腕の噛み傷うなじの噛み傷

Kyrie

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第11話 白い巣

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「ヒートの前兆があった。明日からうちに来てほしい」

ジンからメッセージを受け取った。
スマホを持つ手が震えた。
僕は話し合っていた通り両親に知らせ、学校もしばらく休む手続きをしてもらった。




翌日、ジンの家に行くとご両親が出迎えてくれて「オメガの部屋」に案内された。
ジンの両親には僕たちがこれからなにをするのか知られているのかと思うと、すっごく恥ずかしいけれど僕は堂々としていようと努力した。
部屋の前まで来ると、僕は一人、残された。

いよいよだ。
緊張する……

そして僕は何度も深呼吸をし、オメガの部屋のドアをノックした。
すると細い隙間が空き、僕だと確認すると中にいたジンが僕を招き入れた。
部屋にはあの初めてかいだジンの匂いが充満していた。
僕はくらりとした。

「ジン…」

「ユウヤ、大変なことを頼んですまなかったな」

ジンは俯いて言った。
まだそんなことを言っているんだ。
僕はちっともジンを安心させてあげられていないじゃないか。

「僕は、嬉しいよ。
ジンが僕を選んでくれたことも嬉しいし、大変なことを決めてきちんと動いてくれたジンを僕は誇りに思うよ」

僕は一歩踏み出して、ジンに近づいて彼のそばで言った。

そして、ようやく部屋の中をちらりと見ることができた。
部屋の中央にはマットレスの上に白いシーツやタオルでこんもり円いものが作られていた。
僕の視線に気づいたジンが恥ずかしそうに言った。

「よくわからないが、作りたくなって。
うまくはないんだけど」

オメガの中には「巣づくり」と呼ばれる行為をする人がいる。
自分たちが愛し合い、子育てをする場所を作るため、と言われているが、実のところまだ解明されていない。
多くは柔らかな布を使うらしい。

ジンが作った巣は全部、真っ白な布だった。
シーツ、タオル、あれってジンのシャツかな。

円のふちを高くした、鳥の巣みたいだ。

「とってもかわいい巣だよ、ジン」

形は決して整っているわけではなかったけど、ジンが僕と愛し合うために、そして本能が望む子どもを育てるために一枚ずつ布を重ねて作ったのだと思うと、愛おしくてたまらなかった。

「全部、白なんだね」

「ユウヤと子どものことを考えたら、清潔で気持ちのいい場所にしたくて」

ジンは僕を見て、柔らかく微笑んだ。
いつもはきりりとした眉は力が抜けて綺麗な弧を描いている。
すっと通った鼻筋は変わらないけど、目は潤んで温かな茶色。
きつく一文字に結ばれてばかりの唇は、今日はほわっと緩んでいる。

もうダメだ。

「ジン、僕、もう我慢できない」

なんてムードがないんだろう。
僕のストレートすぎる言葉でさえ、ジンは熱い溜息混じりの声で「俺も」と答えた。
香りがぐっと強まる。

僕はジンの手を取った。

「巣に入ってもいい?」

「あんなのでも、いいか?」

ジンは自信なさそうに、上目遣いで僕を見る。

「もちろんだよ」

僕はジンを握る手にぐっと力を籠め、そして彼を連れて二人で巣の真ん中に入って座った。

「キスしていい?」

僕が聞くとジンは俯いてうなずいた。
こっちも緊張して震える手でジンの顎に指をかけ、唇を近づけた。
初めての、ふれるだけのキス。
するとパチンとなにかが外される音がした。ぶおおぉっとジンの香りが急激に強まる。

「ジンっ?
なにしたの?」

閉じていた目を開けるとジンが僕があげた首のプロテクターを外していた。

「すぐにつけてっ!
じゃないと、僕、ジンに」

ものすごい香りに僕のアルファの本能が目覚めていく。
足の先から指の先まで力と自信が満ち溢れる。
そして、目の前のオメガに強い衝動を覚える。

「いいから、噛め」

なに言ってるのっ!
ジンはいつも見せる厳しい眼光と、僕の香りでうっとりとなった視線とで僕を見る。

「そうしたら僕たち番になって」

僕は嬉しいけれど、僕のプロポーズはまだ受けてもらっていない。
あれからずっと、僕たちは恋人のようなやり取りはほとんどしていない。
ジンはいつもアルファらしく、僕はずっとオメガのようだった。

少しずつ、僕に近づいてくるジンを感じてはいたけれど、まだまだだと思っていた。
だから僕は希望する大学を変更した。
もっと強くなって、ジンに安心して好きになってもらえるように。
なにかあったら、ジンを守れるように。
空想のようなものだけど、万が一、僕のプロポーズを受けてもらってそのまま結婚したら生まれてくるだろう、僕たちの子どものために。
そして、なにより自分のために。

いつまでも「未熟な僕」でいたくなかった。
きっちりと成長して、ジンを支えたかった。
自信を持って、彼の前にいたかった。

なのに。

「俺はユウヤの番になりたい。
だから妊娠する可能性がある相手にユウヤを選んだ。
早くっ」

アルファの僕よりも自信に満ち、堂々と僕にプロポーズしてくる。
僕のあのまぬけなプロポーズなんて、どこかに吹き飛んでしまうくらい!


あまりの突然の告白に驚いた。
しかし腰の奥のほうから疼きが噴き上がってくる。

だめだめだめだめだめっ!
冷静になれ、ユウヤ!
ヒートのとき、オメガは不安定なんだ。
それを僕が支えてあげないと。
勢いで、そんな、だめだからっ!

僕は精一杯拒んだ。

だけどアルファの抑制剤を一切使っていない僕にはそんなもの、意味がなかった。
僕はジンを白い巣の真ん中に押し倒し、首を押さえて思いっきりうなじを噛んだ。

あのとき、自分の腕に噛みついたみたいに。








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