転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第5章 サミュエルを探して

マヤが決めたこと

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「まず教えてほしいんだけど、エリーのお母さんのエメリスさんっていうのは、今もまだ冬眠状態なの?」

 マヤはいくつか気になった事のうち、一番気になっていたことから確認することにした。

「ええ、まだ冬眠状態よ」

「なるほど……それはやっぱりどういう方法でエリスっていう別人格が作られてたかわからないから、ってことだよね?」

「そうね。これは結果論だけど、ダニーは殺すべきじゃなかったわ。あいつが生きていれば、色々分かったこともあったはずだもの」

「それはたしかにそうかもね。でも仕方ないと思うよ? まさかお母さんがそんなことになってるなんて思わないじゃん」

「そうなんだけどね」

「それにしても、エリーも奴隷商人に故郷を追われていたとは……」

「あら、シャルルさんもそうなの?」

「昔私はオーガと一緒に暮らしていてな。その村が奴隷商人に襲われたのだ」

「それは災難ね……」

「いや、エリーほどではない。私は生まれた頃から両親を知らなかったしな」

「それでも、故郷を追われたことには変わりないのでしょう?」

「まあそうだな」

「それなら十分辛かったはずよ。私がそうだったもの」

「ありがとう。わかってくれる人ができただけで私は幸せだ」

 エリーとシャルルは固い握手を交わす。

「それで、エメリスさんの中からエリスを消す方法は見つかったの?」

「いいえまだよ。いつまでの冬眠状態にしておくわけにはいかないし、早く見つけたいところなんだけどね……手がかりはあるのよ?」

「手がかりって?」

「ダニーが魔力を溜め込んでた水晶玉を回収していった奴がいたって話はしたわよね?」

「サミュエルとかいう謎の男だよね。エリーの動きを完全に止めてきたっていう。実はそれも聞きたかったんだよね」

「そうそう、そのサミュエルよ。私はそいつがダニーに入れ知恵してお母さんの中にエリスの人格を作り出したんだと思ってる」

「エリー、聞いた限りだとサミュエルとエリーは一度戦っただけなのだろう? どうしてそんなことがわかるのだ?」

「簡単なことよシャルルさん。ダニーは魔法の知識がほとんどなかったみたいなの」

「え? だって奴隷たちを道連れにするような難しい魔法陣を入れ墨したりしてたじゃん? 魔法の知識が無かったの?」

「実はそうみたいなの。ダニーの残していったものを色々確認したんだけど、ダニーは護衛に入れ墨されてた魔法陣も、自分に入れ墨していた魔法陣も、原理は理解していなかったみたい。どうもサミュエルに言われるまま入れ墨して使ってたみたいね」

「じゃあもしかして、エリーの故郷を襲った時も……」

「可能性はあるわ。というより、私はその時点でサミュエルがダニーを唆して私の故郷を襲ったんだと思ってる」

「魔法の知識無しでエルフの里を襲うなんて自殺行為だもんね」

「ええ。だからサミュエルがエルフの魔法への対抗策をダニーに吹き込んで、その結果ダニーが私の故郷を襲った、っていうのが私の予想よ」

「じゃあ本当の仇はそのサミュエルってやつなんだね」

「そうね。でも、サミュエルも手先に過ぎないみたいなの」

「どういうこと?」

「サミュエルのバックには魔王がいるみたいなのよ」

「魔王……」

「ええ、魔王よ。魔王オズウェル、それがサミュエルの主の名前よ」

「魔王オズウェル、か」

 マヤは未来の世界では聞いたことが無かった魔王の名前に、思わずそう呟いた。

「魔王が相手か……」

 ブルッと身震いしたシャルルは、その次のマヤの言葉に眼を見張ることになった。

「よし、それじゃあそのオズウェルを倒しに行こうか」

「「はあぁっ!?」」

「そんなに驚くこと?」

「いやいやいや、そりゃ驚くわよ! 魔王よ? それを倒す? そんなことできるわけ……」

「でも、エリーが魔法の練習を続けていたのって、オズウェルを倒すためなんじゃないの?」

「それはそうだけど……」

「おいマヤ、確かにマヤは強いが、魔王に勝てるとは思えんぞ?」

「うーん、そうかなあ? だって魔王オズウェルって、原初の魔王じゃないよね?」

「たしかにそうよ。オズウェルが魔王と呼ばれるようになったのは100年ほど前だからね」

「じゃあなんとかなるんじゃない?」

「なんとかなるんじゃない、ってお前なあ……」

 あっけらかんととんでもないことを言うマヤに、シャルルは呆れて天井見上げた。

「エリーもなんとか言ってやってくれ」

「ふにゅう……」

「エリー!?」

「わわっ、のぼせてる!」

 エリーの長い長い昔ばなしのせいですっかり忘れていたが、3人は今お風呂に入っていたのだ。

 白磁の肌をすっかり真っ赤にして目を回すエリーをシャルルがお姫様抱っこして、3人は脱衣所へと急いだのだった。

***

「うちの主がご迷惑をおかけしました」

 脱衣所でマヤとシャルルによって服を着せられたエリーは、今は穏やかな寝息を立てながら迎えに来た奴隷の少年におんぶされていた。

「いやいや、私たちも長話させすぎちゃったからさ。それより、もしかして君がハイメ君なのかな?」

「どうしてそれを……もしかしてエリー様から聞いたのですか?」

「聞いたよ。エリーが大好きな男の子だって」

 いたずらっぽく笑って上目遣いで覗き込むマヤに、ハイメは顔を真っ赤にする。
  
「や、やめてください! 私とエリー様はそんなのじゃないですよ」

「えー、またまたあ、わざわざ迎えに来るくらいだから、ラブラブなんじゃないのぉ?」

 マヤに言葉に、ハイメに背負われているエリーの耳がピクリと動く。

 その僅かな動きをマヤは見逃さなかった。

「そ、そんなこと……」

「まあまあ、今なら私とシャルルさんしか聞いてないしさ。ちょっとでいいから教えてよ、ね?」

 マヤはハイメと肩に腕を回すと、スッと顔を近づけた。

 白い髪に大きな蒼緑の瞳の美少女であるマヤに近寄られて、ハイメはますます顔を赤くする。

 そんなハイメの様子に、マヤはハイメの後ろから殺気を感じた気がしたが、無視することにする。

「その……エリー様には内緒ですよ?」

「もちろんだよ」

 無駄にいい笑顔で親指を立てるマヤに、ハイメは少しもじもじしながら話し始める。

「その、最近はエリーが本当に可愛くて……この前もお忍びでデートに行ったんですけど……」

「うんうん、それでそれで?」

 そこからしばらく、マヤとシャルルはハイメの惚気を聞き続けたのだった。

***

「エリー様?」

 マヤたちに促されるまま、エリーの可愛さを話し続け、マヤたちの前を後にしたハイメは、寝ているはずのエリーに後ろから抱きしめられる。

「2人きりの時はエリーって呼んでって言ってるでしょ?」

「ごめんね、エリー。でも、いつから起きてたの?」

 ハイメの問いかけに、エリーは口ごもる。

「えーっと……」

「さては、僕がマヤさんたちに色々話してる時から起きてたね?」

「はあ……ハイメには隠し事はできないわね」

「ははは、エリーは隠し事が下手だからね」

「でも、嬉しかったわ。ハイメが私と出会えたことを「自分の人生で1番の幸運」だって思ってくれていたなんて」

「ちょ、ちょっと、改めて言われると恥ずかしいなあ……忘れてくれない?」

「嫌よ、だって本当に嬉しかったんだもの。絶対忘れないわ」

「もう……参ったなあ……」

 全然困った様子ではないハイメの首をギュッと抱きしめたまま、エリーはハイメにおんぶされたまま屋敷へと帰っていったのだった。
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