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第7巻第4章 亀裂と……
神々の侵攻
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すべてを失い打ちひしがれるマヤを、その内側から見ながら創造神は無表情だった。
(心の闇を増幅し、負の感情が簡単に口から出るようにしただけでこれだ。やはり人間などにこの世界は任せてはおけんな)
実のところ、創造神は内心少し期待していたのだ。
人間の可能性に。
かつて同じ神からわかれ、共に過ごした魔神が信じた人間の可能性。
今回、最高位の神である自分を封印してみせた人間の連携に、創造神はかつて魔神が信じたそれを感じたのだ。
だからこそ、マヤの心の闇を増幅させ、マヤの仲間への態度をおかしくさせることで、マヤと仲間たちの間に不和が生じるように仕向けた。
人間の絆を試すために。
それでもしマヤたちの絆に変化がなければ、創造神はマヤが死ぬまでマヤの中でじっとしているつもりだった。
しかし、結果は違った。
想像神が生み出した亀裂は瞬く間に広がり、マヤは仲間どころか国民すべてを失うに至ったのだ。
(哀れなものだ。私がこの世界を治めた暁には、マヤ、貴様には不自由のない暮らしを約束してやろう)
一度は創造神を殺そうとしたマヤとはいえ、その創造神から見てもすべてを失った今の様はあまりにも痛ましかった。
その上、その原因が自分にあるとなれば、いかに敵対しているとはいえ、最高位の神として全く何もしないわけにはいかないだろう。
(ん? この気配は…………なるほど、私が封印されたことに気がついて乗り込んできたのか。余計なことを……)
自分一人で十分だから来るな、と伝えておいた復権派の低位の神々がこの世界にやってきたのを感じ取った創造神は、マヤの中でため息をつく。
もうしばらくマヤたちの様子を観察し、人間に対する最終的な処分を決めようとしていた創造神にとって、神々の侵攻は邪魔でしかない。
(今マヤが襲われればひとたまりもないだろう。しかし、それはそれでいいのかもしれんな)
創造神はそう思い直すと、マヤの五感を借りて外を眺める。
その街には誰もおらず、聞こえてくるのは街路樹の葉が擦れる音だけだった。
(ほとんど結論は出ている。やはり人は我ら神が導かなければならない存在だ、魔神よ)
創造神はひとりごちると、神々の侵攻が迫っているマヤの観察を続けるのだった。
***
「神々がマヤのところにつくまで後どれくらいだ?」
ルーシェとセシリオの言葉にその場の誰もが言葉を失い生まれていた沈黙を破ったのはマッシュだった。
落ち着いたマッシュの声に、ルーシェも静かに頷いて神々の動きを再度確認する。
「約半日といったところでしょう」
「わかった。とりあえずマヤならすぐにやられるということもないだろう。まずはウォーレンを迎えに行き、ウォーレンを確保でき次第マヤのもとに戻るということで問題ないな?」
マッシュの言葉に、エメリンはなんとも言えない表情になる。
「今のマヤさんが大丈夫かどうかはなんとも言えない気がします。ルーシェ様、どうでしょう?」
エメリンの予想では、今のマヤは神々と戦える状況ではない。
少なくとも、エメリンが最後にあった時点で驚くほど弱っており、その後の様子からしても、回復しているとは思えなかった。
「駄目ですね。今は誰もいなくなった街を歩いていますが、足元も覚束ない様子です」
「まさかそこまで弱っていたとは……では私達に残された時間は半日で、その間にウォーレンを連れてマヤのもとに戻る必要がある、と」
「そうなりますね。お兄ちゃんのところにすぐに行ければいいんですけど……」
空間転移といえば、とセシリオを見上げるオリガに、セシリオは肩をすくめる。
「まあ俺だよな、こういうときは。待ってろ、ちょっとやってみっから。ルーシェ、ウォーレンがいる位置の地図情報と、近くの景色が見たい。出せるか?」
頷いたルーシェは投影でウォーレンの現在位置の情報と、ウォーレンがいる場所の景色を映し出す。
「流石だな。マッシュ、オリガ、俺に掴まれ」
「はい!」
オリガはマッシュを頭に乗せると、セシリオに掴まる。
「行くぞ!」
瞬間、セシリオたち2人と1匹の姿が消える。
***
「お兄ちゃん!」
「うおっ!? えっ? なんでオリガがここに……」
アンブロシア皇国から数えて3つ目の国の王宮の渡り廊下を歩いていたウォーレンは、突然聞えた懐かしい声に驚いた。
「話は後だ! マヤが危ない!」
オリガの頭から跳躍したマッシュは、ウォーレンの肩に乗ると、その頭を前足でパシパシと叩く。
「なんだって!? いやしかし、本当なのか……? あのマヤだろう?」
ウォーレンの疑問はもっともだ。
なにせマヤはキサラギ亜人王国最強の存在であり、原初の魔王を超えた今となっては世界最強かもしれない、そんな存在なのだ。
そのマヤが危ないなどと言われても、にわかには信じがたい。
「それはそうなんですけど……今は色々あってちょっと戦える状況じゃなくて……」
「どういうことだ? それに、もしマヤが危ないような相手なら、俺が行っても意味がないんじゃないか? もっと他に適任な奴が――――」
パシイィィィン!
そんな乾いた音を響かせたのは、オリガの平手打ちだった。
それを食らったウォーレンの頬には、小さな紅葉ができている。
「痛え……なにすんだよとつぜ……ん……」
突然の平手打ちに非難の声を上げたウォーレンだったが、その言葉は最後まで続かなかった。
平手打ちをしたオリガが泣いているのを見てしまったからだ。
「お兄ちゃんがどうしてマヤさんから離れたのかは知りません。たぶんお兄ちゃんのことだから、お兄ちゃんなりにマヤさんのことを思っての行動なんだろうな、ってことも想像できます。でもっ! でも……っ!」
オリガは、マッシュから聞いたマヤの今の心の中のことを思い出していた。
今のマヤは、ウォーレンにフラれたと思い込んであそこまで不安定になっている。
それほどまでに、マヤの中でウォーレンの存在が大きくなっている、ということだ。
「でも、今は近くにいてあげて下さい! 今のマヤさんにはお兄ちゃんが必要なんです! 私じゃ、駄目なんです……」
マヤから浴びせられた罵倒を思い出しながら、それでもオリガはマヤを救うために涙を流しているのだ。
「だから! お兄ちゃんはマヤさんに選ばれたんだから! つべこべ言わずに私たちと一緒にマヤさんのところについてきなさい!」
オリガはこの時ようやく、自分がマヤに恋心にも似た感情を抱いていたことに気がついた。
だからこそマヤの言葉にあれほど落ち込み、自分と違ってマヤに必要とされているウォーレンが二の足を踏んでいることに腹が立ったのだろう。
初恋に気がつくことができず、気がついた時には失恋していたことに気がついたオリガは、勢いを増した涙を拭うことなく空を見上げる。
(そっか、これが失恋か…………これは、なんというか、マヤさんがあんなふうになっちゃうのもわかるなあ……)
呆然とするオリガは、次の瞬間ウォーレンに持ち上げられる。
「ありがとうな、オリガ。おかげで目が覚めた」
「お兄ちゃん…………」
右肩にマッシュを乗せ、左肩に静かに涙を流すオリガを担いだウォーレンは、セシリオの空間転移でマヤの元へと向かったのだった。
(心の闇を増幅し、負の感情が簡単に口から出るようにしただけでこれだ。やはり人間などにこの世界は任せてはおけんな)
実のところ、創造神は内心少し期待していたのだ。
人間の可能性に。
かつて同じ神からわかれ、共に過ごした魔神が信じた人間の可能性。
今回、最高位の神である自分を封印してみせた人間の連携に、創造神はかつて魔神が信じたそれを感じたのだ。
だからこそ、マヤの心の闇を増幅させ、マヤの仲間への態度をおかしくさせることで、マヤと仲間たちの間に不和が生じるように仕向けた。
人間の絆を試すために。
それでもしマヤたちの絆に変化がなければ、創造神はマヤが死ぬまでマヤの中でじっとしているつもりだった。
しかし、結果は違った。
想像神が生み出した亀裂は瞬く間に広がり、マヤは仲間どころか国民すべてを失うに至ったのだ。
(哀れなものだ。私がこの世界を治めた暁には、マヤ、貴様には不自由のない暮らしを約束してやろう)
一度は創造神を殺そうとしたマヤとはいえ、その創造神から見てもすべてを失った今の様はあまりにも痛ましかった。
その上、その原因が自分にあるとなれば、いかに敵対しているとはいえ、最高位の神として全く何もしないわけにはいかないだろう。
(ん? この気配は…………なるほど、私が封印されたことに気がついて乗り込んできたのか。余計なことを……)
自分一人で十分だから来るな、と伝えておいた復権派の低位の神々がこの世界にやってきたのを感じ取った創造神は、マヤの中でため息をつく。
もうしばらくマヤたちの様子を観察し、人間に対する最終的な処分を決めようとしていた創造神にとって、神々の侵攻は邪魔でしかない。
(今マヤが襲われればひとたまりもないだろう。しかし、それはそれでいいのかもしれんな)
創造神はそう思い直すと、マヤの五感を借りて外を眺める。
その街には誰もおらず、聞こえてくるのは街路樹の葉が擦れる音だけだった。
(ほとんど結論は出ている。やはり人は我ら神が導かなければならない存在だ、魔神よ)
創造神はひとりごちると、神々の侵攻が迫っているマヤの観察を続けるのだった。
***
「神々がマヤのところにつくまで後どれくらいだ?」
ルーシェとセシリオの言葉にその場の誰もが言葉を失い生まれていた沈黙を破ったのはマッシュだった。
落ち着いたマッシュの声に、ルーシェも静かに頷いて神々の動きを再度確認する。
「約半日といったところでしょう」
「わかった。とりあえずマヤならすぐにやられるということもないだろう。まずはウォーレンを迎えに行き、ウォーレンを確保でき次第マヤのもとに戻るということで問題ないな?」
マッシュの言葉に、エメリンはなんとも言えない表情になる。
「今のマヤさんが大丈夫かどうかはなんとも言えない気がします。ルーシェ様、どうでしょう?」
エメリンの予想では、今のマヤは神々と戦える状況ではない。
少なくとも、エメリンが最後にあった時点で驚くほど弱っており、その後の様子からしても、回復しているとは思えなかった。
「駄目ですね。今は誰もいなくなった街を歩いていますが、足元も覚束ない様子です」
「まさかそこまで弱っていたとは……では私達に残された時間は半日で、その間にウォーレンを連れてマヤのもとに戻る必要がある、と」
「そうなりますね。お兄ちゃんのところにすぐに行ければいいんですけど……」
空間転移といえば、とセシリオを見上げるオリガに、セシリオは肩をすくめる。
「まあ俺だよな、こういうときは。待ってろ、ちょっとやってみっから。ルーシェ、ウォーレンがいる位置の地図情報と、近くの景色が見たい。出せるか?」
頷いたルーシェは投影でウォーレンの現在位置の情報と、ウォーレンがいる場所の景色を映し出す。
「流石だな。マッシュ、オリガ、俺に掴まれ」
「はい!」
オリガはマッシュを頭に乗せると、セシリオに掴まる。
「行くぞ!」
瞬間、セシリオたち2人と1匹の姿が消える。
***
「お兄ちゃん!」
「うおっ!? えっ? なんでオリガがここに……」
アンブロシア皇国から数えて3つ目の国の王宮の渡り廊下を歩いていたウォーレンは、突然聞えた懐かしい声に驚いた。
「話は後だ! マヤが危ない!」
オリガの頭から跳躍したマッシュは、ウォーレンの肩に乗ると、その頭を前足でパシパシと叩く。
「なんだって!? いやしかし、本当なのか……? あのマヤだろう?」
ウォーレンの疑問はもっともだ。
なにせマヤはキサラギ亜人王国最強の存在であり、原初の魔王を超えた今となっては世界最強かもしれない、そんな存在なのだ。
そのマヤが危ないなどと言われても、にわかには信じがたい。
「それはそうなんですけど……今は色々あってちょっと戦える状況じゃなくて……」
「どういうことだ? それに、もしマヤが危ないような相手なら、俺が行っても意味がないんじゃないか? もっと他に適任な奴が――――」
パシイィィィン!
そんな乾いた音を響かせたのは、オリガの平手打ちだった。
それを食らったウォーレンの頬には、小さな紅葉ができている。
「痛え……なにすんだよとつぜ……ん……」
突然の平手打ちに非難の声を上げたウォーレンだったが、その言葉は最後まで続かなかった。
平手打ちをしたオリガが泣いているのを見てしまったからだ。
「お兄ちゃんがどうしてマヤさんから離れたのかは知りません。たぶんお兄ちゃんのことだから、お兄ちゃんなりにマヤさんのことを思っての行動なんだろうな、ってことも想像できます。でもっ! でも……っ!」
オリガは、マッシュから聞いたマヤの今の心の中のことを思い出していた。
今のマヤは、ウォーレンにフラれたと思い込んであそこまで不安定になっている。
それほどまでに、マヤの中でウォーレンの存在が大きくなっている、ということだ。
「でも、今は近くにいてあげて下さい! 今のマヤさんにはお兄ちゃんが必要なんです! 私じゃ、駄目なんです……」
マヤから浴びせられた罵倒を思い出しながら、それでもオリガはマヤを救うために涙を流しているのだ。
「だから! お兄ちゃんはマヤさんに選ばれたんだから! つべこべ言わずに私たちと一緒にマヤさんのところについてきなさい!」
オリガはこの時ようやく、自分がマヤに恋心にも似た感情を抱いていたことに気がついた。
だからこそマヤの言葉にあれほど落ち込み、自分と違ってマヤに必要とされているウォーレンが二の足を踏んでいることに腹が立ったのだろう。
初恋に気がつくことができず、気がついた時には失恋していたことに気がついたオリガは、勢いを増した涙を拭うことなく空を見上げる。
(そっか、これが失恋か…………これは、なんというか、マヤさんがあんなふうになっちゃうのもわかるなあ……)
呆然とするオリガは、次の瞬間ウォーレンに持ち上げられる。
「ありがとうな、オリガ。おかげで目が覚めた」
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四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
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七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
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