転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第7巻第2章 連携

セシリオの本気

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「降参です……」

 エメリンはマヤに聖剣を突きつけられて両手を上げた。

 それを見たマヤはシャルルへと振り返る。

 その顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「やった……やったよ! やったんだよ、シャルルさん!」

「ああ……ああっ、ああっ! やったなマヤ!」

 マヤとシャルルどちらともなく駆け寄って抱き合った。

 そのままぴょんぴょん跳ねて喜ぶ2人に、エメリンは苦笑する。

「私が敵だったら降参したくらいでそんなに無防備に喜んでちゃだめですからね?」

 エメリンの言葉にマヤたちは身体を離すとエメリンに向き直った。

「もちろん分かってるって。でも、やっとエメリンさんに勝てたから嬉しくってさ」

「私も同じだ。あれだけ圧倒的に強かったエリーに勝てたのだ、喜ばない方がおかしい」

「でも、2人共本当に強くなりました。これなら次のステップに進めそうですね」

「次のステップ? まさかエメリンさんまだ強くなれたりする、とか?」

 一応原初の魔王であるセシリオを下したマヤとそれに匹敵す力を持っているシャルルの2人がかりで倒せない、という規格外の強さだったエメリンなので、実はまだ本気じゃない、と言われてもそこまで驚かない。

「流石にそれはないですよ。さっきの戦いで、私は嘘偽りなく全力でした。それに2人は勝ったんです」

「そっか。なんだか改めてそう言われると嬉しいね」

 マヤはシャルルに顔を向ける。

「そうだな。それだけエリーは強かったからな」

 シャルルも頷くと、エメリンとの戦いを思い出しているのか、少し遠い目をしていた。

「達成感に浸っているところ悪いんですが、次の相手は当然私より強いですからね?」

「エメリンさんより強いって、それこそ原初の魔王くらいしかいないんじゃないの?」

「しかしマヤ、マヤはセシリオ様に勝っているだろう? ということは、エリーは原初の魔王より強いんじゃないのか?」

「そういえばそうだね」

 ということは、エメリンの言う次の相手とは誰のことなのだろうか、とマヤは顎に手を添えて考え始める。

 マヤは、少し前に、原初の魔王で一番強いのはルーシェで、エメリンもルーシェには勝てたことがない、みたいなことを聞いたような気がすることを思い出した。

「もしかして、次の相手ってルーシェ?」

「いえ、ルーシェ様ではありません。ルーシェ様は最後ですね。一番強いのはルーシェ様ですから」

「じゃあマルコスさんとか?」

「いえ、マルコス様でも――」

 マヤの質問に答えようとしたエメリンの言葉は、軽い調子の男性の声によって遮られた。

「ひっでーなー、マヤはよー。まさかおれが本気でマヤに負けたと思ってたのか?」

「セシリオさん。久しぶり」

「おう、久しぶり」

 ルースの封印空間に簡単に穴を開けて入ってきたセシリオは、マヤに手を上げながら軽く挨拶した。

「それで、本気で負けたと思ってたのか、とか言うってことは、私と戦った時は本気じゃなかったってこと?」

 マヤの質問に、セシリオは鷹揚に頷いてみせる。

「そういうことだな。エメリンは気がついてたんだろ?」

「当然です。マヤさんと戦ってみるまでは、マヤさんならあるいは本当に本気のセシリオ様を倒したのかもしれない、と思いましたが、戦ってみてすぐわかりました。セシリオ様はなにか狙いがあってわざとマヤさんに負けたんだな、と」

「流石だなエメリン」

「それほどでも。それではセシリオ様、続きをお願いできますか?」

「ああ、任せろ。エスメ、たまには一緒に戦おうぜ? 夫婦なんだしよ」

「え? 夫婦? それにエスメって……」

 セシリオの関係者でエスメといえば、とマヤが考えていると、予想通りの人物が空間の穴から出てきた。
 
「はあ……かしこまりましたセシリオ様。それから、私はエスメラルダです」

「今は側近のお前じゃなくて、嫁のオマエでいいぞ? この場に俺の部下はいないしな」

 セシリオの言葉に、エスメラルダからセシリオへの敬意が消えたのが傍目にもわかった。

「わかったわ、リオ。全く、あなたって人は本当に勝手なんだから」

 どうやら夫婦として話す時エスメラルダは、セシリオのことをリオと呼んでいるらしい。

「悪い悪い。でも、文句を言いながら付き合ってくれるから、俺はやっぱエスメのこと好きだぜ?」

「もう…………すぐそうやって…………ばか」

 エスメラルダは頬を染めてセシリオから顔をそらした。

「なにあれ、エスメラルダさんってあんなに可愛かったっけ?」

「いや、彼女はもっとこう、真面目を絵に描いたようなお硬いイメージだったんだが……」

「だよね? ……そっか、あれが夫の前でのエスメラルダさんなのか」

「…………そこ、聞こえてますからね?」

「「ひっ!?」」

 マヤとシャルルは、顔を真っ赤にして震えるエスメラルダの怒気に、思わず短く悲鳴を上げた。

 自分たちで勝手にイチャついておいて、それを話してた相手に恥ずかしがって怒る、というのはなんとも理不尽な話だ。

 怒るなら夫婦だ何だと言い出したセシリオに怒ってほしいのだが、きっと好きだと言われて嬉しかったので怒るに怒れないのでこちらに飛び火したのだろう。

「さて、エスメもやる気になったことだし、いっちょ揉んでやるかな」

 一足先に戦闘態勢に入ったエスメラルダに続く形で、セシリオも戦闘態勢に入る。

「なんだか理不尽に怒られてる気がしないでもないけど、やらないわけにはいかなそうだし……いける、シャルルさん?」

 マヤはシャルルをちらりと見てから聖剣を構える。

「やるしかないのだろう? できるだけやってみるさ」

 シャルルも聖剣を構えたのを確認して、マヤは勢いよく飛び出した。

 何も言わずとも、シャルルはその後に続き、一部の隙もない連携で2人はエスメラルダへと攻撃を仕掛けた。

「悪いけど、まずは弱い方から叩かせてもらうよ!」

「悪くないさ、それが戦いの定石だからな。しかし、定石だからこそ読みやすい」

「なっ!?」

 マヤとシャルルの連携技は、完璧にエスメラルダを捉えていた――はずだったのだが。

 その直前、完全に回避不可能なタイミングでエスメラルダの姿が消えたのだ。

 消えたように見えるほど早く移動したのではない。

 完全にその場から、忽然と姿を消したのだ。

「っ!? シャルルさん後ろ!」

「っっ!?」

 マヤの言葉にとっさに前方へと跳び床を転がったシャルルの頭上を、エスメラルダのナイフが通過した。

「おお、よくかわしたな」

「今のは……」

「空間跳躍だ。空間に穴を開けて移動する空間転移の上位版だな。そして――」

 セシリオがおもむろに手を前に突き出すと、次の瞬間エスメラルダがその腕の中に現れた。

 セシリオの腕に抱かれた瞬間から、エスメラルダはセシリオの首に腕を回している。

 まるで、そこに空間跳躍するのが最初からわかっていたかのように。

「――この空間跳躍を使った俺とエスメの連携は完璧だ。これが俺の本気ってわけだな」

 セシリオはエスメラルダの頬に口づけすると、エスメラルダをその場におろした。

 先程のエスメラルダの攻撃の際、マヤはシャルルに攻撃があたる瞬間に運良く気がつけただけで、空間跳躍が起こった時点では全く気がつけていなかった。

 そんな相手とどう戦えばいいのか、マヤの頬を冷汗が伝った
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