転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第4章 エリーの過去

エリーの過去7

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「ここで15人目ね」

 エリーは地図にバツ印を書き込むと、地図にすでに書き込まれていた印の数を数えて呟いた。

「そうですね。これで護衛のエルフ全員の家族の場所はわかったはずです」

「ここもそうだけど、家族には見張りはついていないのね」

「そうみたいですね」

 ここ2週間でエリーが確認したすべての家族が、これと言って見張られることもなく生活していた。

 何らかの手段で逃げ出さないようにしているはずなので、それを解除する必要はあるだろうが、ひとまず見張りがいないことは好都合だった。

「家族も何かしら魔法陣を入れ墨されてるのか、単純に護衛のエルフが人質の役割をしてて逃げられないだけなのか……まあそのあたりはクローナお姉さんからも情報待ちね」

 エリーはそう言うと、そのまま立ち上がって踵を返す。
 
「帰るわよハイメ」

 エリーとハイメの2人が宿に戻ると、身体から薄っすらと湯気が出ているクローナがベッドの上で足を伸ばして座っていた。

 やや上気した頬と、スカートから覗くきれいな脚にハイメは思わずクローナから目を背ける。

「おかえりー」

「ただいま。クローナお姉さん早かったのね。どうだった?」

 エリーの言葉に、クローナはニカッと笑った。

「バッチリ調べてきたよ」

「流石ね。こっちも最後の護衛の家族の家を見つけたわ。やっぱり見張りはいなかったんだけど、その理由がわかったってことよね?」

「その通り。って言ってもそんなに難しいことじゃなかったけどね」

「やっぱり家族も魔法陣が入れ墨されてたのかしら?」

「その通り。まあ早い話が、護衛の家族はダニーの許可なくダニーから一定以上離れると死んじゃうように組まれた魔法陣を入れ墨されてるみたい」

「それでダニーから逃げられないのね」

「たしかにそれなら、家族だけでも逃がそうっていうのも無理ですもんね」

「そういうこと。でもその代わり、護衛がちゃんと護衛として仕事をこなしている限りは、護衛の家族はたちは他の奴隷のエルフよりも待遇がいいみたいね。それこそ暮らしぶりだけなら一般市民と変わらないはずよ」

「たしかにそんな感じだったわ」

「で、その家族が入れられてるっていう魔法陣の入墨がこれね」

 クローナは先日ハイメが書いたものよりは小さいながらも、十分に複雑な魔法陣が書かれた紙をエリーたちに広げて見せた。

「クローナお姉さん、これどうしたの?」

「その奴隷の家族の人に頼んで写させてもらったのよ。魔法使いの冒険者ってことでお風呂に入ってたから、今後の勉強のために~、とかなんとか適当なことを言ってね」

「なるほど、流石クローナお姉さん。でもありがとう、これがあれば家族の人も開放できるわ」

 エリーは早速その魔法陣に目を落とすと、それを無効化する方法を思案し始めたのだった。

***

「眠れない?」

「クローナお姉さん……」

 諸々の準備を終え、ダニー襲撃を翌日に控えた夜。

 クローナは窓から空を見上げるエリーに静かに話しかけた。

「できることは全部やったつもりなんだけど、なんだか不安なのよね」

 エリーの言葉の通り、エリーたちはこの1ヶ月、できるかぎりのことはやってきたつもりだ。

 まず護衛のエルフたちと仲良くなり、エリーたちの目的を伝えた。

 次にその護衛たちの入れ墨されている魔法陣を15人全員分全てを変更し、彼らをエリーたちの味方につけた。

 最後にその護衛たちの家族に入れ墨されていた魔法陣も変更し、ダニーから離れれても死んでしまったりしないようにした。

 そう、エリーは思いつく限り、できることは全部やっていた。

「わかるよ、その気持ち。だって、明日の襲撃が上手くいけば、私たちはやっと、たった一つだけ取り戻せるんだもん」

「そう、だよね。明日うまくいけば、お母さんと再会できるんだよね」

「そうだよ。私たちの目標の1つが達成されるんだよ」

 クローナはまだ不安そうにしているエリーを、後ろからそっと抱きしめた。

「大丈夫だよ、きっと上手くいく」

 クローナは後ろから回した手をエリーの頭へと持っていくと、その金の髪をゆっくりと撫でていく。

「クローナお姉さん……」

「エリーちゃんがあんなに頑張ったんだから、絶対上手くいく」

「……うん……うん、そうだよね、上手くいくよね。ううん、上手くいかせてみせるわ!」

「そうそう、その調子その調子。その調子で好きな男の子にかっこいいところ見せちゃえ」

「うん、私頑張る……って、え? 好きな男の子!?」

「もう、とぼけちゃって~、好きなんでしょ、ハイメ君のこと」

「な、ななななっ!? なんでそれを……じゃなくて! なんのことかしら!?」

「いやいや、隠せてると思ってたの? 気づいてないのはきっとハイメ君だけ、って感じのあからさまさだったじゃない」

「…………そうだったかしら?」

 そんなはずはない、と受け入れられない様子で尋ねるエリーに、クローナはうんうんとうなずいた。

「相当わかりやすかったよ?」

「そうなのね……全く自覚がなかったわ……」

「まあ、恋は盲目って言うしね。でも、お陰でエリーちゃんがいつもの調子に戻ったみたいでよかったよ。さっ、明日のためにもう寝よう。特別に今日は一緒に寝てあげよっか?」

 普段なら恥ずかしがって断るエリーだが、今日だけは久しぶりに優しいお姉さんと一緒に眠るのも悪くない気がして、クローナが持ち上げた布団の中に潜り込む。

「おやすみ、エリーちゃん」

「おやすみなさいクローナお姉さん」

 2人はそれから程なくして寝息を立て始める。

 そんな2人が眠るベッドの隣のベッドでは、ハイメが2人のベッドとは反対方向を向いて眠っていた。

 しかし、眠っているようにエリーとクローナからはみえていたハイメは、実は起きていた。

 エリー同様、明日の襲撃のことで緊張して寝付けなかったのだ。

 だが、今のハイメの頭の中はそれどころではなかった。

(え? え? ええええええ!? あのエリーさんが僕のことを!? す、すすすすすす、好き!? ええ!? えええええ!?)

 ハイメとて男子なので、エリーほどの美少女が近くにいれば「こんな可愛い子と付き合えたらどんなにいいだろうか」と考えたことがないわけではない。

 ただ、自分とは到底釣り合わないと思っていたし、何よりも今のエリーは母親を助けるという目的のために全力なのだ。

 それを自分の恋愛感情で邪魔するなどということは、ハイメにはなんだか許されない気がしていた。

 でもだからこそ、先ほどの2人の会話は衝撃的だった。

(と、とと、とにかくっ! 今は落ち着け、落ち着くんだ僕。まずは明日の襲撃を成功させてから。うん、細かいことはそれから考えよう!)

 ハイメは到底自然には切り替わってくれないであろう頭の中を無理やり切り替えると、どうにか眠りにつこうとする。

 結局、ハイメがなんとか眠れたのは、それから2時間ほどが経った頃になってしまったのだった。
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