転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第4章 エリーの過去

エリーの過去5

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「ここで待ってればそのエリスって人が見れるのね?」

「そのはずです」

 ハイメからエリーの母かもしれない人物の情報を聞いたエリーたちは、早速その日のうちに、ハイメの案内で件のエリスとやらの姿を外から見ることができるらしい建物の屋根の上に来ていた。

「それにしてもよくこんな場所を知ってたね。完全に除きポイントじゃない?」

「あはは、まあそうですね。実は先輩のエルフたちがエリス様のことが大好きで、なんとかその姿を見れる場所はないものか、って街中を探し回って見つけた場所らしいです」

「なるほどね。てっきりハイメ君がそのエリス様って人を覗き見したくて見つけたのかと思っちゃった」

 いたずらっぽく笑ってハイメをからかうクローナに、ハイメは顔を真っ赤にして慌てる。

「そ、そんなわけないじゃないですかっ! それに僕は年上より同い年くらいの女の子が――んぐっ!?」

「うるさいわよ。見つかったらどうするの。クローナお姉さんもハイメをからかわないで」

「わー、怒られちゃった」

 全く反省した様子がないクローナに、エリーはジト目を向ける。

「ごめんごめん。でも、静寂サイレントを使ってるから声じゃ見つからないって」

「それはそうかもしれないけど……」

「ぷはっ……じゃあどうして僕の口を塞いだんです?」

 エリーの手から口を開放されたハイメは、不思議そうに尋ねる。

「それはね――」

 面白そうに意地悪く笑ったクローナがハイメに耳打ちしようとしたことに、嫌な予感がしたエリーは無理矢理に話題を変えた。

「2人とも、そろそろみたいよ」

「ちぇー、いいところだったのに」

 クローナはわざとらしく口をとがらせて拗ねてみせたが、すぐにエリスが見えるらしい場所に視線を移した。

「それは一体どういう……」

「ハイメは気にしなくていいのよ」

 エリーはクローナが何を言おうとしたのか気になる様子のハイメの腕を引っ張ると、自分の隣に引き寄せる。

 絶世の美少女と言ってもいいエリーと密着する形となりどうにも落ち着かないハイメだったが、すぐ隣のエリーが真剣にエリスが見えるポイントを見つめているのを見て、ハイメもなんとか思考を切り替える。

「…………っ!? まさかっ……!?」

 エリーたちが見つめる先にエリスが現れた瞬間、エリーは思わず呟いて、それ以上言葉が続かなかった。

「エリーさん?」

 明らかに普通ではないエリーの反応にハイメが戸惑っていると、反対側からびっくりするくらい冷たい声が聞こえてくる。

「エメリスさん……それに、あの男は、間違いない……っ」

「ク、クローナさん!?」

 先ほどまでの優しく明るく、時々お茶目なお姉さんといった様子から一変し、クローナの声には負の感情が溢れていた。

 後悔、憎悪、憤怒……そんな感情が入り混じり濃縮されたようなクローナの声に、ハイメの背筋に冷たい汗が流れる。

 エリスを見るなり様子のおかしくなった2人にハイメどうすればいいのか分からないでいると、その隣でエリーがスッと立ち上がった。

「あいつを殺して、取り戻してくるわ」

 クローナに負けず劣らずの冷たい声音で呟いたエリーは、そのまま屋根の縁から身を躍らせようとする。

 それに気がついたハイメは咄嗟にエリーの腰に抱きついてエリーを制止した。

「離して!」

 突然男の子に抱きつかれたことに恥ずかしがる余裕もなく、エリーはハイメを見下ろして怒鳴りつける。

「駄目だって!」

 しかし、ハイメも引き下がらずにより一層強くエリー腰を抱きしめた。

「なんでよ! 今あいつの近くには誰もいないじゃない!」

「そう見えるだけなんだよ! エリーさんがどれくらい強いかは知らないけど、まず間違いなく殺されちゃうよ!」

「……どういうことよ?」

 ハイメの必死さに、本当に今出て行くと危ないのではないか、と不安になり少し冷静さを取り戻したエリーはハイメに尋ねる。

「僕らの主にはエルフの精鋭が護衛として付いてるんだ。彼らは命がけで僕らの主を守ってる」

「エルフがあのエルフの敵でしかない男を守ってるっていうの?」

「そうだよ。もちろん、彼らだって好きでそんなことをしてるわけじゃない。彼らは家族を人質に取られてるんだ」

「家族を人質に……外道ね」

 クローナは冷たく吐き捨てると、一層軽蔑を込めた瞳でハイメの主を見る。

「その上、彼らは身体に入れ墨された魔法陣の効果で、僕らの主に攻撃するとそれが全部自分の家族に行ってしまうようにされてるんだ。だから、主を殺して自由になることもできない」

「酷いわね……」

「そんなエルフの護衛が常に5人は僕らの主を守ってる。だから、正攻法で僕らの主を襲うのは自殺行為なんだよ」

「……わかったわ。今は見るだけにする」

「わかってくれてよかったよ」

 エリーが諦めてくれたことに、ハイメはほっと胸をなでおろす。

 相変わらずエリーの腰に、抱きついたまま。

「………………ねえハイメ?」

「何かな?」

「………………いつまで抱きついているつもりかしら?」

 落ち着いた途端恥ずかしくなってきたのか、エリーはぷるぷると震えながらハイメを見下ろす。

「……っ!? ご、ごめん!」

 ハイメは慌ててエリーから離れると、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

 そんな甘酸っぱいやり取りをしている2人を見て、クローナはやれやれとため息をついた。

 クローナもまた、今は引き下がるしかないことを理解して冷静さを取り戻していた。

「はいはい、それじゃいったんに宿に戻るよ、2人とも」

 クローナは踵を返すと、魔法で近くの路地へと軽やかに着地する。

「…………私たちも行きましょう」

 エリーはハイメに手を差し出す。

 奴隷であるハイメは魔封じの拘束具のせいで魔法を使えないため、屋根の上から下りるにはクローナかエリーに一緒に下りてもらうしかないのだ。

「…………うん、ありがとう」

 まだどこか気まずそうな2人は、手をつなぐと屋根から路地へと消えていったのだった。

***

「でも、四六時中護衛をつけてるのに、どうやってお母さんを助ければいいのよ」

「お母さん?」

 宿に戻りソファーに座るなりぼやいたエリーに、ハイメが反応した。

「そういえばハイメには言ってなかったわね」

 エリーはクローナに目配せする。

「もう教えてもいいんじゃないかな。さっきので私たちの目的もわかっちゃっただろうし、あそこまで必死にエリーちゃんを止めたハイメ君のことは信じていいと思うしね」

 クローナの言葉にエリーは1つ頷くと、エリー達の過去と、エリスとエリー達の関係について話し始めたのだった。
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