転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
271 / 324
第6巻第4章 セシリオの狙い

龍帝ドラグ

しおりを挟む
「よく来たな魔王マヤ」

 龍帝に謁見したマヤは、荘厳な空間に似つかわしくない軽さで片手を上げる。

「こんにちは龍帝さん」

「…………助けてもらった手前あまり強く言えんが、もうちょっと敬意を払おうとは思わんのか?」

「うーん、確かに龍帝さんからはルーシェとかと同じレベルの迫力を感じるけど、その見た目じゃねえ?」

 マヤは龍帝の、どう見ても幼女にしか見えない姿を指さしてふっと鼻で笑う。

「なっ!? マヤ貴様! 私のことを鼻で笑ったな! 許さんぞ!」

「許さないとどうするの~? 命の恩人を殺すのかな? 龍帝さんって、そんな不義理なことをする人だったのかな?」

「うぐっ……」

 涙目でぷるぷる震える龍帝を見て、マヤはニヤニヤする。

 青という人間や亜人には滅多にいない色の髪をお尻にかかるまで伸ばし、額に小さな角を生やしている点以外はただの幼女でしかない龍帝が、涙目で見上げる姿に、マヤは思わず嗜虐心を刺激されていた。

「ねえ龍帝さん、ううん、龍帝ちゃん、どうなのかな? ねえ、私のこと――あでっ!」

 龍帝の顎を持ち上げて追い打ちをかけ始めたマヤの頭を、後ろからオリガが小突いた。

「もう、マヤさん、そういうの良くないですよ。すみません龍帝様、うちのマヤさんが……」

「ううっ、オリガお姉ちゃん……」

「ええっ!? お姉ちゃん、ですか?」

 助けてくれたオリガの足にしがみつく龍帝に、オリガは戸惑う。

 しかしよく見るとオリガの口角は少し上がっていた。

 小さい子に頼られて嬉しいのかもしれない。

「はあ、ドラグちゃん、お客様の足にすがりついたら迷惑でしょ?」

「ミルズ~!」

 呆れたため息とともに謁見の間にやってきたミルズを見るやいなや、龍帝はミルズの後ろに隠れてしまう。

「えーっと、ミルズさん、これは一体?」

「すみません。龍帝様は魔力を使いすぎると子供になってしまうんですよ」

「じゃあ私があった時点で魔力を使いすぎてたってこと?」

 龍帝はマヤがおそらくエスメラルダの仕業と思われる立方体から救出した時点で今の幼い姿だった。

「そうです。あの立方体を壊そうとしたんでしょうね」

「なるほど。でも、いくらなんでも子供になりすぎじゃない? 中身まで子供になってる気がするんだけど……」

「いえ、内面は身体が大きいときもこのままです」

「ミルズ!? それは内緒にしてって……」

「隠しても仕方ないでしょう。それとも、身体が大きくなったらマヤさんに強気に出れるんですか?」

「それは……わからないけど……」

「じゃあもう白状しちゃいましょう。その方が楽ですよ」

「ううっ…………わかった……」

「いい子ですね、ドラグちゃんは」

 ミルズは龍帝の頭を撫でる。

「えへへ、そうかな?」

「ええ、いい子です」

 ミルズは龍帝の頭を撫でる。

 その光景を見ていると、どちらが主か分からなかった。

「それで、龍帝さんはなんで私を呼んだのかな? あ、ドラグちゃんって呼んだほうがいい?」

「そうだった。マヤを呼んだのはこれを渡すためだったんだ。それと、これからも龍帝でいい」

「わかったよドラグちゃん。ってこれ、エスメラルダさんが持って行っちゃった聖剣じゃん」

 マヤは龍帝ドラグが取り出した剣を見て目を丸くする。

 それはエスメラルダが持ち去ってしまった聖剣そのものだったのだ。

 ドラグが「まさかミルズ以外からドラグちゃんと呼ばれる日が来るとは……」などと呟いていた気がしたが、マヤはそれどころではない。

「ドラグちゃん、なんで聖剣がここにあるの? まさかエスメラルダさんが持っていったのは偽物なの?」

「いや、そのエスメラルダとかいうメイドがファズを殺して奪っていった聖剣は本物だ」

「え? じゃあこっちが偽物?」

「いや、この聖剣は本物だ」

「んん~? どういうこと? 奪われたのも本物で、ここにあるもの本物なの?」

「そういうことだな」

「じゃあなにさ、聖剣は2本あったってこと?」

「それは正確な表現ではない。聖剣は2本で1つなのだ」

「2本で1つ?」

「そうだ。オーガの王族に伝わっていた聖剣は、両手に1本ずつ剣を持ち、2本の剣による高速斬撃で敵を圧倒するものだからな」

「それで2つで1つってわけか」

「そういうことだ。だからエスメラルダとかいうメイドが奪っていった一振りだけあってもこの聖剣は真価を発揮しない」

「じゃあまだ聖剣を奪われたわけじゃないってことだね」

「そうですね。龍帝様、この聖剣は私たちが頂いても良いのですか?」

「構わん。それがあっても狙われる理由が増えるだけだしな」

「それじゃありがたくもらっていくね」

 マヤは聖剣を収納袋にしまう。

「それじゃあ私たちは帰るよ。シャルルさんも心配だしね」

「心配、ということは、そのシャルルというのがオーガの王族か」

「うん。エメリンさんがいるから大丈夫だとは思うけど」

「そうか。それではな、マヤ。今回は世話になった」

「うん、またねドラグちゃん。今度は大人なドラグお姉さんにも会いたいなあ……」

「お前なあ……」

 仮にも私は龍帝だぞ……と呆れるドラグにひらひらと手を振って、マヤは謁見の間を後にしたのだった。
 
***

「遠足?」

「はい、明日朝から夕方までなのですが……」

 シャルルは学校で子どもたちに剣術を教えながらエメリンと明日の予定を話し合っていた。

「ほっ、それっ、甘い甘い~。それで、遠足とは何だ?」

 シャルルは3人の少年が次々に繰り出す剣撃をかわしいなし受け止めながら、エメリンに尋ねる。

「私も初めて聞いたのですが、どうやら学校では年の1回遠足という行事を行って、普段の授業では学べないことを、学校の外に行って学ぶらしいんです」

「学校の外で学ぶ、か。それはマヤが言っていたのか?」

 シャルルはエメリンと話しながらも「今のは鋭かったぞ、いい感じだ」などと剣術も指導も忘れない。

「そうです。それで前々から予定していた遠足が明日、というわけです」

「なるほど。行ってくればいいんじゃないか?」

「いいんですか? 私は一応マヤさんがいない間のあなたの護衛なんですよ?」

「半日くらいエリーに守って貰わなくても大丈夫だよ。それに、、子どもたちもその遠足ってのを楽しみにしてるんだろう?」

「はい、それはもう随分前から」

「じゃあ行ってあげないと。私のことは気にしなくていい。もし襲われたとしても半日くらいなら自力で逃げ続けることもできる」

「そうですか…………わかりましたシャルルさんがそう言うなら」

 こうして、明日の朝から夕方までエメリンはキサラギ亜人王国から離れることが決定したのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

処理中です...