転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
165 / 324
第4巻第4章 初代剣聖

初代剣聖カーリ

しおりを挟む
「おおっ! ウォーレン! 久しぶりだなあ!」

 カーサがいると思われる街に着くなり、ウォーレンが向かった先で、1人の男がウォーレンを出迎えた。

 笑顔でウォーレンとの再会を喜ぶ男の肩に、ウォーレンは勢いよく手を置くと、ぐっと力を込める。

「悪いが今は再会を喜んでいる余裕はない。カーサはどこに行った?」

「どうしたんだよ一体……カーサちゃんならつい1時間ほど前に出ていったぞ? おそらくだが、あっちの街道の方に行ったと思うが……」

「助かった。すべて済んだらまた顔を出す。それではな!」

 勢いよく走り出したウォーレンに、後ろにいたマヤも男性に一礼してシロちゃん跨るとその後を追った。

「何だったんだよ、一体……」

 突然やってきて突然去っていったウォーレンに、取り残された男性は呆気にとられてしまうのだった。

***

 街道へ向けて街を疾走するウォーレンに、追いついたマヤが後ろから声をかける。

「ウォーレンさん、後ろに乗って!」

「カーサの場所がわかったのか?」

「うん、シロちゃんが匂いを見つけられたみたい!」

「でかした!」

 ウォーレンが後ろに飛び乗ると、シロちゃんが得げに話し出す。

「カーサさんの匂いはずっと嗅いでいたので覚えているのです。だから、間違いないのです」

「……妹の匂いをずっと嗅いでいたと言われるのはちょっとなんとも言えない気分だが……ともかく助かった」

「あはは……まあシロちゃんは喋れるけど狼だから、ペットみたいなものだし気にしないほうがいいと思うよ?」

「そうなのです。私はメスの狼にしか興味はないので気にすることはないのです」

「それはそうなんだが……」

 そんなことを話しながらも、シロちゃんが高速で走っているため、マヤたちはどんどんとカーサへと近づいていた。

「そうだウォーレンさん、これを渡しとくね」

 マヤは収納袋から2振りの剣を取り出してウォーレンへと渡した。

「何だこれは?」

「それは聖魔石っていう特別な魔石でできた剣だよ」

「聖魔石? 聞いたことがないな……」

「やっぱりそうだよね。詳しいことは私も知らないんだけど、とりあえずその聖魔石の剣を使ってくれれば、私の強化魔法の対象になれるんだよ」

「つまり、マヤが俺を強化できるってことか?」

「まあそんな感じかな。でね、もし初代剣聖がウォーレンさんに取り憑いてくれそうに無かったら、その剣を1本、自然な感じでカーサに渡してほしいんだよね。もう1本はウォーレンさんが使っていいからさ」

「どういうことだ?」

 マヤの意図が読めないウォーレンは、眉をひそめる。

「あはは、まあ念のために他の作戦も用意してるってことだよ。詳しいこと言っちゃうとウォーレンさんうまく演技できなくなりそうだし、今は内緒ね」

 なんだか適当に誤魔化された気がするウォーレンだったが、マヤはそれっきり何も言わなくなってしまう。

 どうやら今は話すつもりがないらしいマヤに、ウォーレンは諦めてマヤから渡された聖魔石の剣を背負った。

 そうこうしているうちに、街道に入っていたシロちゃんは、特に何もないところで急に足を止める。

 前に乗っていたマヤは、思わずシロちゃんの背中に顔から突っ込んでしまった。

「ぷはっ……どうしたのシロちゃん、急に止まって……ん? これは……?」

 マヤは自分にもわかるくらいはっきりとした臭いが、風に乗って流れてきていることに気がついた。

「血の臭い、だな……あっちか!」

「ああ! ちょっと待ってよウォーレンさん! シロちゃん、お願い!」

 シロちゃんから飛び降りて森の中を駆けていくウォーレンをマヤはシロちゃんに乗ったまま慌てて追いかける。

 しばらく森の中を進むと、少し開けた場所があり、そこに1人のオークが立っていた。

 それはマヤのよく見慣れた背中で――。

「見つけたよ! カーサ!」

 ようやく見つけたカーサに声をかけたマヤに、カーサは振り返り。

「何だ? カーサの知り合いか?」

 と、カーサらしからぬなめらかな口調と冷たい声音でそう言った。
 
「ウォーレンではないか、今更貴様が何の用だ?」

 そして、カーサが再会を待ち望んでいた兄であるウォーレンに向かって、これまたカーサらしからぬ口調で言い放った。

「もしかして、今のカーサって……」

「ああ、間違いなくあいつに乗っ取られている」

 マヤとウォーレンはカーサの態度と、カーサの足元に転がっている心臓を突かれ、首を斬り落とされた2人の男性の死体から、カーサの状態を推察した。

「ああなるほど、そういえばお前は妹を助けたいのだったな。だが、それはもう叶わぬぞ?」

「どういうこと?」

「お前は……なるほど、お前が新たに魔王となったマヤとかいう小娘か。いいだろう、教えてやる。こいつの、カーサの身体は、この我、初代剣聖カーリがすでに完全掌握した」

「そんな……っ!」

 その可能性もあるだろうな、とは予想していたマヤだったが、改めてそう告げられるとショックが大きかった。

 ただ、確かに見た目以外マヤの知るカーサの要素が残っていない今のカーサを見ていると、マヤは今のカーサ改め初代剣聖カーリの言葉を信じる他ない。

「お前は本当に初代剣聖だったのだな」

「ほう、ということは、ようやく我の正体に気がついたということか。いや、今更お前が気がつくとは思えん、おおかたそこの小娘が気づいたといったところか」

「そんなことはどうでもいい! カーリとやら、お前は最も強いオークも剣士に取り憑くのだろう?」

「…………そこまで気がついたか。なるほど、その小娘、見た目の割に優秀らしい」

「見た目の割にってどういうことさ!」

「マスター、今それはどうでもいいのです」

 変なところに反応したマヤに、シロちゃんが呆れながらツッコミを入れる。

 気の抜けたやり取りをしている1人と1匹だが、その間も全神経をカーリに集中させ、警戒を解くことはなかった。

「お前の言うとおりだ、ウォーレン。我は最強のオークを探している」

「ならば好都合。お前が見限った俺が、俺こそが、今この瞬間最強のオークだ!」

 ウォーレンが啖呵を切ると、その全身から殺気が溢れ出す。

 まるで質量があるかのようなその気配に、カーリは一瞬目を見開いた。

「なるほど、確かに我が切り捨てた頃とは段違いだ。いいだろう、試してやる」

 カーリは剣を抜くと、ウォーレンへと構えた。

 その剣には、べったりと血糊がついている。

「そんな剣では俺は斬れんぞ?」

「ふんっ、貴様ごときが我の心配とは、よほど自信があるらしいなっ!」

 カーリの姿が消えたかと思うと、ほぼ同時にウォーレンの姿も消える。

 次の瞬間、カーリとウォーレン、2人のちょうど中間で金属がぶつかり合う甲高い音とともに、大きな火花が散ったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...