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第7巻第3章 決戦
神の襲来
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「防ぐ方法はない、か」
マヤは諜報部隊からの報告を受けて覚悟を決めた。
レスリーから得た情報をもとに、神が復活するという黒いドアの在り処を捜索してもらったのだが、そこはいくつもの魔法で封印されており、簡単には近づくことができなかったらしい。
「すみません。僕たちがその魔法を解除できればよかったんですが……」
「ううん、ラッセル君のせいじゃないって。そんな大量の魔法、私やルーシェとかが力ずくで壊すか、オリガやエメリンさんに解除してもらうしかやりようがないわけだし」
実際にマヤか原初の魔王のうちの誰かがその魔法を破壊しに行くことも考えたが、神の復活が明日であることを考えると、万が一魔法の破壊で消耗するだけ消耗して、結局復活を止められなかったりすると取り返しがつかない可能性があるため、この方法は断念することになった。
「ありがとうございます。それで陛下、明日、僕たちは何をしていればいいんでしょうか」
「諜報部隊のみんなには、それぞれの担当地域を警戒しておいてほしい」
「戦わなくて良いのですか?」
ラッセル率いるキサラギ亜人王国の諜報部隊は、戦闘を専門とするSAMASに比べれば強くはないが、それでも他国の軍隊ぐらいは圧倒できる実力がある。
ラッセルが戦わなくていいのか、と尋ねるのも当然の反応だった。
「戦わなくていいよ。というか、今回はSAMASも後方支援だから」
「なるほど……僕たちでは足手まといですか」
「うん、正直に言えばそういうこと。でも、神はどこから来るかわからないからね。例のドアだって存在自体が私たちを惑わすための罠かもしれないし、原初の魔王に出来ることが全部できるなら空間跳躍も使えるはずだから、本当にどこに出てくるかわからない。だから、諜報部隊に世界中を警戒してもらうのは重要なんだよ。だから、お願いね」
「わかりましたっ! 神が現れたら即座にお知らせします!」
「期待してるよ」
マヤの言葉にしっかりと頷いたラッセルは、そのまま部屋を出ていった。
「さて、出来ることはやったし、後は神が復活するのを待つだけか……」
マヤは分厚い雲が垂れ込める空を見上げ、神妙な面持ちでつぶやいた。
***
神が復活する日とされた日、その正午、それは突然始まった。
「なんだあれは!?」
世界中の都市で、突然光を柱が地面から吹き出したのだ。
それはジョンとクロエがいるヘンダーソン王国の王都も例外ではなかった。
「始まったか……」
ジョンが見下ろす市街では、突然の出来事に市民が騒然としていた。
ジョンは国王としての礼服ではなく、軍の最高司令官として軍服に身を包んでいた。
「私も出たほうがいいかな?」
ジョンとともにマヤから話を聞いていたクロエが、ジョンの隣にやってくる。
王妃のティアラに手をかけ、今にもドレスを脱いで飛び出して行きそうなクロエをジョンは制止する。
「いや、クロ姉はここにいて」
「でも……」
ジョンの王位継承とともに王妃となったクロエは、もう王立魔導師団の団長ではない。
実態としては未だにヘンダーソン王国最強の魔法使いであることは確かなのだが、それでも王妃は王妃であり、今のクロエは守る側ではなく守られる側だ。
「でも、じゃないよクロ姉。気持ちはわかるけど、クロ姉までいなくなったら僕のいる前線以外の兵は誰の指示で戦えばいいんだい?」
「それはそうかもしれないけど……」
「クロ姉ならここからでも僕が戦ってるのが見えるでしょ? だから、本当に危なそうだったらその時は助けに来て。それまではここで兵の指揮と市民の避難誘導をお願い」
「わかった。気をつけてねジョンちゃん」
「うん、クロ姉もね」
ジョンはクロエの肩をポンと叩くと、そのまま王の執務室を出ていった。
***
「始まったみたいだね」
マヤは各地の諜報部隊員から寄せられる報告を聞きながら地図にバツを書き込んでいっていた。
「どんどんと近づいて来ているな。我々の居場所がわかっているのか?」
いつでも人魔合体ができるようにマヤの近くに控えているマッシュが地図を見ながら言った。
「私たちの居場所がわかっているって言うより、あのレオノルさんが捕まえったって言う、神の部下? みたいな人がいる場所を目指しているんじゃないかな? まあ、そのためにあえて拘束したまま生かしておいたわけなんだけど」
「では、ここまでは狙い通りだと?」
「そうとも言えるね。ここまで世界中で同時多発的に神の攻撃が発生するとは思ってなかったけど」
諜報部隊の報告が正しければ、世界各国の主要都市で、地面から光の柱が吹き出し、そこから白銀の魔物が次々現れて人々を襲っているらしい。
その白銀の魔物というのが、マヤが操る聖魔石の魔物達とそっくりの見た目らしく、万が一マヤが予め神の襲来を各国首脳に伝えていなければ、今頃この騒ぎはすべてキサラギ亜人王国の仕業だと誤解されて、神から襲撃を受ける前に、人間国家からの総攻撃を受けて収集がつかなくなっていただろう。
「空間跳躍も時間停止も可能なのだろう? これくらい起きてもおかしくあるまい。最初から時間停止を使われなかっただけましだ」
「それはそうだね。というか、神はしばらく時間停止を使わないんじゃないかな」
「どうしてそう思うのだ?」
「私が産みの神から聞いた情報だと、今襲ってきてる神は復権派なんだよ。つまり、神が再び人を支配しよう、っていう連中なわけだよね。ってことは、時間停止中に襲撃なんてしても、人々は神の力を知ることができないわけで、神の力を知らなかったら従う気にもなれないよね」
「そういうことか。確かに一理あるな。しかしそれだと、神に抵抗する者には時間停止をつかう、ということになる。つまり結局我々には時間停止をつかう、ということだろう?」
「そういうこと。だから油断できるようになった、とかそういうことじゃないよ。ーーーっと、来るみたいだね。マッシュ!」
マヤがマッシュに声をかけた瞬間、マッシュの身体を光が包み込み、その光がマヤへと降り注ぐ。
一瞬マヤが強烈な光に包まれたかと思った次の瞬間、マヤはうさぎ耳と丸いうさぎの尻尾が生えた姿に変身していた。
「貴様がマヤか。神の前でそのような珍妙は格好をしおって、神への敬意が感じられん。平伏せよ」
空間跳躍で現れた初老の男性の言葉は、言葉それ自体が力を持っており、マヤは一気に体重が重くなったように錯覚する。
人魔合体の上に自身への強化魔法をかけていなければ、今の言葉だけで地面に突っ伏していただろう。
「珍妙って酷くない? 可愛いって言ってほしいな、おじさんっ!」
マヤは聖剣を手に、同じく聖剣を持つシャルルと連携して、神へ攻撃を仕掛けたーーー。
マヤは諜報部隊からの報告を受けて覚悟を決めた。
レスリーから得た情報をもとに、神が復活するという黒いドアの在り処を捜索してもらったのだが、そこはいくつもの魔法で封印されており、簡単には近づくことができなかったらしい。
「すみません。僕たちがその魔法を解除できればよかったんですが……」
「ううん、ラッセル君のせいじゃないって。そんな大量の魔法、私やルーシェとかが力ずくで壊すか、オリガやエメリンさんに解除してもらうしかやりようがないわけだし」
実際にマヤか原初の魔王のうちの誰かがその魔法を破壊しに行くことも考えたが、神の復活が明日であることを考えると、万が一魔法の破壊で消耗するだけ消耗して、結局復活を止められなかったりすると取り返しがつかない可能性があるため、この方法は断念することになった。
「ありがとうございます。それで陛下、明日、僕たちは何をしていればいいんでしょうか」
「諜報部隊のみんなには、それぞれの担当地域を警戒しておいてほしい」
「戦わなくて良いのですか?」
ラッセル率いるキサラギ亜人王国の諜報部隊は、戦闘を専門とするSAMASに比べれば強くはないが、それでも他国の軍隊ぐらいは圧倒できる実力がある。
ラッセルが戦わなくていいのか、と尋ねるのも当然の反応だった。
「戦わなくていいよ。というか、今回はSAMASも後方支援だから」
「なるほど……僕たちでは足手まといですか」
「うん、正直に言えばそういうこと。でも、神はどこから来るかわからないからね。例のドアだって存在自体が私たちを惑わすための罠かもしれないし、原初の魔王に出来ることが全部できるなら空間跳躍も使えるはずだから、本当にどこに出てくるかわからない。だから、諜報部隊に世界中を警戒してもらうのは重要なんだよ。だから、お願いね」
「わかりましたっ! 神が現れたら即座にお知らせします!」
「期待してるよ」
マヤの言葉にしっかりと頷いたラッセルは、そのまま部屋を出ていった。
「さて、出来ることはやったし、後は神が復活するのを待つだけか……」
マヤは分厚い雲が垂れ込める空を見上げ、神妙な面持ちでつぶやいた。
***
神が復活する日とされた日、その正午、それは突然始まった。
「なんだあれは!?」
世界中の都市で、突然光を柱が地面から吹き出したのだ。
それはジョンとクロエがいるヘンダーソン王国の王都も例外ではなかった。
「始まったか……」
ジョンが見下ろす市街では、突然の出来事に市民が騒然としていた。
ジョンは国王としての礼服ではなく、軍の最高司令官として軍服に身を包んでいた。
「私も出たほうがいいかな?」
ジョンとともにマヤから話を聞いていたクロエが、ジョンの隣にやってくる。
王妃のティアラに手をかけ、今にもドレスを脱いで飛び出して行きそうなクロエをジョンは制止する。
「いや、クロ姉はここにいて」
「でも……」
ジョンの王位継承とともに王妃となったクロエは、もう王立魔導師団の団長ではない。
実態としては未だにヘンダーソン王国最強の魔法使いであることは確かなのだが、それでも王妃は王妃であり、今のクロエは守る側ではなく守られる側だ。
「でも、じゃないよクロ姉。気持ちはわかるけど、クロ姉までいなくなったら僕のいる前線以外の兵は誰の指示で戦えばいいんだい?」
「それはそうかもしれないけど……」
「クロ姉ならここからでも僕が戦ってるのが見えるでしょ? だから、本当に危なそうだったらその時は助けに来て。それまではここで兵の指揮と市民の避難誘導をお願い」
「わかった。気をつけてねジョンちゃん」
「うん、クロ姉もね」
ジョンはクロエの肩をポンと叩くと、そのまま王の執務室を出ていった。
***
「始まったみたいだね」
マヤは各地の諜報部隊員から寄せられる報告を聞きながら地図にバツを書き込んでいっていた。
「どんどんと近づいて来ているな。我々の居場所がわかっているのか?」
いつでも人魔合体ができるようにマヤの近くに控えているマッシュが地図を見ながら言った。
「私たちの居場所がわかっているって言うより、あのレオノルさんが捕まえったって言う、神の部下? みたいな人がいる場所を目指しているんじゃないかな? まあ、そのためにあえて拘束したまま生かしておいたわけなんだけど」
「では、ここまでは狙い通りだと?」
「そうとも言えるね。ここまで世界中で同時多発的に神の攻撃が発生するとは思ってなかったけど」
諜報部隊の報告が正しければ、世界各国の主要都市で、地面から光の柱が吹き出し、そこから白銀の魔物が次々現れて人々を襲っているらしい。
その白銀の魔物というのが、マヤが操る聖魔石の魔物達とそっくりの見た目らしく、万が一マヤが予め神の襲来を各国首脳に伝えていなければ、今頃この騒ぎはすべてキサラギ亜人王国の仕業だと誤解されて、神から襲撃を受ける前に、人間国家からの総攻撃を受けて収集がつかなくなっていただろう。
「空間跳躍も時間停止も可能なのだろう? これくらい起きてもおかしくあるまい。最初から時間停止を使われなかっただけましだ」
「それはそうだね。というか、神はしばらく時間停止を使わないんじゃないかな」
「どうしてそう思うのだ?」
「私が産みの神から聞いた情報だと、今襲ってきてる神は復権派なんだよ。つまり、神が再び人を支配しよう、っていう連中なわけだよね。ってことは、時間停止中に襲撃なんてしても、人々は神の力を知ることができないわけで、神の力を知らなかったら従う気にもなれないよね」
「そういうことか。確かに一理あるな。しかしそれだと、神に抵抗する者には時間停止をつかう、ということになる。つまり結局我々には時間停止をつかう、ということだろう?」
「そういうこと。だから油断できるようになった、とかそういうことじゃないよ。ーーーっと、来るみたいだね。マッシュ!」
マヤがマッシュに声をかけた瞬間、マッシュの身体を光が包み込み、その光がマヤへと降り注ぐ。
一瞬マヤが強烈な光に包まれたかと思った次の瞬間、マヤはうさぎ耳と丸いうさぎの尻尾が生えた姿に変身していた。
「貴様がマヤか。神の前でそのような珍妙は格好をしおって、神への敬意が感じられん。平伏せよ」
空間跳躍で現れた初老の男性の言葉は、言葉それ自体が力を持っており、マヤは一気に体重が重くなったように錯覚する。
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