駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど

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本編

夫の帰宅②

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「レイチェルはもう部屋に戻れ。あとのことは、こっちで処理する」

 『ほら、立て』と指示する夫に、私は反射的に頷きそうになった。
が、義弟の目配せに気づいて身動きを止める。
と同時に、唇を強く噛み締めた。

 早く言わないと……今ここでハッキリと。

 『お姉様の命が懸かっているんだから』と自分に言い聞かせ、私は小さく深呼吸する。
速くなる鼓動を少しでも鎮めるために。

「あの、旦那様。お話があります」

 少し掠れた声でそう言い、私はゆっくりと顔を上げた。
いつも通りの表情を意識する私の前で、夫はおもむろに手を下ろす。

「なんだ?」

 一先ず用件を聞こうとする夫に対し、私はゆらゆらと瞳を揺らした。
この言葉を言ってしまえば、もう元の関係には戻れないことを考えて。
『こうやって、目を見て話すこともなくなるかもしれない』と思いつつ、私は席を立つ。
と同時に、深々と頭を下げた。

「────私と離婚してください」

「「!?」」

 夫とロルフは僅かに目を見開き、こちらを凝視した。
居心地悪くて身を竦める私の前で、二人は頭を捻る。

「何故だ?」

「何か気に入らないことでも、ありましたか?」

 夫もロルフも怒鳴ったり喚いたりせず、務めて冷静に対応した。
もっと荒々しい反応を予想していたこちらとしては、拍子抜けである。

 多分、二人とも『理由なく、こんなことを言う人間じゃない』と私を信じてくれているのね。
だから、まずは話し合いを持ち掛けてくれた。

 歩み寄る姿勢すら見える夫とロルフを前に、私は罪悪感を募らせる。
────と、ここで義弟が片手を挙げた。

「ちょっと、二人とも。そんなに詰め寄ったら、義姉さんが怖がるよ。いきなり離婚を言い渡されて動揺しているのは分かるけど、落ち着いて」

 私達の間に割って入り、義弟は顔だけこちらに向ける。
心配で堪らない、といった表情を浮かべながら。

「義姉さん、大丈夫?」

「は、はい……」

「本当に?手が震えているよ?やっぱり、怖いんじゃない?」

 『大丈夫じゃない』というていで話を進めたいのか、義弟は半ば捲し立てるように言葉を紡いだ。
かと思えば、少し考え込む素振りを見せてからこう言う。

「良かったら、僕のところにおいでよ。兄さんも居なくて、安全だから」

 『ここに残ったら、何をされるか分からない』と主張し、義弟はじっとこちらを見つめた。
首を縦に振るよう無言で圧力を掛けてくる彼に、私はそっと眉尻を下げる。
こちらの逃げ道を徹底的に塞ぐ気だ、と悟って。

 まあ、ここに残したら旦那様やロルフと結託するかもしれないかものね。
監視するため自分の手元に置いておきたい、と思うのが当然だわ。

 反抗する隙など与えない徹底ぶりに、私は嘆息した。
夫側に事情を打ち明けて頼れたら、と思わなくはなかったから。
『完全にフェリクス様の言いなりとなるしか、なさそう』と考えつつ、私は口を開く。

「……是非お願いします」
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