転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第7章 オーガの姫

帰還

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「戻って来た、んだよね?」

 マヤがゆっくりと目を開けると、目の前にはマルコスとデリックがのんきにお茶を飲んでいた。

「戻ったか。予定通りだな」

「ただいま、マルコスさん、デリックさん」

「おかえり、マヤ。随分長旅だったな」

「まあね。だってマルコスさんがなんのヒントもくれないし、突然人里離れた森の上空の転送するしで、散々だったんだよ。マルコスさん、あれで私が死んだらどうするつもりだったの?」

「その時はその時だ。そもそもあの程度で本当に死ぬようなら魔王失格だからな」

「うわひっどーい。魔王はブラック企業だったんだね」

「ブラック企業? なんだそれは」

「んんや何でも。それで、シャルルさん達はどこにいるの?」

「あっちだ。お前と違って私の魔力で保護してやらなければならなかったからな」

 マルコスが指差した先には、確かにシャルルを始めとしたオーガたちの姿があった。

「なるほどねえ、マルコスさんの魔力で保護を……って、そんなことできるの?」

「当然だ。そうでなければタイムトラベルに自力で耐えられる魔王以外、誰も他の時間に送れないだろう?」

「いやそれはそうかもしれないけど……え? じゃあなに? 人造人間送り込み作戦は実現可能だったってこと?」

 マヤが言っている「人造人間送り込み作戦」というのは、マヤが過去の世界に送られる際に、マヤがマルコスに提案した方法だ。

 過去の世界と関わりのない人物しか過去に送ることができない、と言うことだったので、人造人間を生み出し、その人造人間たちを過去に送ればいいのではないか、と提案したのだ。

 その際マルコスは、そもそもそんな非道なことはしないといった上で、できたとしてもマルコスの魔力に耐えられなければ過去に送ることができないので無理だ、と説明したのだ。

「人造人間を作って過去に送ればいいとか言うやつか?」

「そうそれ」

「それは不可能だ。今回オーガたちを私の魔力で保護できたのは、お前が正しい時代に戻ろうとする世界の力を利用したタイムトラベルだったからだ。対して過去に行くのは世界の力に逆らう動きだ。今回にようにはいかん」

「よくわからないけどそうなんだ」

「それでマヤ、お前の要求は、そこにいる男を元の姿に戻すことだったな」

 マヤはマルコスに指さされているジョン王子を見て、思わずしばらく考えてしまう。

 過去の世界であまりにも色々なことがありすぎたせいで、なんのためにマルコスのところに来ていたのか忘れかけていたのだ。

「そうだそうだ、そうだったね。私はマルコスさんからの依頼を完璧にこなしたんだから、マルコスさんも私の依頼を聞いてくれるってことでいいんだよね?」

「仕方あるまい……」

 マルコスは渋々といった様子でジョン王子の所の歩いて行くと、小さくなったジョン王子と目が合う位置にしゃがみ込む。

 そのままマルコスがジョン王子の額に人差し指を当て、魔法を発動すると……。

「おおっ! すごいすごい! さっすが原初の魔王」

「大したことはない。そもそも時間は私の得意分野だからな」

「そうだ、得意分野で思い出した。ジョン王子を子どもにしたのはなんでなのさ」

「それはどういうことだ? なぜ私に聞く?」

「え? だってこんなことができるのはマルコスさんだけって聞いたよ?」

「ふむ……ステラのやつに聞いたのか?」

「うん、そうだけど」

「なるほど、ステラは勘違いをしているらしいな」

「どういうこと?」

「今回のこの男の状態を作り出すことは、私以外にもできると言うことだ」

「それは一体……」

 マヤがマルコスに尋ねようとした時、思い出したように時間が動き始めた。

 当然といえば当然なのだが、突然抱っこしていたはずのジョンが大きくなったことで、クロエは悲鳴を上げる。

「わわわっ!? ジョンちゃん!? 突然元の姿に戻って……っ!?」

「んんんっ? どうしたのクロ姉? 元の姿っていうのは――って、ここどこ!? それに何この小さい服!?」

「マヤさん? なんですかあの角の生えた方々は? なんだか突然現れたように見えましたけど……」

 クロエやジョン、オリガ以外にも、次々と話しかけてくる面々に対応しているうちにマヤは今回のジョン王子の子供化の黒幕かもしれない人物についてのことなど、頭から吹っ飛んでしまったのだった。

***

「ルーシェ、久しぶりだな」

「あらマルコス、あなたがこの城に来るなんて、珍しいこともあったものね」

 ルーシェは突然やってきたマルコスを嫌な顔1つせずに受け入れると、侍女にお茶の用意を頼んでマルコスをテーブルへ案内する。

「突然来てしまって悪かった」

「いいのよ、気にしてないわ。でも、なんでわざわざあなた本人がきたのか、は気になる所だけれど」

「ああ、実はお前から頼まれごとをしてな」

「私から? 一体どういうこと?」

 マルコスに頼み事などした記憶がないルーシェは、マルコスの言葉の意味がさっぱり分からなかった。

「まあ今はわからないだろう。説明するより、さっさと済ませてしまったほうが早いな「今がその時だ、観測者」」

 マルコスが言葉に魔力を込めてそう言うと、瞬間ルーシェは目を大きく見開いた。

「これは……っ!?」

 しばし驚いた表情で固まっていたルーシェは、ゆっくりと目を閉じると、長くゆっくりと息を吐き出した。

「なるほど、確かに私からのお願いだったわ」

「そういうことだ。記憶は戻ったか?」

「ええ、バッチリと。それにしても、私はマヤさんとそんなに昔に出会っていたとは……」

「マヤからすれば数日前のことなのだろうがな」

「あなたの今回の目的は、オーガを、それもオーガの王族を手に入れることだったみたいですが、やはりあの伝説があるからですか?」

「ああ、その通りだ」

「今更どうしてオーガの王族なのですか? 確かに彼らは、私たち原初の魔王を倒せる力を持つかもしれませんが、それだって白銀の聖剣が必要なはずですよ?」

「ああ。しかし白銀の聖剣が手に入るとしたら?」

「それは……まさかマヤさんの聖魔石の剣のことですか?」

「白銀の聖剣、聖魔石の剣だとすれば、原初の魔王を倒せる力を手にしてもおかしくないと思わないか?」

「確かに理にかなった推測です。しかし、かつてのあなたはその力を恐れてオーガを滅ぼしたのですよね? どうして今更それを取り戻したのです?」

「とぼけるんじゃないルーシェ。お前もわかっているはずだ。決まっているだろう、セシリオを殺すためだ」

 マルコスは感情を殺した表情と声音でそう言ったのだった。
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