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第9話 不安定な心身の安定のために
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もうすぐジンの四回目の発情期が近づいてきた。
まだ未熟なオメガなので発情期のサイクルも定まっていないらしい。
微かな体温の変化と自分で感じる身体の変化でなんとなくわかるみたいだ。
それに、僕もなんとなくわかる。
……なんとなく、だけど。
三回目の発情期が終わったあと、ジンは約束通りメッセージをくれた。
「週明けから学校に行く」とだけ書いてあった短いものだったけど、僕は興奮しすぎて、その夜眠れなかった。
僕は予約を入れていたいつもの定期健診のため、病院に行った。
ゼン先生の診察室に入るとそこにはジンもいた。
「どうしてジンがここにいるの?
まさか体調が悪くなったとかっ?」
僕はジンの肩を掴んで聞いた。
ジンはにこっとはにかんだ顔をした。
あまりにかわいくて僕は失神してしまうかと思った。
でもそれは一瞬のことだった。
すぐにジンはいつもの仏頂面に戻ってしまった。
けれどゼン先生はにやにやしている。
不思議に思っていると、ジンが僕の前にクリアファイルから次々と書類を出してきた。
大学への推薦入学許可書、最新の健康診断の結果、避妊薬そして精子殺傷剤の処方箋。
僕はわけがわからず、ジンとゼン先生の顔を見た。
おもむろにジンが口を開いた。
「俺は大学に進学する。
だから妊娠するわけにはいかない。
だけどヒートのとき、精神が不安定になって体調も著しく崩してしまう」
初めて知った。
個人差があるけれど発情期は一週間くらいのはずなのに、ジンは一旦休むと二~三週間休んでしまうなんて。
その間連絡もできないくらい。
僕はずっと発情期の名残があるまま、アルファに会うのが嫌なのかと思っていた。
そんなにつらい思いをしていたんだ。
「それでゼン先生や親に相談して、一つの結論に至った。
心身の安定を図るためヒートのとき、アルファと関わることだ」
「それって…!」
それは僕も知っていた。
所詮、本能の強い衝動を薬でなんとかしようとするのは歪んだ行為だ。
一番本能に従うのは、アルファとオメガが関わりを持つことだ。
そうすることで心身ともに満足感を持つ。
しかし、それは妊娠のリスクも負う。
「俺は個体としては強いらしい。
強いオメガとしてどんどん自分が変化しているのがわかる。
だから抑制剤の副作用や反動も大きい。
誰かに抱かれれば、少しは落ち着くらしい」
ジンはそこまで一気に言って、言葉を切った。
「でも誰でもいいわけじゃない」
ぽそっとジンが心もとなげに呟いた。
自分をアルファだと信じていた人がこれを言うのは、とてもつらいことだと思う。
未知なる不安でいっぱいのはずだ。
僕はぐっとジンを見つめる。
「いろいろ考えて、俺が抱かれてもいいと思ったのはユウヤだ。
申し訳ないが精子殺傷剤も使わせてもらう。
勝手なことを言っているのは承知の上だ。
俺を抱いてくれないか」
プライドの高いジンがそんなことを言うなんて、随分屈辱的な思いをしているんじゃないか。
僕は彼が心配になる。
しかし一方で、最近感じている「自分の中のアルファ」の本能がずぐっと動いた。
「ジンとユウヤのご両親には俺から連絡してあるから。
精子殺傷剤は副作用もあるものだし、ユウヤも一度、ご両親と話をしておいで。
病院も全力でサポートするけれど、100%なんてないから」
ゼン先生が言うと、ジンはぶっきらぼうに言った。
「もしうまくいかなくて妊娠したとしても、ユウヤのせいにはしない。
中絶せず、きちんと出産する。
正式な文書にもしたし、俺たちや親、病院のサインを入れるようにしている」
僕は初めてジンの手を両手ですくい上げるように取った。
そしてきゅっと握った。
ジンの手はごつごつしてひんやりしていた。
言葉にはならない僕の感情を手から伝えたかった。
ジンが僕を見てくれている。
随分デリケートな内容で、これまでの自分を全部崩し、まだ受け止めきれないと思うオメガ性のことも飲み込み、その上で僕と、その、えっちがしたいと僕に言うのは、どれくらい勇気のいることだったんだろう。
ジンは切れ長の目で力強く僕に視線を送る。
ああ、なんて強くて綺麗でかわいいんだろう。
僕は涙が出そうになった。
でも、きっと不安でいっぱいだ。
だって抱く側だと思っていた人が抱かれるんだ。
それも自分より頼りなさそうな僕に。
誠実に、いろいろ準備をして、僕に負担をあまりかけないようにして。
「僕を選んでくれてありがとう」
それから、僕は自分の両親とも話し、未成年同士のことなのでジンの両親やゼン先生たちと話を進めていき、僕は発情期のジンと、その、えっちをすることになった。
まだ未熟なオメガなので発情期のサイクルも定まっていないらしい。
微かな体温の変化と自分で感じる身体の変化でなんとなくわかるみたいだ。
それに、僕もなんとなくわかる。
……なんとなく、だけど。
三回目の発情期が終わったあと、ジンは約束通りメッセージをくれた。
「週明けから学校に行く」とだけ書いてあった短いものだったけど、僕は興奮しすぎて、その夜眠れなかった。
僕は予約を入れていたいつもの定期健診のため、病院に行った。
ゼン先生の診察室に入るとそこにはジンもいた。
「どうしてジンがここにいるの?
まさか体調が悪くなったとかっ?」
僕はジンの肩を掴んで聞いた。
ジンはにこっとはにかんだ顔をした。
あまりにかわいくて僕は失神してしまうかと思った。
でもそれは一瞬のことだった。
すぐにジンはいつもの仏頂面に戻ってしまった。
けれどゼン先生はにやにやしている。
不思議に思っていると、ジンが僕の前にクリアファイルから次々と書類を出してきた。
大学への推薦入学許可書、最新の健康診断の結果、避妊薬そして精子殺傷剤の処方箋。
僕はわけがわからず、ジンとゼン先生の顔を見た。
おもむろにジンが口を開いた。
「俺は大学に進学する。
だから妊娠するわけにはいかない。
だけどヒートのとき、精神が不安定になって体調も著しく崩してしまう」
初めて知った。
個人差があるけれど発情期は一週間くらいのはずなのに、ジンは一旦休むと二~三週間休んでしまうなんて。
その間連絡もできないくらい。
僕はずっと発情期の名残があるまま、アルファに会うのが嫌なのかと思っていた。
そんなにつらい思いをしていたんだ。
「それでゼン先生や親に相談して、一つの結論に至った。
心身の安定を図るためヒートのとき、アルファと関わることだ」
「それって…!」
それは僕も知っていた。
所詮、本能の強い衝動を薬でなんとかしようとするのは歪んだ行為だ。
一番本能に従うのは、アルファとオメガが関わりを持つことだ。
そうすることで心身ともに満足感を持つ。
しかし、それは妊娠のリスクも負う。
「俺は個体としては強いらしい。
強いオメガとしてどんどん自分が変化しているのがわかる。
だから抑制剤の副作用や反動も大きい。
誰かに抱かれれば、少しは落ち着くらしい」
ジンはそこまで一気に言って、言葉を切った。
「でも誰でもいいわけじゃない」
ぽそっとジンが心もとなげに呟いた。
自分をアルファだと信じていた人がこれを言うのは、とてもつらいことだと思う。
未知なる不安でいっぱいのはずだ。
僕はぐっとジンを見つめる。
「いろいろ考えて、俺が抱かれてもいいと思ったのはユウヤだ。
申し訳ないが精子殺傷剤も使わせてもらう。
勝手なことを言っているのは承知の上だ。
俺を抱いてくれないか」
プライドの高いジンがそんなことを言うなんて、随分屈辱的な思いをしているんじゃないか。
僕は彼が心配になる。
しかし一方で、最近感じている「自分の中のアルファ」の本能がずぐっと動いた。
「ジンとユウヤのご両親には俺から連絡してあるから。
精子殺傷剤は副作用もあるものだし、ユウヤも一度、ご両親と話をしておいで。
病院も全力でサポートするけれど、100%なんてないから」
ゼン先生が言うと、ジンはぶっきらぼうに言った。
「もしうまくいかなくて妊娠したとしても、ユウヤのせいにはしない。
中絶せず、きちんと出産する。
正式な文書にもしたし、俺たちや親、病院のサインを入れるようにしている」
僕は初めてジンの手を両手ですくい上げるように取った。
そしてきゅっと握った。
ジンの手はごつごつしてひんやりしていた。
言葉にはならない僕の感情を手から伝えたかった。
ジンが僕を見てくれている。
随分デリケートな内容で、これまでの自分を全部崩し、まだ受け止めきれないと思うオメガ性のことも飲み込み、その上で僕と、その、えっちがしたいと僕に言うのは、どれくらい勇気のいることだったんだろう。
ジンは切れ長の目で力強く僕に視線を送る。
ああ、なんて強くて綺麗でかわいいんだろう。
僕は涙が出そうになった。
でも、きっと不安でいっぱいだ。
だって抱く側だと思っていた人が抱かれるんだ。
それも自分より頼りなさそうな僕に。
誠実に、いろいろ準備をして、僕に負担をあまりかけないようにして。
「僕を選んでくれてありがとう」
それから、僕は自分の両親とも話し、未成年同士のことなのでジンの両親やゼン先生たちと話を進めていき、僕は発情期のジンと、その、えっちをすることになった。
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