転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第3章 過去の世界へ

魔物使いマヤ復活

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「まさかマヤにこんな力があったとは」

 シャルルはゆっくりとマヤの腰に回していた手を解くと、乗っていた魔物から降りる。

 マヤが魔物を手に入れた2日後、マヤたちは徒歩とは比べ物にならない速度で移動し、あっという間に目的の街の前にたどり着いていた。

 それもこれも、マヤが強化した魔物に乗って移動してきたからだ。

「えへへ、すごいでしょ? 魔物さえいれば私だってちょっとは役に立つんだから」

「ちょっとなのか、これは……?」

 シャルルは冒険者として必要な最低限の魔法しか使えないほぼ純粋な剣士なためよくわからないが、10匹近くの魔物を強化して操り続けるというのはちょっと役に立つとかそんなレベルではない気がする。

「ちょっとだよ。魔物使いなら誰でもこれくらいできるって」

「そういうものか」

「うん、そういうものだよ。さ、それじゃあさっそく聞き込みに行きたいところだけど……この子たちどうしよう……」

 マヤはマヤの周りで賢くおすわりしている狼の魔物たち見回す。

 未来の世界ならマヤの魔物たちはオリガの運籠キャリーにしまってもらっているのだが、残念ながらマヤは運籠キャリーの魔法は使えない。

「そうだな……、あそこで預かってもらえるんじゃないか?」

 シャルルが指差したのはちょっとした屋根の下に数匹の馬が繋がれている場所だった。

 おそらく旅の人たちが移動に使う馬を預けているのだろう。

「確かに預かってくれるかも。ちょっと行ってくるよ」

 マヤはその小さい背中に大きな狼の魔物をぞろぞろと引き連れて馬の世話をしている男性のところに歩いていく。

 突然現れた狼の群れに世話をしていた男性が腰を抜かしたり、馬がちょっとしたパニックになったりして、少し騒ぎになってしまったが、しばらくしてマヤは1人で帰って来た。

「無事預けられたよ」

 一連の騒ぎを見ていたシャルルからすればあれがなのか疑問だった。

 しかし、マヤが1人で帰ってきたということは、ひとまず預かってもらえたのは事実らしい。

「良かったな。それではマヤの父親を探すか」

「うん!」

 マヤとシャルルは頷きあうと街に入っていく。

 門をくぐると、そこには商人の歓声が飛び交っていた。

「すごい活気だね」

「この街は街道が交差しているからな。昔から交易が盛んなんだ」

「なるほどねー。あ、シャルルさん、あれ美味しそうじゃない?」

 マヤは屋台で売られている肉の塊を指差す。

 どうやらケバブのように表面を焼いて、焼いた部分を切り落として売っているらしい。

「さっき昼食を食べたばかりだろう? それより今はマヤの父親の手がかりを探すぞ」

「えー、いいじゃんちょっとくらいー」

「……そんなに食ってばかりだと太るぞ?」

「あー、ひどーい! 乙女に向かって太るとか言っちゃいけないんだからね! そんなんじゃ女の子に愛想つかされちゃうよ!」

「あーはいはい、わかったから行くぞ」

「冷たくない!?」

 マヤも本気ではなかったとはいえ、ありにも梨のつぶて過ぎて驚いてしまう。

 マヤを無視してどんどんと進んでいくシャルルからはぐれてしまわないように、マヤも人混みを縫うように進んでいく。

「マヤ、お前の父親かもしれない人物がどこにいるかはわかっているのか?」

「ううん、全然。とりあえずこの街にはいるみたいだけど」

「なるほど……。あまりこの街は歩き回りたくなかったんだがな……」

「ん? なんか言った?」

「いや、何でもない」

「ああ、ちょっと! はぐれちゃうって!」

 どんどんと進んでいくシャルルに、マヤはなんとか食らいついていく。

 それにしてもあれだけ大きな身体をしているのに、これだけの人混みをスルスルと進んでいくシャルルの身のこなしは見事なものだ。

「待ってってばあ……うぷっ」

 必死でシャルルを追いかけていたマヤは、シャルルが立ち止まったことに気が付かずそのままその背中に顔から突っ込んでしまう。

「もう、シャルルさん、急に止まらないでよ~」

「……………………」

「シャルルさん?」

 マヤの文句にも無言のシャルルに、マヤは訝しんでシャルルの顔を覗き込む。

 マヤが見上げたシャルルは、シャルルの前方のある一点を見つめていた。

「何見てるの? ん? あれって!?」

 マヤがシャルルの視線の先を見ると、そこにはマヤが探し求めていた存在がいた。

 そう、シャルルは角の生えた数人の亜人、つまりオーガたちを見て固まっていたのだ。

「やった! これで帰れる! ……あっ、これはちがくてね? えーっと……って、シャルルさん?」

 マヤは思わず父親を探しているという設定を忘れて喜んでしまったことを取り繕おうとするが、シャルルは全く気がついた様子がなかった。

 相変わらず前方のオーガを見て固まっているシャルルに、マヤはもう一度オーガたちを見てみる。

(あれって鎖だよね? それにあの首とか手首とか足首とかについてるのって……)

 最初に見た時はオーガが見つかった喜びで気が付かなかったが、よく見るとシャルルが見ているオーガたちは、鎖で繋がれていた。

 見るからに重そうな鋼鉄製の首輪に繋がれた鎖の先を、商人らしき男が握っている。

 首と同じ鋼鉄製の腕輪が両手をまとめてはめられており、首輪と鎖で繋がっているため、オーガたちはほぼ身動きできない状態だ。

 よっぽどオーガのことを警戒しているのか、ここまで厳重に拘束しておきながら、足首にも首や手と同じ鋼鉄製の足輪がつけられており、その上大きな鉄球を引きずらされていた。

「あそこまでしなくても……」

 そもそも奴隷というものに反対のマヤだが、そうでなくでもあれは流石にやりすぎだと思ったただろう。

 そこでマヤは、シャルルがぷるぷると震えていることに気がついた。

 次の瞬間、シャルルが勢いよく飛び出した。

「うわっ」

 マヤは飛び出したシャルルに吹き飛ばされて、そのまま尻もちをついてしまう。

「な、何だおま……ぐべらっ!」

「え? ちょっとちょっとちょっと! 何やってんのシャルルさん!」

 マヤが前方を確認すると、ちょうどシャルルが商人を殴り飛ばしたところだった。

 そのまま商人に馬乗りになったシャルルは、商人に拳を振り下ろそうとする。

 マヤはとっさに自分へ強化魔法をかけると、周囲を確認する。

(まずい!)

 なぜだかわからないが頭に血が上ってしまい周りが見えていないシャルルの左右から、商人の護衛らしき男2人がシャルルに斬りかかっていた。

 マヤの力ならそれを防ぐことは簡単だ。

 しかし……。

(そんなことしたら、私が本当は強いってバレちゃう……いや、そんなこと言ってる場合じゃない!)

 マヤは即座に決断すると、次の瞬間にはシャルルのすぐ後ろに移動していた。

「はあっ!」

 マヤはシャルルに襲いかかっていた護衛の2人からそれぞれ一撃で意識奪い取ると、商人を殴りつけようとしていたシャルルの手首を横から掴む。

「落ち着いて、シャルルさん」

 手首を掴んだマヤを睨みあげるシャルルに、マヤは話が通じる状態ではないことを察した。

「仕方ない、ごめんね」

 マヤはシャルルのみぞおちに剣の柄を突きこんで意識を刈り取ると、そのままシャルルを背中に担いだ。

「そうだ、そこの商人さん、今見たことは忘れてね? 他の見物人のみんなも、忘れてもらえると助かるかな」

 笑顔でお願いするマヤだが、その実、身体から放出される魔力の圧のせいで、商人にも、見物人たちにも、従う以外の選択肢はないのだった。
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