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第7話 ジン(2)
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気がつくと病院のベッドの上だった。
何本もの点滴の管が下がっているのが見えた。
母さんが泣きながら俺に呼びかけ、ナースコールを押した。
それから1時間後、ゼン先生が回診に来てくれた。
ぼんやりしていたが、その頃になると意識もクリアになっていた。
自分がどういう状況だったのか、先生と両親が教えてくれた。
俺をアルファが助けたらしい。
それも衝動に駆られないようにするために、自分の腕に噛みつきながらの救出。
そのアルファに呆れながらも、ほっとした自分がいた。
てっきり犯されたと思っていた。
絶望するのだと思っていた。
と、首に違和感を覚え指を伸ばすと、柔らかな革にふれた。
俺を助けたのはユウヤという高校生。
ゼン先生の話によると、オメガとして生きてきたが15テストで突然アルファ反応が出て、ゼン先生のところに定期的に通っているそうだ。
オメガとしての生活が長かったので、俺に適切な対処ができ、自分がずっとつけてきたネック・プロテクターを俺につけてくれたらしい。
知らないアルファに強姦されるのも嫌だが、番関係を勝手に結ばれるのはもっと嫌だ、と思った。
もう一度、首に手を伸ばした。
使われてしなやかになった革の感触は、俺を安心させた。
それから2~3週間は投薬されながら入院して様子を見た。
ヒートが終わっても、体調が不安定のままだった。
ようやく退院すると両親が、ユウヤに会ってお礼を言う、と言い出した。
俺は乗り気ではなかったが、それでも自分を助けてくれた人だ。
礼の一つも言ったほうがいいだろう。
約束の日に、両親が予約したティールームの個室に現れたのは、華奢な体つきで茶色の柔らかくさらさらした髪が印象的な高校生だった。
ユウヤは両親が何を言っても、ぽかんと俺を見ていた。
俺ばかりを見ていた。
少し恥ずかしくなって余計に無口になっていたが、突然、テーブルに突っ伏して「結婚を前提につき合ってくれ」と言い出した。
これには両親も俺も驚いた。
なにを考えているんだ。
冗談じゃない。
俺は即座に断ろうとした。
調子に乗るな。
しかしそこをやんわりと取りなしたのは父さんだった。
ユウヤを拒みはしなかったが、俺のことを無視もしなかった。
それぞれの考えがあるから、と言いながらも、母さんと一緒に「一度くらい遊んでみたらどうだい?」と勧めてきた。
ユウヤはハラハラした様子で俺を見ている。
さっき、大胆なことを言った奴とは思えない。
知らず知らずのうちに、首に指を伸ばし、革の感触を確認する。
この安心感をくれたのは、こいつ。
俺は渋々、遊ぶ約束をした。
会う前にユウヤと幾つか約束をした。
俺をオメガや恋人みたいに扱うな、ということだった。
ユウヤは「わかった」と言っていたが、いざ会うと初めてデートをする奴のように舞い上がっていて何もできない。
最初の行先候補すらなかった。
デートをしたことがない、とずっと言っていたが、これはデートではない。
俺はむっとして、あのとき買いそびれたノートを買いにいくことにした。
その中でぽつりぽつりと会話を交わした。
ユウヤと俺は同い年で高3。
向こうのほうが数か月年上で、もう18歳になっていた。
文房具店のあとは、軽くランチを食べ、街をぶらつき、ファーストフード店でシェイクを飲んで、別れた。
その間もユウヤはずっとおどおどとしていた。
ただ、アルファ同士だと「譲り合う」よりも「我先に」の感覚で人と付き合っていることがわかった。
ユウヤは俺を優先してくれる。
これまでの付き合いではあまりなかったことなので、戸惑ってしまった。
ユウヤに物足りなさを覚えたのに、別れてから数時間後、『今日は楽しかったです。また会いませんか』というメッセージをユウヤからもらったとき、俺は「また会ってもいいかな」と感じていた。
しかし、「あれのどこがよかったんだか」と一旦否定し、すぐには返事をせず、数日経って返信した。
そうやって俺とユウヤはたまに会うようになった。
そうこうしていると、二回目の発情期が近づいてきた。
前回のことが俺をぴりぴりさせた。
否応なしに、自分の身体の変化に敏感にならざるを得なかった。
ヒートのときに、ユウヤには絶対に会いたくなかった。
しかし、それを自分から言うのも絶対に嫌だった。
なんだか、恥ずかしい。
ユウヤに助けられたとき、自分が欲しがったものが強烈すぎて嫌だ。
心のどこかで「ユウヤならそれを与えてくれる」と期待しているのも、嫌だった。
どれだけ自分が浅ましく求めてしまうのか、想像するのも嫌だった。
両親はアルファなので、オメガとして乱れるのを悟られるのも恥ずかしい。
一人になりたかった。
ユウヤには母さんから連絡を入れてもらった。
アイツの誘いを無視してもよかったが、いらない心配をさせるのも嫌だった。
俺は新しく家に設置されたヒートの時期を過ごす「オメガの部屋」に一人で籠った。
バニスタウンでは、オメガがいる家庭には一人にひとつ配布される。
様々な加工がしてあってアルファを狂わす匂いも分解して放出されるし、防音や外からの差し入れもいろいろ考慮され、いざというときにオメガがここに籠ってしまえばアルファがもたらす危険から守られるシェルターのような機能もあった。
その前にゼン先生に受診し、あれこれ薬を処方してもらい、注意事項も聞いた。
それでも、なんとか薬で抑えながらヒートをやり過ごしたが、終わってからもまたもや体調を大きく崩し、学校を早退、欠席を繰り返しながら数週間が経った。
こんな状態だから、ユウヤに連絡を取ることに気が向くはずもなかった。
しびれを切らしたように、ユウヤからメッセージが来た。
俺は最近、癖のようになっているネックプロテクターに手を伸ばし、その革の質感を確かめる。
いつも一緒にいる感覚だったから、連絡を取っていないことに違和感がなかったんだ。
しかし、まだ身体がすっきりしない。
なにもかも億劫になってしまい、すぐに返信をしなかった。
ベッドに横になり、またプロテクターをさわる。
そうしているうちに、うとうとと眠ってしまった。
何本もの点滴の管が下がっているのが見えた。
母さんが泣きながら俺に呼びかけ、ナースコールを押した。
それから1時間後、ゼン先生が回診に来てくれた。
ぼんやりしていたが、その頃になると意識もクリアになっていた。
自分がどういう状況だったのか、先生と両親が教えてくれた。
俺をアルファが助けたらしい。
それも衝動に駆られないようにするために、自分の腕に噛みつきながらの救出。
そのアルファに呆れながらも、ほっとした自分がいた。
てっきり犯されたと思っていた。
絶望するのだと思っていた。
と、首に違和感を覚え指を伸ばすと、柔らかな革にふれた。
俺を助けたのはユウヤという高校生。
ゼン先生の話によると、オメガとして生きてきたが15テストで突然アルファ反応が出て、ゼン先生のところに定期的に通っているそうだ。
オメガとしての生活が長かったので、俺に適切な対処ができ、自分がずっとつけてきたネック・プロテクターを俺につけてくれたらしい。
知らないアルファに強姦されるのも嫌だが、番関係を勝手に結ばれるのはもっと嫌だ、と思った。
もう一度、首に手を伸ばした。
使われてしなやかになった革の感触は、俺を安心させた。
それから2~3週間は投薬されながら入院して様子を見た。
ヒートが終わっても、体調が不安定のままだった。
ようやく退院すると両親が、ユウヤに会ってお礼を言う、と言い出した。
俺は乗り気ではなかったが、それでも自分を助けてくれた人だ。
礼の一つも言ったほうがいいだろう。
約束の日に、両親が予約したティールームの個室に現れたのは、華奢な体つきで茶色の柔らかくさらさらした髪が印象的な高校生だった。
ユウヤは両親が何を言っても、ぽかんと俺を見ていた。
俺ばかりを見ていた。
少し恥ずかしくなって余計に無口になっていたが、突然、テーブルに突っ伏して「結婚を前提につき合ってくれ」と言い出した。
これには両親も俺も驚いた。
なにを考えているんだ。
冗談じゃない。
俺は即座に断ろうとした。
調子に乗るな。
しかしそこをやんわりと取りなしたのは父さんだった。
ユウヤを拒みはしなかったが、俺のことを無視もしなかった。
それぞれの考えがあるから、と言いながらも、母さんと一緒に「一度くらい遊んでみたらどうだい?」と勧めてきた。
ユウヤはハラハラした様子で俺を見ている。
さっき、大胆なことを言った奴とは思えない。
知らず知らずのうちに、首に指を伸ばし、革の感触を確認する。
この安心感をくれたのは、こいつ。
俺は渋々、遊ぶ約束をした。
会う前にユウヤと幾つか約束をした。
俺をオメガや恋人みたいに扱うな、ということだった。
ユウヤは「わかった」と言っていたが、いざ会うと初めてデートをする奴のように舞い上がっていて何もできない。
最初の行先候補すらなかった。
デートをしたことがない、とずっと言っていたが、これはデートではない。
俺はむっとして、あのとき買いそびれたノートを買いにいくことにした。
その中でぽつりぽつりと会話を交わした。
ユウヤと俺は同い年で高3。
向こうのほうが数か月年上で、もう18歳になっていた。
文房具店のあとは、軽くランチを食べ、街をぶらつき、ファーストフード店でシェイクを飲んで、別れた。
その間もユウヤはずっとおどおどとしていた。
ただ、アルファ同士だと「譲り合う」よりも「我先に」の感覚で人と付き合っていることがわかった。
ユウヤは俺を優先してくれる。
これまでの付き合いではあまりなかったことなので、戸惑ってしまった。
ユウヤに物足りなさを覚えたのに、別れてから数時間後、『今日は楽しかったです。また会いませんか』というメッセージをユウヤからもらったとき、俺は「また会ってもいいかな」と感じていた。
しかし、「あれのどこがよかったんだか」と一旦否定し、すぐには返事をせず、数日経って返信した。
そうやって俺とユウヤはたまに会うようになった。
そうこうしていると、二回目の発情期が近づいてきた。
前回のことが俺をぴりぴりさせた。
否応なしに、自分の身体の変化に敏感にならざるを得なかった。
ヒートのときに、ユウヤには絶対に会いたくなかった。
しかし、それを自分から言うのも絶対に嫌だった。
なんだか、恥ずかしい。
ユウヤに助けられたとき、自分が欲しがったものが強烈すぎて嫌だ。
心のどこかで「ユウヤならそれを与えてくれる」と期待しているのも、嫌だった。
どれだけ自分が浅ましく求めてしまうのか、想像するのも嫌だった。
両親はアルファなので、オメガとして乱れるのを悟られるのも恥ずかしい。
一人になりたかった。
ユウヤには母さんから連絡を入れてもらった。
アイツの誘いを無視してもよかったが、いらない心配をさせるのも嫌だった。
俺は新しく家に設置されたヒートの時期を過ごす「オメガの部屋」に一人で籠った。
バニスタウンでは、オメガがいる家庭には一人にひとつ配布される。
様々な加工がしてあってアルファを狂わす匂いも分解して放出されるし、防音や外からの差し入れもいろいろ考慮され、いざというときにオメガがここに籠ってしまえばアルファがもたらす危険から守られるシェルターのような機能もあった。
その前にゼン先生に受診し、あれこれ薬を処方してもらい、注意事項も聞いた。
それでも、なんとか薬で抑えながらヒートをやり過ごしたが、終わってからもまたもや体調を大きく崩し、学校を早退、欠席を繰り返しながら数週間が経った。
こんな状態だから、ユウヤに連絡を取ることに気が向くはずもなかった。
しびれを切らしたように、ユウヤからメッセージが来た。
俺は最近、癖のようになっているネックプロテクターに手を伸ばし、その革の質感を確かめる。
いつも一緒にいる感覚だったから、連絡を取っていないことに違和感がなかったんだ。
しかし、まだ身体がすっきりしない。
なにもかも億劫になってしまい、すぐに返信をしなかった。
ベッドに横になり、またプロテクターをさわる。
そうしているうちに、うとうとと眠ってしまった。
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