転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第4巻第1章 魔王会議

ルーシェへの埋め合わせ

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 魔王会議が行われる前日、マヤはマッシュ、カーサ、オリガの3人と一緒にルーシェの城を訪れていた。

「ルーシェー、来たよー」

 城に仕えるエルフたちに軽く手を上げて挨拶したマヤは、顔パスで城門をくぐると城内の回廊に入るなりそんなことを言う。

「マヤさん、流石にこんなところで呼んでも聞こえないと思いますよ?」

「うん、流石に、あの、魔王様、でも、聞こえ、ないと、思う」

「……いや、どうだろうな?」

 マッシュはしきりに耳を動かして周囲の音を探っている。

 しばらくしてマッシュは、回廊の外に顔を向けた。

「ほれ、お前が呼んだから来たようだぞ?」

「マヤー!」

 マヤが回廊の外に顔を向けると、ルーシェが上空から突っ込んできた。

「わわっ! 強化ブースト!」

 マヤはとっさに自分を強化すると、マヤに飛びついて来たルーシェを受け止める。

「もうっ! 突然飛び込んできたら危ないじゃん!」

「だってマヤが呼んでくれたから」

 満面の笑みで言うルーシェを見ていると、まあ仕方ないかと思わされてしまうあたりが、この魔王のずるいところだと、マヤは思う。

「いや確かに呼んだけどさ……」

 呆れるマヤに、ルーシェは一瞬だけ真面目な表情になり。

「これくらいのことには対応できないと、流石に魔王会議に出るのは危ないからね」

 と、マヤにだけ聞こえるようにささやいた。

「そんなに危ないの?」

 同じく囁きかけたマヤの質問に、ルーシェはただ笑っただけでマヤからぱっと身体を離す。

「久しぶりだね、マヤ。それからマッシュさんとオリガちゃんとカーサちゃんも」

「久しぶりだな、魔王ルーシェ。だが、一応ソレは我々の王なのだ、あまり危ない目に合わせんでくれ」

「いやソレ呼ばわりは流石に酷いんじゃない?」

 相変わらずマヤの扱いが酷いマッシュにマヤは苦笑しながら一応ツッコミを入れておく。

「そうですよルーシェ様、マヤさん万が一のことがあったらどうするんですか」

「あはは、ごめんごめん。でもマヤなら大丈夫かなってね。それに、本当に私が攻撃するつもりならオリガちゃんが止めてたでしょ?」

「それはたしかにそうですけど……」

「でしょ? だから許してよ、ね? それよりマヤ、魔王会議に行く準備は大丈夫?」

「うん、たぶんだけど。って言っても何を準備したものかさっぱりだったから、これと言って何を準備したわけでもないんだけど」

 今日までの1週間あまり、マヤは一応何がいるのかを魔王会議の経験があるエメリンや同行するマッシュたちと一緒に考えて、できる限りの用意はしてきた。

 とはいえ、結局何を用意したものかさっぱりだったので、とにかく何が起きてもいいように色々なものを収納袋に詰めて来たのだった。

「まあそれで大丈夫なんじゃない? マッシュさんたちがいれば大抵のことはなんとかなるだろうし」

 ルーシェはあっけらかんとそんなことを言う。

「軽いなあ。一応魔王たちの会議なんでしょ? そんなノリで大丈夫なの?」

「だって私強いし?」

「あーそうだった、この人時間とか止められる系の人だった」

「それで、どうして今日来たの? たしか明日来るように伝えたはずだけど?」

 ルーシェの言う通り、マヤがルーシェに呼ばれていた日は明日である。

 魔王会議当日の朝に自分の城に来るように、というのがルーシェからの伝言だった。

「そうそう、これを渡そうと思ってさ」

「なにこの瓶? なんだかきれいに細工されてるけど」

 ルーシェはマヤが手渡した瓶を受け取ると、光にかざしながら軽く振ってみる。

 中に入っているのは透明な液体のようだった。

「実はもう知ってるんでしょ?」

「いや知らないよ。マヤは勘違いしてるみたいだけど、私見ようと思えば見えるだけで四六時中全世界を見てるわけじゃないからね?」

「そうなんだ。まあそれもそうか。それはね、エメリンさんとレオノルさんが作った新しい化粧品だよ。試しに手につけてみてよ」

「へえ、どれどれ……」

 ルーシェは疑うことなくそれを手に少し取り出して、そのまま両手になじませる。

「うわっ、うわわわわわっ! なにこれ、すっごいね! なんだか若返った気がする!」

「でしょ? 実はこれ、本当にちょっとだけ若返ってるんだよね」

「ええっ!? 一体どういう……」

「いやー、詳しいことは知らないんだよね、難しすぎてさ」

 はははっ、と頭をかくマヤに、ルーシェはやれやれと首をふると片目を閉じた。

「しょうがないなあ……」

 この化粧品ができるまでの経緯を一通り確認したルーシェは思わず苦笑する。

「いやー、女の嫉妬って怖い。でもそれでこんな化粧品が誕生するなんて……本当にマヤの周りには面白い人が多いね」

「あははは、そうでしょ?」

 実は今回の化粧品、発端はファムランドが若い女性隊員に目を奪われている気がする、というレオノルの嫉妬から始まっている。

 そこからレオノルは自分がもっと若々しくなれば、ファムランドはもっと自分のことを見てくれるだろうと思ってエメリンに協力を仰ぎこの化粧品を作ったのだ。

「お母さんから聞いたんですけど、時間に抗って肌の劣化を止める魔法も一時的に弱めて若返りの効果を付与するらしいですよ」

「そんな高度なことをただの化粧品に? 流石エメリンだなあ」

 マヤには何を言っているかさっぱりだったが、ルーシェが関心半分呆れ半分で瓶を弄んでいるところを見るに、すごいことなのだろう。

「で、レオノルさんの目的は達成されたの?」

「それはなんとも言えなくてさ。そもそもファムランドがレオノルさんをあまり見ないようにしてたのって、レオノルさんを見ると、その、いちゃいちゃしたくなっちゃうからだったらしくて……」

 苦笑するマヤに、それを聞いたルーシェも同じく苦笑する。

「あー、それはその……ごちそうさま」

「ねえー。だから2人には旅行に行ってもらってる。とりあえずいったん思う存分いちゃいちゃしてこいってことで」

「それがいいと思う。でもどうしてこれを私にくれたの?」

「ああ、それはね、この前の埋め合わせだよ。ほら、突然お風呂に乱入しちゃったじゃん?」

「あのときのか。なるほど、そういうことならありがたくもらっておくよ。そうだ、今日はもう泊まっていくでしょ?」

「そうさせてもらえると助かるかな。難しかったらキャンプの準備もしてきてるけど」

「いいっていいって、部屋なら余ってるからさ」

 こうしてマヤたちはその日、ルーシェの城に泊まることとなったのだった。

***

「ルーシェ、起きて、る?」

 皆が寝静まった深夜、カーサは1人部屋を抜け出してルーシェの寝室の前に来ていた。

「起きてるよ」

「っ!?」

 カーサは突然後ろから聞こえた声に驚いて声を出すことも出来ず振り返った。

「ははは、驚かしてごめんね。これでも魔王だからさ、いくら殺意のないカーサちゃんでも、こんな時間に寝室に来たら一応警戒しちゃうんだよね」

「びっくり、した。気配、消すの、完璧」

「やったね、剣聖に褒められちゃった。まあ入りなよ、なにか話があるんでしょ?」

「うん、そう。剣神、のこと、教えて、ほしい」

 カーサはルーシェに促されるままに部屋に入っていったのだった。
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