞いておくとは、なかなかにできるね、おじさん」

「恐縮です」

「たしかにおじさんの言うとおり、逃げたほうが得に見えるかもだけど、私が言ってるのは、皆殺しにしない代わりに、うちの国で裁判を受けるので許してあげるってこと。逃げたらどうなるか、わかるよね?」

 マヤは腕輪を掲げると、カラスやネズミといった偵察用の魔物から、狼や熊、虎といった戦闘用の魔物まで大量の魔物を呼び出してみせた。

「まあ、これを見ても逃げ出せると思うなら、逃げてもいいけど」

「なるほど、よくわかりました」

「もう質問はないかな? …………ないみたいだね、それじゃあ解散!」

 マヤが入り口を塞いでいた狼の魔物をどかすと、我先にと客たちが会場を後にした。

 ここから恐ろしい勢いでハミルトンの悪事が里中に拡散され、数日後里長屋敷の前に押し寄せた住人の前で、ラッセルがハミルトンを正式に商人会会長から更迭、キサラギ亜人王国への輸入規制は正式に解除された。

***

「さて、それでラッセル君。この里にもキサラギ亜人王国に加入してほしいんだけど、どうかな?」

 ハミルトン更迭の翌日、マヤは里長室でラッセルと向き合っていた。

 ラッセルの後ろにはナタリー、マヤの後ろにはカーサが控えていた。

 マッシュはマヤに膝の上でもふもふされている。

「こちらこそお願いしたいです。里のみんなも「闇市で格安の食べ物を売ってくれてた嬢ちゃんの国なら喜んで」っていう人がほとんどのようですし」

「よしっ、じゃあ決まりだね」

「それじゃあ早速書面に――」

 ラッセルが今回の取り決めを書面に残そうとナタリーを振り返った瞬間、里長室の窓がぶち破られ、1人の黒いドワーフが飛び込んできた。

「何っ!?」

 マヤが突然のことに驚いていると、さっきまでマヤに膝の上でとろけていたマッシュが、いつの間にかマヤと窓の間で臨戦態勢を整えていた。

 マッシュと同じくナタリーがラッセルと窓の間で窓の方を警戒しており、次の瞬間にはカーサが飛び込んできた影に剣を叩き込んでいた。

 ガキィィィィン、という金属と金属が激しくぶつかり合う音ともに、大きく火花が散った。

 剣撃を放ったカーサの顔に僅かな驚きの色が混ざる。

「硬い……」

 カーサは剣で切り払いならが飛び退くとマヤの隣に着地する。

 ここまで1秒もかかっていない。

 マヤはようやく窓から飛び込んできた影をしっかりと見ることができた。

 それは、漆黒の甲冑に身を包んだ何者かだった。

 よく見ると、甲冑の所々から黒いもやが見える。

 どうやら魔石と金属を組み合わせた魔導具の鎧らしい。
 
「あなた何者?」

「答える義理はない」

 予想通りの答えにマヤはどうしたものかと考えるが、意外にもその答えはマヤたちが正体を知るきっかけとなった。

「その声はハミルトンさん、ですね」

 長い時をともに過ごしたナタリーには、その短い返答だけで、その声の主を当てるには十分すぎたのだった。
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