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1:アイゼン王国編(チュートリアル)
不死身の文官(ヨーゼフ)
しおりを挟む王領管理人というのは王家に直々に仕える文官貴族のことを言う。自分の領地はない。なにしろ管理運営するのは王家の領地。誇り高き管理人だ。宮廷に居残る連中とは根性が違うのだよ。仕事虫って呼ばれちゃってるからね。
私、ヨーゼフ・バイラーは祖父の代から王領管理人を勤めているバイラー家の当代だ。妻とは離別、子はいない。離別の理由は仕事です。仕事が楽しくて忙しくしていて、家に帰らなくなっちゃったら捨てられました。はい。
まだ四十にはなっていないから、なんとかギリギリどこかで再婚をと思っているうちに、やらかした。
あれです。あれ。勢力争いに巻き込まれちゃってね。……左遷。
ボニファツ王太子殿下は立派だけどまだ若いから、王弟フレーべ殿下とシーレンベック公爵の政権争いが酷くて激しくて。王太子の後見あるいは自分が王位に就きたいってさ。
私は中立派として流れに従ってそよそよしてたんだけどダメだったね。
気がついたら王弟派と見なされてて、公爵派の連中にハメられちゃったってわけなの。横領だって。王領なら預かるけど、横領なんかしないっての!
で、北の果てのガッチガチに寒いエンダベルトを任された。
エンダベルトは土地がひどすぎて、管理人の成り手がいなかった。そりゃそうだよ。寒冷地過ぎて農作物は育たず、凍った山や大地から鉱物が取れることもない。当然、商人も寄り付かないし、何より人が増えない。さすがの管理人もやることがない。
それでも王家の土地だから管理人は必要で、ってわけだ。不遇職。
一応ね、不慣れな寒い土地でがんばったよ。仕事だし。ひとりぼっちで話し相手もなかったけど。
でね、どうやら死んだっぽいんですよね、私。覚えているのはものすごく寒かった夜、掛布にぐるっとくるまったところまで。ハイデマリー様がおっしゃるには、心臓か頭の中でぶちっと血が出たんじゃないかなって。
想像するだけで怖いねぇ……。
エンダベルトには伝説がある。
死神月の新月の夜、誰にも見られずに命を落とした者は死の神ディエス様の御手が届かず、生者の世界を彷徨い歩く者になるっていう怖い話。
怖さが増えたよねぇ……。
でもまあ乾き切った体で目が覚めたところで、ハイデマリー様に文官として採用していただいた次第であります。路頭に迷うところだった。
動く死体になってよかったなぁって思うところは、寝たり食事をしたりしなくても働けるところ。ハイデマリー様のお側には山ほど仕事があるから、毎日楽しくてたのしくて。
やることがあって休まなくてもいいなんて、仕事虫には最高ですよ。
それにねえ、新しい仕事も増えちゃって。
何かって?
一触即発睨み合った相手への交渉死者、じゃなくて使者だよ!
私ったら斬られても死なないし、魔法軸でも死なない。ハイデマリー様は「治癒師には気をつけるのよ」っておっしゃってたけど、敵対している相手に治癒師を差し向けることはしないよね。
とするとどこにでも入っていけるってことです。怖くない。
いや、剣を向けられるとちょっと怖いけど。
シーレンベック騎士団のグビッシュ守備伯爵様への申し出を持って陣地を出たときにはさすがにドキドキしましたとも。心臓はカラカラになっちゃって動いてないから気のせいなんだけど。
グビッシュ守備伯は有名な武人で、人格者で有名だ。けどですよ。シーレンベック騎士団の中には、公爵様が嫌うハイデマリー様を排除したいと思ってる方々も少なくないんですよ。
なので、使者が死者にならないように、最初っから死者を送ろうっていうのがハイデマリー様のお考えだったわけです。
すばらしい……。
グビッシュ守備伯は私を見て、一瞬絶句した。うん、気持ちはわかりますとも。私、本当にカラカラに乾いてるし。
それでも取り乱さずに書状を受け取ってくれたのですごいなあと思いました。
グビッシュ守備伯もアンデッド仲間にならないかなぁって、思ったんですけどね。世の中はそう甘くはないんですよねぇ。
私たちは惜しい方を亡くしましたよ……。
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