転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第1章 ヘンダーソン王国にて

ルースの力

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「おいマヤ、この座標とかいうのはどういう意味だ?」

 マルコスへの手がかりがなくなってしまって言葉を失っているマヤに、ルースが不思議そうに尋ねてくる。

「へ? それはこの地図上の1点を表すための数字だけど、それがどうしたの?」

「なるほど。それじゃあここはいくつだ?」

 ルースは自分の足元を指差す。

「ん? 今いる場所? ここは――ねえ、今いる場所の座標わかる?」

「ちょっと待ってくださいね」

 マヤの近くにいた学者が先ほどの解析装置を確認して座標をメモした紙を渡してくれる。

 マヤはそれをルースに見せてあげた。

「ふむ。それではここはいくつだ?」

 今度は地図の一点を指さしたルースに、マヤも地図を覗き込む。

 ルースがキサラギ亜人王国内の大学がある場所を指差していることを確認したマヤは、先ほど同様学者の1人に座標をメモしてもらってルースに渡す。

「ふむふむ……なるほどな。だいたいわかった。マヤ、どこでもいいから私が行ったことのない場所を指定してくれるか?」

「いいけど……じゃあ、ここ」

 ルースが何をしたいのかよくわからないマヤだったが、とりあえずルースが行ったことのない場所を指差してみる。

「ここには何がある?」

「ここには私が冒険者をしてた時の宿があるはずだよ」

 流石に全く知らないところを指差すのはどうかと思ったマヤが指差したのは、ヘンダーソン王国でジョンを倒してから、オリガの故郷である今のキサラギ亜人王国がある場所に向かうまでの間に滞在していた宿だった。

「よし、それではそこと繋いでみよう」

「え? そんなことできるの? だって前は行ったことがあるところとしか繋げないって言ってたじゃん」

「おそらくだが可能だ。この座標とかいうやつは、私が場所を覚えるやり方と似ているからな」

「そうなの? たまたまなのかな? いやでも、ルースの転移を研究してる人たちが考えたんだしそういうこともあるのかも……」

「ともかく今は細かいことはいいだろう。本当にできるかどうかはやってみればわかるのだからな」

 ルースは言うやいなや、一瞬でドアに変身してしまう。

「ほら、マヤ、早く開けろ」

「えーっ、私? 海の底とかに繋がってたらどうするのさ」

 某国民的アニメに出てくるどこにでもいける感じのドアから水が溢れ出すシーンを思い出し、マヤは難色を示す。

「その時はその時だ。仮にもマヤは魔王だ。大抵のものはなんとかできる、そうだろう?」

「いやまあそうなんだけどさあ……」

 マヤは仕方なく、念の為強化魔法を最大出力で自分へとかけてから、ドアノブに手をかけ、ひと思いにドアを開けた。

「…………おお? これは間違いなくあの宿だね!」

 マヤはドアの向こうに見える懐しい建物を見て歓声をあげる。

「うむ、成功した様だな。おいマヤ、戻ってこーい」

「えー、せっかく久しぶりに来たんだし、ちょっとおかみさんのご飯食べたいんだけど……」

「…………お前、色々忘れるのが早すぎんか? さっきまでマルコスへの手がかりがなくなって落ち込んでいたはずだろう?」

 ルースの言葉に、マヤはしばし黙ってしまう。

「…………そういえばそうだった…………でもさっ! ルースが座標だけわかれば転移できるってことは、マルコスさんとデリックさんが会った場所にも転移できるってことだよね? じゃあ解決じゃん!」

 明らかに今気がついた様子のマヤに、ルースは呆れて頭を振る。

「それはそうだが……なんでお前は苦し紛れの言い訳のためにそんなに頭の回転が早くなるんだ……」

「いいわけじゃないですー、最初からわかってましたー」

「はあ、それはともかくだ、私がいればいつでもここには来られるのだ。今は我慢――」

 くきゅうううううう。

 ルースの言葉は、マヤに続いてドアをくぐって来ていたオリガの可愛らしいお腹の音によって遮られた。

 マヤとルースの視線を感じたオリガは、恥ずかしそうにうつむくと、小さく手を挙げる。

「その…………私も久しぶりに、おかみさんの料理、食べたいかなって……」

「ほらほらっ! オリガだってこう言ってるし! お腹が空いた状態でマルコスさんのところに行ったっていいことなんてないって」

 マヤはルースに強化魔法をかけると、ドアをくぐってもといた森の中に戻り、ウォーレンやデリック、それに学者たちを皆が宿の前に連れてきた。

「よしっ、それじゃあ皆で夜ご飯にしよう!」

 マヤはそう呼びかけると、勝手知ったる我が家といった感じで宿のドアを開けて中に入る。

 その後、久しぶりに再開したおかみさんの料理を皆で楽しく食べたのだった。

***

「いやー、朝ごはんも美味しかったねえ」

 結局そのままのおかみさんに勧められるまま1泊したマヤたちは、しっかり朝食を食べて宿を出発した。

「それにしてもおかみさん驚いてましたね」

「あー、まあそりゃあ驚くよね。昔泊まってた冒険者が国王兼魔王になって帰ってきたわけだし」

 マヤがちらりと振り返ると、宿の壁には「キサラギ亜人王国マヤ国王陛下御用達」と書かれた垂れ幕が早々にかけられていた。

「黙ってればよかったんじゃないですか?」

 垂れ幕を見て苦笑するマヤに、クロエが横に並びながら話しかけてくる。

「何言ってるのさクロ姉、王は身分を隠したりしないだろ?」

「ジョンちゃん? 時には身分を隠したり方がいいこともあるんですよ?」

「なんでだよ?」

「それはですね――」

 クロエがジョンに教えるモードに入ってしまったので、2人はひとまず無視してマヤはオリガと話を続ける。

「黙ってたかったけどさ、あのままだとかなり安く泊めてくれちゃいそうだったじゃん?」

「それはたしかにそんな感じでしたね」

 マヤが久しぶりにやってきたことを喜んだおかみさんは、特別に割安で食事と宿を提供してくれようとしていたのだ。

 冒険者だった頃のマヤなら喜んだだろうが、今やマヤも国王である。

 素直に割り引いてもらうのは流石に気が引けた。

「だから私が今は国王だって言えば、普通にお金をとってくれると思ったんだけど……」

 結論を言ってしまえばそれは逆効果で、おかみさんは国王陛下からお金を取ることなんてできないと、ただで泊まっていいと言い出したのだ。

 そしてその後様々な議論の末、食事代と宿代は払わない代わりに、あの宿に「キサラギ亜人王国マヤ国王陛下御用達」を名乗ることを認める、というところに落ち着いたのだ。

 そしてその結果があの垂れ幕である。

「まあいいじゃないか。王族御用達といえば宿屋にとっては最高位のステータスだ。食事代と宿代以上の価値はあるはずだぞ?」

 ルースの言葉にマヤはもう一度垂れ幕を振り返ってから少し不満げに口を尖らせる。

「それならいいけどさー」

 そんなこんなでそれぞれがそれぞれの相手ととりとめもない話をしているうちに、マヤたちは町外れの人目につかないところまでやってきた。

「オリガ、周りに人はいる?」

「いないはずです。剣神様みたいな例外を除けば」

 オリガは自身の探知魔法をすり抜けるデリックに目をやる。

「私も気配は感じない。転移しても問題ないだろう」

 オリガに目を向けられたデリックは、オリガの探知結果を肯定する。

「よしっ、それじゃ行ってみようか」

 マヤがルースに強化魔法をかけると、ルースがドアに変身する。

 マヤはそのドアノブに手をかけると、ゆっくりとドアを開いた。

「あれ、意外と明るい?」

 これぞ魔王城、といった感じの薄暗ーい空間と漆黒の城を想像していたマヤは、思いの外普通な緑あふれる庭園とその向こうにそびえる白亜の城が目に入り、驚いてしまう。

「ああ、間違いない、ここが以前マルコス殿と会った城だ」

 こうしてマヤたちはマルコスの城へとたどり着いたのだった。
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