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第4巻第3章 剣聖とウォーレン
ウォーレンとマヤ
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つんつん。
「んんっ……やめろカーサ、くすぐったいだろう」
つんつんつん。
「やめろというのに……まだ起きるには早いだろう?」
つんつんつんつんつん。
「ああもう! わかった、起きる! 起きるからつつくのをやめろカーサ!」
最終的につつき回されたウォーレンは、大きな声でそう言って飛び起きた。
そして飛び起きてから、自分が寝ぼけていたことに気がつく。
(まさかカーサに起こされていると勘違いするとは……相当疲れていたのだな……)
ウォーレンは顔に手をあてて頭を振ると、寝たままの脳を起こすように勢いよく顔を上げる。
そこでようやく、ウォーレンは目の前に少女がしゃがみこんでいることをに気がついた。
「カーサじゃなくてごめんね、お兄ちゃん?」
少女がいたずらっぽく笑って小首をかしげると、朝日に照らされた白銀の髪がサラサラとそのなだらかな肩から腕へと流れ落ちる。
「……誰だ、お前は?」
「あははっ、そうだよね、知らないよね~」
開口一番の不躾な質問にも、少女は気を悪くした様子はなく、無邪気に笑って立ち上がると、ウォーレンから少し離れたところでくるりとウォーレンを振り返った。
少女はそっと胸に右手を乗せると、ウォーレンをまっすぐに見据える。
「私はマヤ。今はあなたの妹、カーサの主ってことになってるんだ」
「お前が、魔物使いの魔王マヤ、なのか?」
どこからどう見てもただの少女でしかないマヤに、ウォーレンは思わずそんなことを聞いてしまったのだった。
***
時は少し戻って、マヤとオリガがデリックの家にたどり着いた頃。
「剣神さーん」
強化魔法で疲労と睡魔を誤魔化しながら夜通しシロちゃんを飛ばして来たマヤは、ようやく白み始めた空の下で素振りをしているデリックに声をかけた。
「マヤか。どうしたのだ突然。それもこんなに早い時間に」
ルーシェ殿やステラ嬢ならまだ寝ていただろう、と付け加えるデリックに、マヤは苦笑する。
たしかにこんな夜明けに押しかけるのは流石に相手の迷惑を無視し過ぎだろう。
「ごめんね突然。ちょっとお願いがあってさ」
「ウォーレンのことだろう? 一体あやつに何があったのだ?」
「すごいね。どうして分かったの? もしかして魔法?」
後ろを振り返るマヤに、オリガは首を横に振った。
「魔法などではない。数日前にウォーレンのやつが失踪し、ついこの前ずぶ濡れで帰って来たのだ。そして帰ってきてからも様子がおかしい。そこに、以前あやつの妹を連れていたお前がその妹を連れずにやってきた。なにかあると思うには十分だろう?」
「ウォーレンさんが失踪してた?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「いや……じゃあもしかしてその時になにかあったのかな?」
「それは本人しか分からぬことだ。幸い今やつはここにいる。会ってくるといいだろう。おそらくその道を行った先の訓練場で寝ているはずだ」
「ありがとう。行ってくるよ」
「ありがとうございます」
軽く手を上げてデリックにお礼を言うマヤに続いて、オリガもシロちゃんの上で頭を下げる。
「気にするな、私にとってもやつは家族の一員だからな。ただし、全て片付いたら説明してくれ」
「それはもちろん」
マヤはそれだけ言い残すとデリックに背を向けてシロちゃんを走らせる。
「いい人でしたね、剣神様」
「ねー。前にあった時も優しかったし。どうしてカーサは剣神さんがお兄さんを操ってカーサを見捨てさせた、なんて思い込んでるんだろうね?」
「さあ? ただの勘違いじゃないですか?」
「それならいいんだけど」
そんなことを話していると、前方に大の字で寝ているオークの男性が見えてきた。
カーサと同じ緑色の髪をしているので、おそらくあれがウォーレンなのだろう。
「オリガはここで待っててくれるかな?」
「わかりました」
マヤはオリガとシロちゃんに少し離れたところで待っていて貰い、寝ているウォーレンのところへと1人でやってくる。
「よく寝てるねー」
叩き起こして要件を済ませることもできたマヤだったが、なんとなくウォーレンとは長い付き合いになりそうな予感がして、とりあえずその頬をつついてみたのだった。
***
「マヤさーん、もうそっち行っていいですかー!」
ウォーレンが身体を起こしてマヤと話始めたようとしたタイミングで、離れたところで待っていたオリガが声をかけてくる。
「だいじょーぶだよー」
マヤは大きな声でそう言いながらオリガへと手招きする。
「それで、魔王マヤ様とその側近のオリガ殿が私に何の用ですか」
先程までとは打って変わって、ウォーレンは緊張した面持ちでマヤの前に正座している。
マヤは先日の魔王会議の場で、ウォーレンの師匠であるデリックに勝利し、魔王として認められたわけで……ウォーレンが緊張してしまうのも仕方がないことだろう。
「はははっ、そんなに畏まらなくていいって。私なんてただの魔物使いなんだからさ。そこらの村娘だと思って喋ってくれていいから。ね、オリガもそれでいいでしょ?」
「そうですね、カーサさんのお兄さんに畏まられるのはちょっと……」
そもそも感覚としてはそこらの村娘どころかつい半年ほど前まで奴隷だったオリガからすれば、ここ最近のやたら敬われている状態のほうがよっぽど居心地が悪かったりする。
今もオリガは誰に頼まれたわけでもないのにマヤとウォーレンの分までお茶を用意して、持物から取りだしたテーブルの上に並べていた。
「マヤ様――ではなくマヤとオリガがそう言うなら、普通に話させてもらおう。それで、なぜ私をつついていたのだ?」
ウォーレンは話しながら、正座から立ち上がり、オリガが用意した椅子に座ってお茶に口をつける。
「ああそれはね、お兄ちゃんに教えてほしいことがあって」
「ぶほっ……ごほっごほっ」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「……ごほっ、どうしたの? ではない! 何だそのお兄ちゃんというのは」
「だってウォーレンさんはカーサのお兄ちゃんでしょ? じゃあ私のお兄ちゃんみたいなもんじゃん」
「いやいやいやいや、どうしてそうなる。おいオリガ、こいつはいつもこうなのか?」
「ははは……まあいつもそんな感じです」
「なるほど、お前も苦労してきたのだな」
ウォーレンは苦笑いするオリガの頭を思わず撫でていた。
突然頭を撫でられたオリガは、少し驚いた様子だったが、そのまま素直に頭を撫でられていた。
そしてしばらくして。
「あの……私もお兄ちゃんって呼んでも、いい、ですか?」
とオリガは躊躇いがちに上目遣いでウォーレンに尋ねる。
「はあ……まあいいだろう、呼ばれ慣れているしな。それでマヤ、そろそろ本題に入って欲しいんだが」
「そうだね。それじゃあ単刀直入に。今あなたの中に初代剣聖の意識はいるのかな?」
「……なるほど、お前はあれが初代剣聖だと考えているのか」
「そう言うってことは、あなたの中にいるんだね?」
「いや、残念だが、今俺の中にあいつはいない。あいつは、お前の言う初代剣聖は、今カーサの中にいるはずだ」
ウォーレンの言葉に、なんとなくなく予想がついていたマヤも、全く予想外だったオリガも、同じ様に黙りこくってしまうのだった。
「んんっ……やめろカーサ、くすぐったいだろう」
つんつんつん。
「やめろというのに……まだ起きるには早いだろう?」
つんつんつんつんつん。
「ああもう! わかった、起きる! 起きるからつつくのをやめろカーサ!」
最終的につつき回されたウォーレンは、大きな声でそう言って飛び起きた。
そして飛び起きてから、自分が寝ぼけていたことに気がつく。
(まさかカーサに起こされていると勘違いするとは……相当疲れていたのだな……)
ウォーレンは顔に手をあてて頭を振ると、寝たままの脳を起こすように勢いよく顔を上げる。
そこでようやく、ウォーレンは目の前に少女がしゃがみこんでいることをに気がついた。
「カーサじゃなくてごめんね、お兄ちゃん?」
少女がいたずらっぽく笑って小首をかしげると、朝日に照らされた白銀の髪がサラサラとそのなだらかな肩から腕へと流れ落ちる。
「……誰だ、お前は?」
「あははっ、そうだよね、知らないよね~」
開口一番の不躾な質問にも、少女は気を悪くした様子はなく、無邪気に笑って立ち上がると、ウォーレンから少し離れたところでくるりとウォーレンを振り返った。
少女はそっと胸に右手を乗せると、ウォーレンをまっすぐに見据える。
「私はマヤ。今はあなたの妹、カーサの主ってことになってるんだ」
「お前が、魔物使いの魔王マヤ、なのか?」
どこからどう見てもただの少女でしかないマヤに、ウォーレンは思わずそんなことを聞いてしまったのだった。
***
時は少し戻って、マヤとオリガがデリックの家にたどり着いた頃。
「剣神さーん」
強化魔法で疲労と睡魔を誤魔化しながら夜通しシロちゃんを飛ばして来たマヤは、ようやく白み始めた空の下で素振りをしているデリックに声をかけた。
「マヤか。どうしたのだ突然。それもこんなに早い時間に」
ルーシェ殿やステラ嬢ならまだ寝ていただろう、と付け加えるデリックに、マヤは苦笑する。
たしかにこんな夜明けに押しかけるのは流石に相手の迷惑を無視し過ぎだろう。
「ごめんね突然。ちょっとお願いがあってさ」
「ウォーレンのことだろう? 一体あやつに何があったのだ?」
「すごいね。どうして分かったの? もしかして魔法?」
後ろを振り返るマヤに、オリガは首を横に振った。
「魔法などではない。数日前にウォーレンのやつが失踪し、ついこの前ずぶ濡れで帰って来たのだ。そして帰ってきてからも様子がおかしい。そこに、以前あやつの妹を連れていたお前がその妹を連れずにやってきた。なにかあると思うには十分だろう?」
「ウォーレンさんが失踪してた?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「いや……じゃあもしかしてその時になにかあったのかな?」
「それは本人しか分からぬことだ。幸い今やつはここにいる。会ってくるといいだろう。おそらくその道を行った先の訓練場で寝ているはずだ」
「ありがとう。行ってくるよ」
「ありがとうございます」
軽く手を上げてデリックにお礼を言うマヤに続いて、オリガもシロちゃんの上で頭を下げる。
「気にするな、私にとってもやつは家族の一員だからな。ただし、全て片付いたら説明してくれ」
「それはもちろん」
マヤはそれだけ言い残すとデリックに背を向けてシロちゃんを走らせる。
「いい人でしたね、剣神様」
「ねー。前にあった時も優しかったし。どうしてカーサは剣神さんがお兄さんを操ってカーサを見捨てさせた、なんて思い込んでるんだろうね?」
「さあ? ただの勘違いじゃないですか?」
「それならいいんだけど」
そんなことを話していると、前方に大の字で寝ているオークの男性が見えてきた。
カーサと同じ緑色の髪をしているので、おそらくあれがウォーレンなのだろう。
「オリガはここで待っててくれるかな?」
「わかりました」
マヤはオリガとシロちゃんに少し離れたところで待っていて貰い、寝ているウォーレンのところへと1人でやってくる。
「よく寝てるねー」
叩き起こして要件を済ませることもできたマヤだったが、なんとなくウォーレンとは長い付き合いになりそうな予感がして、とりあえずその頬をつついてみたのだった。
***
「マヤさーん、もうそっち行っていいですかー!」
ウォーレンが身体を起こしてマヤと話始めたようとしたタイミングで、離れたところで待っていたオリガが声をかけてくる。
「だいじょーぶだよー」
マヤは大きな声でそう言いながらオリガへと手招きする。
「それで、魔王マヤ様とその側近のオリガ殿が私に何の用ですか」
先程までとは打って変わって、ウォーレンは緊張した面持ちでマヤの前に正座している。
マヤは先日の魔王会議の場で、ウォーレンの師匠であるデリックに勝利し、魔王として認められたわけで……ウォーレンが緊張してしまうのも仕方がないことだろう。
「はははっ、そんなに畏まらなくていいって。私なんてただの魔物使いなんだからさ。そこらの村娘だと思って喋ってくれていいから。ね、オリガもそれでいいでしょ?」
「そうですね、カーサさんのお兄さんに畏まられるのはちょっと……」
そもそも感覚としてはそこらの村娘どころかつい半年ほど前まで奴隷だったオリガからすれば、ここ最近のやたら敬われている状態のほうがよっぽど居心地が悪かったりする。
今もオリガは誰に頼まれたわけでもないのにマヤとウォーレンの分までお茶を用意して、持物から取りだしたテーブルの上に並べていた。
「マヤ様――ではなくマヤとオリガがそう言うなら、普通に話させてもらおう。それで、なぜ私をつついていたのだ?」
ウォーレンは話しながら、正座から立ち上がり、オリガが用意した椅子に座ってお茶に口をつける。
「ああそれはね、お兄ちゃんに教えてほしいことがあって」
「ぶほっ……ごほっごほっ」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「……ごほっ、どうしたの? ではない! 何だそのお兄ちゃんというのは」
「だってウォーレンさんはカーサのお兄ちゃんでしょ? じゃあ私のお兄ちゃんみたいなもんじゃん」
「いやいやいやいや、どうしてそうなる。おいオリガ、こいつはいつもこうなのか?」
「ははは……まあいつもそんな感じです」
「なるほど、お前も苦労してきたのだな」
ウォーレンは苦笑いするオリガの頭を思わず撫でていた。
突然頭を撫でられたオリガは、少し驚いた様子だったが、そのまま素直に頭を撫でられていた。
そしてしばらくして。
「あの……私もお兄ちゃんって呼んでも、いい、ですか?」
とオリガは躊躇いがちに上目遣いでウォーレンに尋ねる。
「はあ……まあいいだろう、呼ばれ慣れているしな。それでマヤ、そろそろ本題に入って欲しいんだが」
「そうだね。それじゃあ単刀直入に。今あなたの中に初代剣聖の意識はいるのかな?」
「……なるほど、お前はあれが初代剣聖だと考えているのか」
「そう言うってことは、あなたの中にいるんだね?」
「いや、残念だが、今俺の中にあいつはいない。あいつは、お前の言う初代剣聖は、今カーサの中にいるはずだ」
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