兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち

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20.後片付けをする人がいるので

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 昼食会が終わり、一泊すると言い張っていた祖父を引きずるようにしてグレンは帰っていった。
 襲撃直後の屋敷に大使が訪れること自体が異例中の異例だったのだ。
 襲撃の首謀者のあぶり出し、警備の見直し、情報操作同時進行でいくつもこなし、日中の昼間だけと時間を絞り、迎え入れることができた。

 二人を見送ったあと兄の執務室に戻った私たちのもとへ、衛兵が焦ったように手紙を持ってきた。
 
「やはり、あの屋敷に来たようだよ。全員捕まえたと」
「そう、何事もなくてよかった」

 手紙を読んだ兄にそう言われて私は胸をなでおろす。

「あとは夜だけね」

 私の言葉に兄は小さくうなずいた。


 ********
 
 襲撃後、私たちがまず取り掛かったのは、襲撃の目的と首謀者の調査だった。
 
 衛兵が一緒に持ってきた調査結果と、ラクシフォリア家が調べた内容を照らし合わせながら慎重に情報を精査していく。

 今回の襲撃の首謀者として候補に挙がったのは第二王子派と反トリトニア派、そして反貴族の市民運動家。最初に候補に挙がったのこの三団体だった。
 ルーク殿下の発言が利用されたことを考えると市民運動家の線は薄くなる。貴族に協力者がいるとしても、情報にタイムラグが生じるからだ。
 
 襲撃の目的が分からないのもあり、首謀者が反トリトニア派か、第二王子派か、絞り切れなかった。
 
 兄へのスパイ容疑なんてものはでっち上げもいいところだったし、王城騎士を騙っていた彼らは金をはらえば何でもするような人間たちだった。
 彼らのうち数名は、できる限り執務室を荒らすよう依頼されたと話したらしい。
 そして、兄の方で捕まえたゴロツキは足止めしろという指示をうけたと証言した。
 どちらにも明確な目的につながる指示ではない。
 
 そうなると、襲撃は手段ではない、と考えるのが妥当だった。

 “襲撃自体が目的”なのだ。

 ラクシフォリアの屋敷を襲撃すれば、大使たちのラクシフォリア家の訪問はなくなるだろう。

「想定されていた動きが大きく変われば、少なからず隙になる」
 
 ――目的は、トリトニアの大使かもしれない。

 そう進言すると、兄の行動は早かった。

 グレンや祖父を含めた、大使全員がもともとの予定に近い形で動けるよう警備や動きを調整。
 この調整は限られた人にのみ伝達し、『大使は襲撃の話を聞き宿泊場所を変更した。ラクシフォリア家の訪問は中止。晩餐会のみ別の屋敷を借りて行う』といった嘘の情報を、大使が変更したという屋敷の場所を強調して数種類流した。
 
 結果、のこのこと昼間に誰もいない屋敷に現れた武装集団は王城騎士や衛兵団にあっという間に捕縛された。
 
「晩餐会まであと何時間だ?……そちらの警備もぬかるなよ!」

 騎士団長はわざと大声でそう言ってくれたらしい。

 ********

 その晩、で、武装した男を捕えたとの連絡が入った。

「首謀者は第二王子派の貴族だ」

 兄はそう断言した。

 第二王子派に近い人間には“王都はずれにあるを借りる”反トリトニア派に恩を売りたい人間たちには“を使う”と晩餐会の場所を変えて流していた。

 それだけではなく、同じ日に行方不明になったイアンの家の近くで、第二王子派の貴族の紋章をつけた馬車が不自然なほど多く目撃されていることも決め手となった。

 それから数日で、第二王子派の貴族たちは様々な罪が白日の下にさらされ、資産をはく奪され、投獄されていった。
 疑いの目を向けられていた反トリトニア派の貴族は形式上であるが“機密情報を密告してきた可能性のある人物”として国立公園内の屋敷の情報を報告してきたことで、ルーク殿下からの一定の信用を得た。
 
 襲撃事件は急激に収束していった。
 しかし、イアンの足取りは、いまだつかめていない。
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