腕の噛み傷うなじの噛み傷

Kyrie

文字の大きさ
7 / 16

第7話 ジン(2)

しおりを挟む
気がつくと病院のベッドの上だった。
何本もの点滴の管が下がっているのが見えた。
母さんが泣きながら俺に呼びかけ、ナースコールを押した。
それから1時間後、ゼン先生が回診に来てくれた。
ぼんやりしていたが、その頃になると意識もクリアになっていた。
自分がどういう状況だったのか、先生と両親が教えてくれた。

俺をアルファが助けたらしい。
それも衝動に駆られないようにするために、自分の腕に噛みつきながらの救出。
そのアルファに呆れながらも、ほっとした自分がいた。
てっきり犯されたと思っていた。
絶望するのだと思っていた。

と、首に違和感を覚え指を伸ばすと、柔らかな革にふれた。


俺を助けたのはユウヤという高校生。
ゼン先生の話によると、オメガとして生きてきたが15テストで突然アルファ反応が出て、ゼン先生のところに定期的に通っているそうだ。
オメガとしての生活が長かったので、俺に適切な対処ができ、自分がずっとつけてきたネック・プロテクターを俺につけてくれたらしい。

知らないアルファに強姦されるのも嫌だが、番関係を勝手に結ばれるのはもっと嫌だ、と思った。
もう一度、首に手を伸ばした。
使われてしなやかになった革の感触は、俺を安心させた。


それから2~3週間は投薬されながら入院して様子を見た。
ヒートが終わっても、体調が不安定のままだった。
ようやく退院すると両親が、ユウヤに会ってお礼を言う、と言い出した。
俺は乗り気ではなかったが、それでも自分を助けてくれた人だ。
礼の一つも言ったほうがいいだろう。


約束の日に、両親が予約したティールームの個室に現れたのは、華奢な体つきで茶色の柔らかくさらさらした髪が印象的な高校生だった。
ユウヤは両親が何を言っても、ぽかんと俺を見ていた。
俺ばかりを見ていた。
少し恥ずかしくなって余計に無口になっていたが、突然、テーブルに突っ伏して「結婚を前提につき合ってくれ」と言い出した。
これには両親も俺も驚いた。
なにを考えているんだ。

冗談じゃない。
俺は即座に断ろうとした。
調子に乗るな。

しかしそこをやんわりと取りなしたのは父さんだった。
ユウヤを拒みはしなかったが、俺のことを無視もしなかった。
それぞれの考えがあるから、と言いながらも、母さんと一緒に「一度くらい遊んでみたらどうだい?」と勧めてきた。
ユウヤはハラハラした様子で俺を見ている。
さっき、大胆なことを言った奴とは思えない。

知らず知らずのうちに、首に指を伸ばし、革の感触を確認する。
この安心感をくれたのは、こいつ。

俺は渋々、遊ぶ約束をした。



会う前にユウヤと幾つか約束をした。
俺をオメガや恋人みたいに扱うな、ということだった。
ユウヤは「わかった」と言っていたが、いざ会うと初めてデートをする奴のように舞い上がっていて何もできない。
最初の行先候補すらなかった。
デートをしたことがない、とずっと言っていたが、これはデートではない。
俺はむっとして、あのとき買いそびれたノートを買いにいくことにした。

その中でぽつりぽつりと会話を交わした。

ユウヤと俺は同い年で高3。
向こうのほうが数か月年上で、もう18歳になっていた。

文房具店のあとは、軽くランチを食べ、街をぶらつき、ファーストフード店でシェイクを飲んで、別れた。
その間もユウヤはずっとおどおどとしていた。

ただ、アルファ同士だと「譲り合う」よりも「我先に」の感覚で人と付き合っていることがわかった。
ユウヤは俺を優先してくれる。
これまでの付き合いではあまりなかったことなので、戸惑ってしまった。
ユウヤに物足りなさを覚えたのに、別れてから数時間後、『今日は楽しかったです。また会いませんか』というメッセージをユウヤからもらったとき、俺は「また会ってもいいかな」と感じていた。
しかし、「あれのどこがよかったんだか」と一旦否定し、すぐには返事をせず、数日経って返信した。

そうやって俺とユウヤはたまに会うようになった。





そうこうしていると、二回目の発情期が近づいてきた。
前回のことが俺をぴりぴりさせた。
否応なしに、自分の身体の変化に敏感にならざるを得なかった。

ヒートのときに、ユウヤには絶対に会いたくなかった。
しかし、それを自分から言うのも絶対に嫌だった。
なんだか、恥ずかしい。

ユウヤに助けられたとき、自分が欲しがったものが強烈すぎて嫌だ。
心のどこかで「ユウヤならそれを与えてくれる」と期待しているのも、嫌だった。
どれだけ自分が浅ましく求めてしまうのか、想像するのも嫌だった。

両親はアルファなので、オメガとして乱れるのを悟られるのも恥ずかしい。

一人になりたかった。


ユウヤには母さんから連絡を入れてもらった。
アイツの誘いを無視してもよかったが、いらない心配をさせるのも嫌だった。

俺は新しく家に設置されたヒートの時期を過ごす「オメガの部屋」に一人で籠った。
バニスタウンでは、オメガがいる家庭には一人にひとつ配布される。
様々な加工がしてあってアルファを狂わす匂いも分解して放出されるし、防音や外からの差し入れもいろいろ考慮され、いざというときにオメガがここに籠ってしまえばアルファがもたらす危険から守られるシェルターのような機能もあった。

その前にゼン先生に受診し、あれこれ薬を処方してもらい、注意事項も聞いた。


それでも、なんとか薬で抑えながらヒートをやり過ごしたが、終わってからもまたもや体調を大きく崩し、学校を早退、欠席を繰り返しながら数週間が経った。
こんな状態だから、ユウヤに連絡を取ることに気が向くはずもなかった。


しびれを切らしたように、ユウヤからメッセージが来た。

俺は最近、癖のようになっているネックプロテクターに手を伸ばし、その革の質感を確かめる。

いつも一緒にいる感覚だったから、連絡を取っていないことに違和感がなかったんだ。

しかし、まだ身体がすっきりしない。
なにもかも億劫になってしまい、すぐに返信をしなかった。
ベッドに横になり、またプロテクターをさわる。
そうしているうちに、うとうとと眠ってしまった。







しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

処理中です...